疾患・特集

心と脳の病気、糖尿病は関わりが深く合併しやすい

うつ病と認知症、糖尿病はそれぞれ関わりがあるので、どちらの病気も合併しやすく、またお互いに悪化させると言われています。東京女子医科大学東医療センターの大坪天平先生が第39回荒川糖尿病セミナーで、それぞれの病気の関わりについて講演した内容を紹介します。

うつ病と認知症、糖尿病など生活習慣病との関係とは

うつ病と認知症、糖尿病など生活習慣病との関係

心の病気と言われる「うつ病」と、高齢者における脳の病気と言われる「認知症」、生活習慣病である「糖尿病」は、それぞれどのような関わりがあるのでしょうか。
東京女子医科大学東医療センター精神科部長・臨床教授の大坪天平先生は、国内外の研究成果などを、2018年6月に開催された第39回荒川糖尿病セミナーの講演で解説しました(同セミナーの講演内容をもとに本記事を作成しました)。

糖尿病がある人や血糖値の変動が大きい人は認知症になりやすい

大坪先生によると、日本ではアルツハイマー病をはじめとした認知症の患者さんは増加の一途をたどっており、福岡県の久山町で長年にわたって住民調査を実施している久山町研究でも同様の結果がみられています。
久山町研究で認知症患者さんの特徴を検討したところ、糖尿病がある人では糖尿病でない人に比べて認知症になりやすいことが明らかになりました*1。特に、糖尿病診断の際に行われる糖負荷試験の2時間後血糖値が200mg/dL以上であると、119㎎/dL以下と比較して、約3.4倍アルツハイマー病になりやすいことがわかりました*2
また、1日における血糖値の変動幅が大きいほど認知機能が低下しやすいとの報告もあります。
糖尿病と認知症との関連として、体内で起きている異常(または変化)に関しては以下が挙げられます。

  • 高脂血症や微小血管障害、終末糖化産物という物質が体内に蓄積することなどにより、酸化ストレスが増える。酸化ストレスにより、神経細胞の変性や細胞死、認知症に関わるアミロイドβという物質が脳内にたまる。
  • インスリン抵抗性が起こることで、脳内でブドウ糖(グルコース)の利用率が下がり、脳の神経細胞がエネルギー不足になって、脳の神経自体が疲弊していく。

うつ病を繰り返し発症して双極性障害になると認知症になりやすくなる

うつ病と糖尿病は合併しやすく、糖尿病と認知症も合併しやすいことが言われています。さらに、うつ病とも関わりがあるとともに、認知症の発症リスクとも言われる、気分の浮き沈み(躁とうつ)を示す病気である双極性障害についても大坪先生は解説しました。

双極性障害は家族歴との関係が強い(家族に同じ病気の人がいる率が高い)病気ですが、うつ病を何回も再発している患者さんにも多いと言われています。うつ病の患者さんを長期間追跡したところ、10年目において、診断がうつ病から双極性障害に2割の人が変わっていたとの研究報告があります*3
うつ病も双極性障害も再発する病気ですが、より双極性障害の方が再発しやすい病気です。うつ病も双極性障害も、気分の浮き沈みを繰り返しているうちに、脳の萎縮が見られるようになります。
脳の萎縮は言い換えると、機能できる神経細胞が減少することです。特に、記憶や感情に関わっている海馬が萎縮すると言われています。海馬は、アルツハイマー病で特に萎縮の目立つ場所なので、気分の浮き沈みは認知症を発症しやすくするというわけです。

以上から、うつ病(こころの病気)、認知症や双極性障害(脳の病気)、糖尿病(生活習慣病)で起こる脳や体内で起こっている変化には関連性があることがわかりました(図)。
うつ病を悪化させないことが糖尿病の改善や、双極性障害、高齢になって発症するアルツハイマー病の予防になるかもしれません。

図:糖尿病とうつ病、認知症、双極性障害との関係 図:糖尿病とうつ病、認知症、双極性障害との関係

図の略語は以下
DM:糖尿病
MI:心筋梗塞
HT:高血圧

提供:東京女子医科大学東医療センター精神科部長・臨床教授・大坪天平先生

公開日:2019/01/07
監修:東京女子医科大学東医療センター精神科部長・臨床教授・大坪天平先生