疾患・特集

ここが知りたい!アレルギーQ&A

「体質だから仕方ない…」と諦めがちなアレルギーのこと。国の取り組みやステロイド剤の使い方などについて、猪熊先生に質問してみた。

アレルギーを誘発しやすい油ってどんなものですか?

アレルギーを誘発しやすい油 「リノール酸系の油とアレルギーとの関連性が指摘されています」

猪熊先生

リノール酸系の油とはべに花油やコーン油といったもの。動物性油脂が高コレステロールの原因だと言うことで敬遠された時期があり、その反動でべに花油やコーン油といった植物油が多く使われることになりました。小さいお子さんがよく口にするようなスナック菓子や揚げ物がこうした油で作られていては、アレルギー予備軍の子どもたちはどうしても増えてしまいますよね。ただ、リノール酸の油が体に悪いということではありません。油分は体にとって必要なものですが、動物性脂肪、リノール酸、α-リノレン酸(シソ油、魚油など)からまんべんなく摂るように心がけてください。どれかひとつだけを摂っていればいいというものではないのです。

今後さらにアレルギー患者が増えそうですが、日本は国を挙げて対策をとっているのですか?

猪熊先生 「各省庁で研究費をつけるなどして取り組んでいるようです」

気管支ぜんそくやアナフィラキシー(全身性の強いショック症状)は生命に関わることもあります。気管支ぜんそくによる死亡は減ったとは言え、年間数千人に及びます。また、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎はそれぞれ全人口の10%前後の患者さんがいると言われ、ほかにはない罹患率なんです。国としても医療費削減のために大いに取り組むべき課題として認識していると思います。アレルギー問題を解決するには、食事と住環境の両面から取り組む必要があり、厚生労働省・文部科学省・環境省・農林水産省などで研究費をつけて取り組んでいます。また、東京都でもディーゼルエンジン問題を積極的に取り上げています。

食物アレルギーについて、いろいろある栄養素のうちたんぱく質が原因となるのはなぜ?

猪熊先生 「もともと日本人の腸はでんぷん消化型にできていて、西欧人ほどたんぱく質消化力が強くないことに原因があるのではないかと考えられます」

たんぱく質

たんぱく質がアレルギーの原因となるには、ある程度の分子量が必要です。胃や腸で十分に消化されているのであれば、アレルゲンとなることはありません。日本人は本来農耕民族で、穀物やイモを消化するのに都合のよい長い腸を持っています。その日本人が、急に高タンパク・高カロリーの西欧型食生活に切り替わってしまったことで、今日さまざまな変調を来たしているようです。大腸がんが増えたのもこのためと言われていますが、食物アレルギー増加についても無縁ではないように思います。

ステロイド剤の使用について、不安も多いが医師の指示に従えば本当に大丈夫?

猪熊先生 「お医者さんの指示に従って使えば、とてもいい薬ですよ!」

ステロイド剤

ステロイド剤は、人類が獲得した薬の中でも抗生物質などと並んで最重要なもののひとつに確実に入ります。ステロイドは私たち自身が毎日体内で作っている物質です。副腎(ふくじん)という臓器から分泌されるホルモンで、体内の代謝にも関わりますが、まずは体のリズムを作る、しゃんとさせるなどのはたらきがあり、体内で起きている炎症を軽くする作用があることが知られています。また、医師のほうでもステロイド剤をどう使えば副作用が少なく、効果的に使えるかといった知識が蓄積されています。ですからお医者さんの指導に基づいて使えば、こんなにいい薬はないと思いますよ。
ただし、いくつか注意があります。まず「ケチらない」こと。必要なだけの量を十分使ってください。次に、「勝手にやめない」こと。ステロイド剤は、一定期間使ったらあとは緩やかに量を減らしていく漸減(ぜんげん)するという原則があります。そして「効かなかったら他の療法に切り替える」こと。いずれも素人判断ではなく、きちんとお医者さんと相談しながら使うことが大切です。

長く医療の現場に携わっている猪熊先生によれば、「アレルギーの要因は食生活、住環境など多岐に渡っていて、どれかひとつに原因があるというものではありません」とのこと。「また、寄生虫や細菌感染の発症率が非常に低下するに伴い、アレルギーのような病気が増えてきているという説もあります。社会の疾病(しっぺい)構造が大きく変わりつつあることも、無視できない要因ですね」。今後の日本では、どうしてもアレルギーとの関わりが大きな問題になりそう。私たち自身で正しい知識を持って、うまくつき合っていく方法を考えたいものだ。

■猪熊茂子先生

猪熊茂子先生

都立駒込病院アレルギー膠原病科部長。第15回日本アレルギー学会春季臨床大会会長。東京大学医学部卒業後1981年から都立駒込病院にて勤務。獨協医科大学医学部非常勤講師、東京大学医学部講師、昭和大学客員教授を兼任。 専門は膠原病、慢性関節リウマチ、血管炎・気管支喘息、アナフィラキシー、薬剤性障害など。