エコノミークラス症候群は長い間、同じ姿勢でいると起こりやすい病気。どんなときに起こるのか、その症状や原因を紹介する。
2000年9月、ニューヨークから成田空港に到着した愛知県の53歳の女性が空港に降りた直後に具合が悪くなり、心肺機能が止まり死亡するという事件が起こった。
なぜこのようなことが起こったのか。長時間、同じ姿勢でいたためにふとももの付け根やひざの裏の静脈に血栓(深部静脈血栓)が生じ、立ち上がって歩き始めた瞬間に血流に乗って流れ始め、肺で詰まってしまったためだ。正式には、「肺動脈血栓塞栓症」と言い、呼吸困難から死に至ることも珍しくない。
成田空港だけでも年間150件ほど発生しているそう。
エコノミークラスに座っていた人に起きやすいため、「エコノミークラス症候群」と呼ばれている。
飛行機の中は非常に乾燥していて、湿度は20%以下に。1時間におよそ80ミリリットルもの水分が失われていると言われている。12時間乗っていると、約1リットルもの水分が失われる計算になるのだ。
体の水分が失われると、血液が濃くなり粘り気が増す。そうなると、血のかたまりができやすくなるのだ。さらに、狭い座席に同じ姿勢でずっと座りつづけていることで、脚が圧迫されて静脈の血の巡りが悪くなり、やはり血栓ができやすくなる。
飛行機が着陸後、立ちあがって歩き始めたとき、その血栓が血流によって流れ、心臓に戻ってくる。心臓内の血管は比較的広いため、そこで詰まることはないが、肺まで流れていったところで、血管を詰まらせてしまうのだ。
エコノミークラス症候群が起こるまで
「エコノミークラス症候群」という名称から、「エコノミークラスだけで起こるもの」と思う人もいるかもしれないが、実はエコノミークラスに限った話ではない。ファーストクラスでも、また車や電車などでも長時間じっとしていた後に急に動き出すと、エコノミークラス症候群同様の肺塞栓症が起こることもある。
ちなみにこの肺塞栓症、乗り物だけの話でもない。主に、長期の入院で寝たまま(下肢の骨折など)だった患者が起きあがってやっと動けるようになったと思ったとたん、肺塞栓症になることも。
最近では、「エコノミークラス症候群」という名称がエコノミークラスだけで起こるものだという、誤解を招く場合があるため、「旅行者血栓症」という名称に変更しようとする動きもある。