疾患・特集

働き盛りのあの人が変わった~原因はピック病

新聞などで、「中高年男性の万引き」というショッキングな記事を見かけることがあります。こうしたケースは単なる犯罪行為ではなく、認知症の一種である「ピック病」が原因となって引き起こされる場合があり、働き盛りの中高年男性に増えつつある病気として注目されています。ピック病の実態について紹介します。

中高年男性が万引き?

中高年男性

新聞などで、「中高年男性の万引き」というショッキングな記事を見かけたことのある人も多いのではないでしょうか。多くは50代の働き盛り、しかも社会的地位があり「まさかこの人が?」と思われるような人がボールペンや消しゴム、チョコレートなどといった子どもが欲しがるような物を万引きするといった内容です。これらの事件を起こした当人に罪の意識はなく、釈放後、間もないうちに同じような事件を繰り返すといいます。

こうしたケースはいずれも初老期に見られる認知症「ピック病」であると診断され、働き盛りの中高年男性に増えつつある病気として注目されています。

若年性アルツハイマー病と異なる点は

ピック病は40~60代という比較的若い世代で発症する点が若年性アルツハイマー病と似ています。しかしこの2つには明らかな相違が見られます。まず、異常が起こる部位が異なります。CTやMRIで撮影すると、若年性アルツハイマー病では頭頂葉や側頭葉後部に異常が見られるのに対し、ピック病では前頭・側頭葉に異常が見られるといいます。

また若年性アルツハイマー病では障害、意欲の低下、個性の喪失などの症状が顕著になるのにくらべ、ピック病は人が変わったようになってしまうという特徴があります。無欲・無関心になるのに加え、浪費、過食、収集、窃盗、徘徊などの異常行動が見られるようになります。症状が進行するにしたがって自制力が利かなくなり、粗暴な行動や一方的に話す行為、人を無視したような態度をとることも。性格の豹変振りに家族も驚きを隠せないことが多いようです。

ピック病の問題点

ピック病

先に紹介した中高年男性らのケースでは、ピック病という診断がつかず、万引きという脱法行為によって社会的地位を失い、家族まで巻き込んでしまう悲惨な結末を迎えています。というのも、日本の医学界ではごく一部の専門家をのぞいてピック病という病気の存在すら知られておらず、異常行動は単なる反社会的な行為として片付けられてしまうケースが多いのです。

ピック病はその反社会的な行動だけでなく、しだいに記憶障害や言葉が出ないなどの神経症状が現れ、最終的には重度の認知症に陥るといいます。原因や治療法はまだ十分に分かっていませんが、脳血流を活発にする栄養補給や適切なケアで、悪化を遅らせることは可能と考えられるとする専門医の声もあります。医療従事者や家族、社会全体でピック病に対する知識を持ち、新しい治療法が開発されていくまで患者をサポートしていく必要があるでしょう。

ピック病(初期~中期)のチェックリスト

40歳以降に、あてはまる項目が3つ以上あると疑いがあります。
4、5、7、9は1項目で疑いありです。

  • 1. 状況にあわない行動
    場所や状況に不適切と思われる悪ふざけや、周囲の人に無遠慮で身勝手な行為をします。
  • 2. 意欲減退
    引きこもりや何もしないなどの状態が続き改善しません。思い当たる原因はとくになく、本人の葛藤もありません。
  • 3. 無関心
    周囲の出来事に無関心になったり、身だしなみに気を使わず不潔になったりします。
  • 4. 逸脱行為
    万引きなどの軽犯罪を犯すが反省や説明ができず、繰り返すことが多くなります。
  • 5. 時刻表的行動・繰り返し行動
    散歩や食事、入浴などを時刻表のように毎日決まった時間に行います。やめさせたり待たせたりすると怒ります。
  • 6. 食べ物へのこだわり
    毎日同じもの(とくに甘いもの)しか食べず、際限なく食べる場合もあります。
  • 7. 言葉の繰り返し
    同じ言葉を繰り返したり、他人の言葉をオウム返しします。
  • 8. 好みの変化
    突然甘いものが好きになるなど好みが大きく変わります。酒やたばこなどは以前と違い大量に摂ります。
  • 9. 発語、意味の障害
    無口になったり語彙が少なくなったり、品物の名前や使い方が分からなくなります。
  • 10. 短期記憶の維持
    最近の出来事などの短期記憶は保たれます。日時も間違えず、外出しても道に迷いません。

作成:宮永和夫(群馬県こころの健康センター所長)

公開日:2007/10/29