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薬を残す糖尿病患者は楽観的?それともあきらめ思考?

働く世代の糖尿病患者さんで治療中断が多いという問題に対し、横浜市立大学の寺内康夫先生は、糖尿病の飲み薬(経口薬)を規則正しく服薬できずに残す患者さんの特徴について研究を実施しています。薬を残してしまう患者さんの性格についても調べています。はたして、楽観的思考なのでしょうか、それともあきらめ思考なのでしょうか。第13回横浜生活習慣病フォーラムで報告しました。

薬を規則正しく服用できずに残す糖尿病患者の生活スタイルや性格を分析

飲み薬を残す患者さん

働く世代における治療の中断は問題です。たとえば、糖尿病の飲み薬(経口薬)を規則正しく服薬できずに残す患者さんのケースなどが挙げられます。
横浜市立大学大学院分子内分泌・糖尿病内科学教授の寺内康夫先生に、服薬アドヒアランスを向上させるための課題を明らかにするために研究を実施しました。
糖尿病の飲み薬(経口薬)を処方されているにもかかわらず薬を残してしまう患者さんの特徴を検討した研究結果(寺内康夫、他. 診断と治療.2017;45(11):1763-1773)から、薬を残してしまう患者さんの特徴について、2018年6月に開催された第13回横浜生活習慣病フォーラム「30~50歳代の治療中断しないためのマネジメント」で報告しました。

飲み薬を残すタイプは楽観的志向もしくは治療あきらめ志向の2タイプ

飲み薬を残す患者さんの理由として多かったのは、「うっかり忘れてしまう」、「外出の際に忘れてしまう」、「食事のタイミングが不規則で服用するタイミングを逸する」などでした。
病気に関する知識や治療に対する意識度、生活スタイルや性格に関する回答を分析したところ、処方された飲み薬を規則正しく服薬できずに残してしまう人の特徴としては、楽観的志向と、治療あきらめ志向の2つのタイプが存在することがわかりました。

楽観的志向は、「自分は軽症で服薬管理は難しくないと考えており、規則正しく服薬することの重要性を軽視しやすい」といった特徴があります。回答は以下です。

回答  
自分の病気は毎日の残業が欠かせないほど重くはない 55%
治療に関する医師からの指示はほとんど守れている 80%
治療に影響するほど、薬の飲み忘れはしていない 86%

治療あきらめ志向は、「フルタイム就労などにより生活が多忙で、服薬管理は難しいと感じており、自身の病態の現状をあきらめている」といった特徴があります。回答は以下です。

回答  
週に7回以上は外食をする 26%
仕事がとても忙しい 38%
以前より病気が進行してきていると感じている 36%

以上から、飲み薬を残す患者さんのタイプは「楽観的志向」と「あきらめ志向」があり、「楽観的思考」の患者さんは服薬遵守(薬を規則正しく飲むことです)を軽視しやすい、「あきらめ志向」の患者さんは仕事などが多忙で服薬管理が難しいことなどの理由で、自身の治療をあきらめていることがうかがえました。
また、最近の薬剤は血糖値を低下させるだけではなく、心臓や腎臓などに対するプラスαの作用を持つ薬剤が登場しています。SGLT2阻害薬やGLP-1*1受容体作動薬などが登場していますし、関東労災病院糖尿病・内分泌内科部長の浜野久美子先生らの研究によると、不規則勤務の患者さんに1日1回の注射剤に変更したところ、患者さんの満足度が向上して、治療効果も良好であったとの報告もあります*2
寺内先生は、患者さんのニーズを踏まえてニーズを汲み取ることが患者さん満足度の向上につながり、治療中断を予防する方策になるとしています。

*1:食後後に血糖を低下させるホルモンのインスリンが膵臓から分泌されるのを促す作用を持つグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬の注射剤
*2:日本職業・災害医学会雑誌2014;62:167-172

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公開日:2018/10/26
監修:横浜市立大学大学院分子内分泌・糖尿病内科学教授 寺内康夫先生