疾患・特集

脳震とうを甘く見ることが招く悲劇

格闘技やサッカーなどの接触の多いスポーツや、フィギュアスケートの衝突事故などで起こることもある脳震とうは、脳が激しく揺れ動かされて起きる、外傷性脳損傷の一種。程度が重いと命に関わることもある脳震とうの、症状や起きてしまったあとの対処の仕方など、詳しく解説します。

最悪の場合、命に関わることも…

脳震とうは、脳が激しく揺れ動かされて起きる、外傷性脳損傷の一種です。ボクシング、柔道などの格闘技や、サッカー、ラグビーなどの接触の多いスポーツのほか、フィギュアスケートの衝突事故などでも起きることがあります。多くの場合は頭部への衝撃が原因となりますが、むち打ち症のように、頭部が直接衝撃を受けていない場合に起きることもあります。同じ外傷性脳損傷でも、脳出血や脳挫傷とは違い、CTやMRIなどの画像検査で異常が見つかることは、ほとんどありません。脳震とうが起きると、次のような一過性の症状が現れます。主に頭部に衝撃を受け、これらが1つでもある場合は、脳震とうの可能性があります。

脳震とうの一過性の症状

  • ●一時的な意識の消失
  • ●記憶障害
  • ●めまい
  • ●頭痛
  • ●吐き気
  • ●視界のぼやけ
  • ●バランス感覚の異変
  • ●光や音に過敏になる

…など

日本サッカー協会や日本ラグビーフットボール協会(IRB)は、サッカーJリーグやラグビートップリーグの選手に限らず、一般の人にも適用可能な、脳震とうに対するガイドラインをまとめています。その中で、試合中に脳震とうを起こした疑いがある選手には「今日の試合会場はどこ?」「今は前半?後半?」「自分のチーム名は?」などの質問をするよう定められています。これらに正しく答えられなかった場合は、脳震とうの可能性があるとみなされます。

脳震とうの程度が重いときは、障害が残ったり、命に関わったりすることもあります。さらに、体に及ぼされる影響は、一過性のものとは限らないことが分かっています。NFL (アメリカ・プロフットボールリーグ)を引退した選手を対象に9年調査した研究によると、脳震とうの発生回数が多いほど、うつ病リスクが高まるという結果が報告されています。

体育の授業や部活動で起きる、子どもの脳震とう

体育の授業や部活動で起きる、子どもの脳震とう

脳震とうは成人だけではなく、学校の体育の授業や部活動など、子どもの教育現場でもたびたび起きます。むしろ、子どものほうが脳震とうになりやすく、回復にも時間がかかり、記憶障害や命の危険性などのリスクが高いと言われています。

米国のワシントン大学は、「中学生の女子サッカー選手は、それより年上の選手に比べて脳震とうの発生が多い」という研究結果を発表しています。主な原因は、他の選手との接触やヘディングです。中学生は脳の発達が十分ではないこと、首の筋肉も弱いこと、ヘディングの技術が未熟であることなどにより、大人より衝撃が大きくなると考えられます。

発生から24時間以内は、一人にせず必ず安静を保とう

上述のガイドラインでは、たとえ脳震とうの症状が消失しても、試合や練習には復帰させないことになっています。容態の急変に備え、発生から24時間以内は誰かの目の届く範囲内で一人にさせずに、安静を保つよう定められています。子どもの場合は、症状が消失してから最低2週間は、プレーやコンタクト(接触)を伴う活動はせずに、まずは学校生活に戻ることが推奨されています。
ただし、「頸部が激しく痛む」「意識の混濁がみられる」「頭痛が改善しない」「繰り返し嘔吐する」「ものが二重に見える」などの症状がみられる場合は、すぐに病院へと搬送される必要があります。病院では、症状の分析やコンピューターによる脳機能テストなどが行われます。

日本のプロスポーツや教育の現場では、脳震とうが起きても、安静にすることが守られていない場面が見受けられます。試合や練習にすぐに復帰することを「根性がある」として賞賛する風潮が、今もなお残ります。脳震とうの危険性について理解し、正しく対処することが、プロ・アマを問わず望まれます。

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公開日:2014/12/01