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乾癬の最新治療、生物学的製剤などを解説

乾癬は、皮膚や関節のある部分に炎症という火事やぼやのように炎があがって症状が起こる病気です。そこで、火事やぼやといった炎症に対し、火消しをしてくれる治療の最新動向について、帝京大学の多田弥生先生に聞きました。

帝京大学皮膚科学講座主任教授 多田弥生先生に聞く

薬剤イメージ
写真はイメージです

乾癬は尋常性乾癬という局面型の乾癬の皮疹が見られる病型が9割を占めますが、関節炎も合併することがあります。
治療は難しいと言われていましたが、最近は生物学的製剤(抗サイトカインモノクローナル抗体)をはじめとした炎症を起こす因子をターゲットにした治療薬が登場しています。
帝京大学皮膚科学講座主任教授の多田弥生先生に治療薬について聞きました(第62回日本リウマチ学会学術集会の講演内容をもとに本記事を作成しました)。

生物学的製剤は炎症を起こす因子のTNF-α、IL-17 、IL-23がターゲット

乾癬の皮膚症状に対する治療法は、軽症から重症への治療順に、皮疹にステロイドやビタミンD3の外用剤を塗る外用療法、皮疹に治療効果を有する波長の紫外線を直接当てる光線療法、経口の免疫抑制薬(シクロスポリン、製品名:ネオーラル®)、免疫調整薬(アプレミラスト、製品名:オテズラ®)、ビタミンA誘導体(エトレキナート、製品名:チガソン®)を内服する療法、皮膚における炎症に関わるサイトカインの活性を低下させる生物学的製剤を用いた注射療法があります。
経口の免疫抑制薬や注射の生物学的製剤は、皮膚症状だけではなく、関節炎にも有効です。
生物学的製剤は炎症を起こす因子を抑える薬剤です。

乾癬では、外的刺激や感染などをきっかけに免疫を調節する役割を有する樹状細胞が活性化し、腫瘍壊死因子(TNF)αというサイトカインが過剰に産生され、さらに炎症反応が活発になります。
炎症反応が活発になった樹状細胞から、インターロイキン(IL)-23も産生されるようになり、ヘルパーT細胞(Th)17を刺激します。
刺激されたTh17がIL-17などの炎症性サイトカインを産生するようになり、これらの因子が皮膚の表皮角化細胞(ケラチノサイトともいいます)や関節の付着部に作用する結果、皮膚や関節において炎症が活発になります

これらの機序を抑制する作用を有する薬剤として、TNF-αやIL-17、IL-23をターゲットとした生物学的製剤(抗体医薬、抗サイトカインモノクローナル抗体ともいいます)が開発され、高い効果を発揮しています。
皮膚病変への治療効果を評価する指標にPASIスコアがあります。例えば、PASI75は治療開始前のスコアに比べて75%改善した状態をさします。現在は、生物学的製剤などの治療効果が高くなりましたので、PASI90(皮疹が90%改善した状態)やPASI100(皮疹がなくなった状態でPASIクリアともいいます)も達成率が高くなってきています。

  • ※PASI:Psoriasis Area and Severity Index
    全身を4つの領域(頭部、体幹、上肢、下肢)に分けて、各領域の紅斑、浸潤、落屑、病巣範囲を点数化し、治療開始前のスコアに比べて改善した状態を評価します。

乾癬に対する生物学的製剤は7剤あります

国内では、2018年6月時点で7つの生物学的製剤が保険適応で治療を受けることができます。日本皮膚科学会から承認された施設で治療を受けることができます。

尋常性乾癬/乾癬性関節炎に使用可能な生物学的製剤

  アダリムマブ インフリキシマブ ウステキヌマブ
標的 TNF-αTNF-αIL-12/23
p40
投与法 皮下注射
(自己注射可)
静脈注射皮下注射
投与間隔 2週に1回 0週、2週、6週
以後8週に1回
(4週毎に短縮可)
0週、4週
以後12週に1回
禁忌
  • 重篤な感染症
  • 活動性結核
  • 本剤に過敏症の既往歴
  • 脱髄疾患
  • うっ血性心不全
  • 重篤な感染症
  • 活動性結核
  • 本剤またはマウス蛋白に過敏症の既往歴
  • 脱髄疾患
  • うっ血性心不全
  • 重篤な感染症
  • 活動性結核
  • 本剤に過敏症の既往歴
  セクキヌマブ イキセキズマブ ブロダルマブ グセルクマブ
標的 IL-17AIL-17RAIL-23p19
投与法 皮下注射
(自己注射可)
皮下注射
投与間隔 0週、1週、2週、3週、4週
以後4週に1回
0~12週まで隔週
以後4週に1回
0週、1週、2週
以後2週に1回
0週、4週
以後8週に1回
禁忌
  • 重篤な感染症
  • 活動性結核
  • 本剤に過敏症の既往歴
  • 重篤な感染症
  • 活動性結核
  • 本剤に過敏症の既往歴
  • 重篤な感染症
  • 活動性結核
  • 本剤に過敏症の既往歴
  • 重篤な感染症
  • 活動性結核
  • 本剤に過敏症の既往歴

各製剤 添付文書より(2018年05月時点)

生物学的製剤に関しては、7剤目としてIL-23のサブユニットタンパク質であるp19を特異的に阻害するグセルクマブ(製品名はトレムフィア®)が臨床導入されました。
経口薬では2017年3月に、乾癬の免疫細胞や表皮の細胞内のサイクリックAMP(cAMP)という因子の発現を上昇させることで治療効果を発揮する薬剤としてホスホジエステラーゼ(Phosphodiesterase:PDE)-4という因子を標的としたPDE-4阻害薬アプレミラスト(製品名:オテズラ®)が臨床導入されました。
アプレミラストは、PDE-4阻害により細胞内cAMP濃度を上昇させることで炎症に関わるTNFαなどを抑制し、さらに炎症反応に抑制的にはたらくサイトカイン(IL-10)を多く産生させるという免疫のバランスを調整する作用を有するので、比較的安全性が高く、定期的な血液検査を必要としないのが特徴です。
また、炎症性サイトカインのシグナル伝達の役割を持つチロシンキナーゼの1種のヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)やそのファミリーに属する因子のはたらきを阻害する薬剤も乾癬の経口内服薬、外用薬としての開発が進められています。

乾癬は、皮膚症状(皮疹)が外的刺激を受けやすい部位や伸展する部位に生じ、境界明瞭で厚い鱗屑(りんせつ、銀白色のフケのような病変です)を伴う赤い皮膚の病変〔皮疹で紅斑(こうはん)といいます〕があることが特徴です。皮疹面積が広いこと、爪や頭皮、臀裂部の皮膚炎などがあると、関節の炎症を合併しやすいことも特徴です。
症状にお悩みの方は、皮膚科を受診することがすすめられます。

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公開日:2018/09/14
監修:帝京大学皮膚科学講座主任教授 多田弥生先生