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もし難病になったとしたら?「多発性硬化症」を知る

あるテレビ番組でおなじみだった落語家が、番組を降板するきっかけになった「多発性硬化症」という病気を知っていますか?はっきりとした原因は不明で、30歳前後の若年成人が発病しやすく、男性より女性に多いといわれています。

知っていますか?「多発性硬化症」という難病

あるテレビ番組でおなじみだった落語家が、番組を降板するきっかけになった「多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)」という病気を知っていますか?日本に約12,000人しかいないといわれているまれな病気で、「難病」のひとつだとされています。

昔から原因不明で良くも悪くもならない症状が続き、治療がむずかしくて治りにくいような病気を難病と呼んでいました。そのため、難病はその時代の医療や生活の水準によって変化することがあります。たとえば今では治療のできる結核も、以前の貧しい日本では難病のひとつだったのです。そのあと時代は変わり、豊かになってきた日本。しかし現在の日本でも、いまだ多くの病気が難病だといわれています。

この難病のなかでも123の病気が「特定疾患」といわれており、まさに多発性硬化症がこれです。

特定疾患とは、どんな病気?

  • ・原因不明
  • ・治療がむずかしい
  • ・後遺症を残し社会復帰がむずかしい
  • ・医療費が高額で患者およびその家族にかかる負担が大きい
  • ・患者数が少なく、病気や治療についての研究が必要

「情報のやりとり」がうまくできなくなる病気

私たちは日常生活を送るなかで外部からさまざまな情報を受けとり、それに対応しながら生きています。このはたらきに必要不可欠な神経が、何らかの原因で傷ついたことによってひき起こされるのが多発性硬化症です。

情報を伝える神経の細胞からは、情報の通り道となる細長い神経線維が出ており、これを軸索(じくさく)と呼んでいます。多発性硬化症では、この線維をとり巻いて守っている髄鞘(ずいしょう)という膜のあちこちが傷ついて壊れ、むき出しとなった軸索が硬くなるために、情報のやりとりがうまくできなくなってしまうのです。
電話につながっている電話線が神経だとすると、電話線のあちこちが傷つき、その中身がむき出しになって壊れてしまい、電話がうまくつながらなくなったといったところでしょうか。

多発性硬化症

はっきりとした原因は不明で、30歳前後の若年成人が発病しやすく、男性より女性に多いといわれています。
症状は傷ついた神経の場所によって違い、良くなったり悪くなったりを繰り返します。良い状態を保つ人もいるが、その数は決して多くはありません。後遺症が残ったり場合によっては寝たきりとなって社会復帰ができなくなることもあります。

多発性硬化症の症状

傷ついた神経 症状
視神経 視力の低下、視野が狭くなる
球後視神経 目の奥の痛み
脳幹 ものが二重に見える(複視)、目が揺れる(眼振)、顔の感覚や運動の麻痺、ものが飲み込みにくい、しゃべりにくい
小脳 まっすぐ歩けない、手のふるえ
大脳 少々傷ついただけなら無症状が多い
脊髄 胸や腹の帯状のしびれ、ぴりぴりした痛み、手足のしびれや運動麻痺、尿失禁、排尿障害

神経が傷つくと炎症が起こるため、炎症があるかどうかを調べます。また脳波の検査で情報のやりとりがとぎれる部分をみたり、MRI検査を行って、傷ついた神経の場所を調べます。
急性期には副腎皮質ホルモン(ステロイド)などの薬で治療を行い、急性期が過ぎれば出現している症状に対する治療やリハビリを行います。

もし難病になったとしたら…

ある日、若年成人が多発性硬化症と診断され、長引く治療や介護が必要になったとき、患者さんおよびその家族にかかる身体的、精神的、経済的負担は大きいでしょう。

実は、特定疾患のなかでも多発性硬化症をはじめとした45の病気においては、「特定疾患医療受給者証」の交付を受けることで、治療にかかった費用の一部が助成されるようになっています。
また、同じような悩みをもつ患者さんとその家族が助け合い、病気について理解を深めていく患者会があるだけでなく、都道府県などが主体となり、難病患者さんのための「難病特別対策推進事業」を行っています。とくに都道府県ごとの「難病相談・支援センター」は、電話や面接などによって難病患者さんの療養上、生活上の悩みや不安などの相談にのってくれたり、就労支援も行ってくれる強い味方です。
ただ負担を抱え込むのではなく、このような事業をうまく活用していくべきでしょう。

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公開日:2008/08/11