疾患・特集

においでわかる?線虫で癌(がん)を識別

癌(がん)といえば、日本人の死因の第1位。線虫は、「がん患者の尿のにおいに線虫が集まる」という研究結果により、そのがんの早期発見を短時間、安価、高精度に行うことに一役買う可能性があると注目されています。

尿1滴で、早期がんの検出も

がんといえば、日本人の死因の第1位。このがんの解決に最も有効といわれているのが、早期発見です。

このがんの早期発見を短時間、安価、高精度に行うことに一役買うのが線虫、という研究が米国オンライン科学誌「PLOSONE」に掲載されました。

この技術は、「がん患者の尿のにおいに線虫が集まる」という研究結果によるものです。

この技術が実用化されれば尿わずか1滴で検査が可能となるため、患者さんの苦痛がない、診断結果が出るまで約1時間半と短い時間で済む、1検体あたり数百円という安価で検査ができる、などさまざまなメリットがあると期待されています。

では、このような技術がどのように研究されたのか、次にご紹介しましょう。

線虫の優れた嗅覚に着目

がんの患者さんの尿には特有のにおいがある>ことは、臨床現場ではよく知られていることです。

このことを利用して、犬の嗅覚によってがんを発見できないか、という試みは今までにもありました。しかし、犬の能力は集中力に左右され、1日に5検体程度しか調べられず、実用化は現在のところ困難となっています。

そこで、九州大学の研究グループが着目したのが「線虫C.elegans」です。

線虫は体が透明で、細胞の数も1000個程度と生物の中では少ないので(人間の細胞数は37兆個)、細胞の動きが容易に理解しやすく、しばしば実験に使われます。嗅覚に優れた生物で、においに対する反応も走性行動(生物が刺激に対して移動する行動)を指標にすれば簡単に調べることができます。

研究グループががん細胞の培養液に対する線虫の反応を調べると、がん患者のがん細胞と正常な細胞においては、線虫は前者を好むこともわかったのです。

次に、人間の尿について線虫の反応を調べると、がん患者の尿には誘引行動、健常者の尿には忌避行動を示すこともわかりました。

感度95.8%の高精度

このような線虫の能力を利用したがん診断テスト(n-nose)では、がん患者をがんと診断できる確率が95.8%、健常者を健常者と診断できる確率は95.0%という結果を得ました。この結果は、がん患者の人の体内に多く見られる腫瘍マーカー(CEA、抗p53抗体など)の数値で検査する方法に比べて、信頼性が圧倒的に高いことを示しています。

また、n-noseは、コスト面でも1回の検査でかかる金額が数百円と安価であり、早期がんを発見できることも従来の検査と比べて優れている点といえるでしょう。

がんは日本の国民病ともいえるほど身近な病気です。このn-noseが実用化されれば、がん検診受診率が向上し、それによって早期がん発見率が上昇、がんの死亡者数の減少、という効果が期待できそうです。

がんは死に至ることもある病である一方で、早期発見すれば、治療により完治することも十分可能な病気でもあります。また、がんには初期には自覚症状がないことも早期発見を遅らせる原因となっています。

がんの検査もこのような研究により、より簡単に行えるようになってきています。線虫による検査は現在も研究中であり、今後その信頼性について議論がなされていく最中でもあります。線虫によるがん検査を気軽に受診することはできませんが、ぜひ定期的ながん検診を受け、たとえがんであったとしても早期発見、早期治療につなげられるようにしたいですね。

公開日:2016/05/30