疾患・特集

糖尿病とうつ病はお互いに影響しあう病気です

最近は、うつ病を合併した糖尿病患者さんでは、糖尿病の病態が悪化しやすいことが問題になっています。うつ病と糖尿病との関わりについて、東京女子医科大学の石澤香野先生に解説してもらいました。

うつ病がある糖尿病患者さんでは糖尿病合併症に注意が必要

うつ病がある糖尿病患者さんでは合併症が重症化しやすい

糖尿病はインスリンの作用不足(インスリン分泌能の低下、インスリン抵抗性)から高血糖が慢性的に続くことにより、全身の細い血管や太い血管に障害が生じて、網膜症や腎症、神経障害、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、足壊疽など、さまざまな合併症が起こりえる病気です。
さらに、糖尿病はうつ病と関わりが深く、糖尿病患者さんでは、糖尿病ではない人と比べて約2倍、うつ病が多くなることが知られています。そして、うつ病がある糖尿病患者さんでは、合併症を発症したり、合併症が重症化しやすいといわれています。
東京女子医科大学糖尿病センターの石澤香野先生に、2つの病気のかかわりについて解説してもらいました(2018年6月、第39回荒川糖尿病セミナーの講演内容をもとに本記事を作成しました)。

糖尿病患者のうつ病発症リスク、うつ病患者の糖尿病発症リスクはともに高い

糖尿病にかかると、食事療法や運動療法といったセルフケアに取り組む必要があります。さらに、一旦合併症を発症すると、合併症の多彩な症状や機能障害に悩まされることになります。
これらのQOLや日常生活の機能の低下が、うつ病の原因となると考えられます。
しかも、うつ病を合併すると、さらに糖尿病患者さんのQOLが低下し、セルフケアが困難になることが問題視されています。
糖尿病とうつ病は双方向的に影響することが指摘されていて、糖尿病と診断された患者さんがうつ病を発症するリスク、うつ病になった患者さんが糖尿病を発症するリスクはともに高いので*1、注意しなければなりません。

うつ病患者さんでは

食行動の変化や身体活動の減少などが生じて、ライフスタイルが変わりやすくなります。
体内で視床下部・下垂体・副腎皮質系といったホルモンの分泌が高まったり、交感神経系のはたらきが乱れたり、炎症反応が活発になって炎症性サイトカインという物質が体内で増加することが、糖尿病の発症や悪化の要因になります(図1)。

糖尿病患者さんでは

食事や運動といったライフスタイルの変更、インスリン自己注射や自己血糖測定といった治療によるストレス、さらには糖尿病合併症の症状や機能障害が精神的負担となって、うつ病を発症しやすくなることが指摘されています。
また、脳内のインスリンの働きが悪くなることによって、認知症に関わるアミロイドβの蓄積に繋がっているのではないかといわれています。高齢患者さんの場合は、認知機能障害や認知症にも注意が必要です(図1)。

図1:糖尿病とうつ病は双方向に関わる

図:糖尿病とうつ病は双方向に関わる

Muzukらの研究報告では、うつ病患者さんでは糖尿病になるのは健康な人に比べて1.6倍(糖尿病発症リスクは60%程度)、糖尿病患者さんがうつ病になるのは1.15倍(うつ病発症リスクは15%程度)と推察されています。

糖尿病患者さんの約3割がうつ状態を合併している

ところで、うつ病を合併している糖尿病患者さんは、どれくらいいるのでしょうか。
海外で、患者さんを対象に自己記入式の調査をした報告では、糖尿病患者さんでうつ症状やうつ状態を含む広い意味でのうつ病の定義が当てはまる患者さんが約25~30%前後、狭義の大うつ病性障害の定義にあてはまる患者さんが9~20%前後とされています。
日本では、東京女子医科大学糖尿病センターの糖尿病診療の実態調査(Diabetes Study from the Center of Tokyo Women’s Medical University,DIACET)の初回調査で、約3割の患者さんが何らかのうつ症状を合併しており、若い患者さんや女性患者さんでうつ合併が多く、うつ症状も重いことも確認されました*2
過去の研究論文を集めて分析した報告によると、糖尿病患者さんのうつ病合併率は、一般人口に比べて2倍前後と高いことが明らかになっており、うつ病と糖尿病の関連の深さを物語っています*3
それでは、糖尿病とうつ病の2つの病気を合併した患者さんには、日常生活なども含めてどのような影響があるのでしょうか。次回に続きます。

  • *1:Mezuk B,et al. Diabetes Care 2008;31: 2383-2390
  • *2:石澤香野,他.東京女子医科大学雑誌 2017;87: E198-E206
  • *3:Anderson RJ, et al. Diabetes Care 2001;24: 1069-1078

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公開日:2018/11/21
監修:東京女子医科大学糖尿病センター 石澤香野先生