疾患・特集

アレルギーはひそかにやって来る

花粉症やアトピー性皮膚炎といったアレルギー症状に悩む人は多い。日本ではアレルギー予備軍が急増中とも言われ、誰にとっても他人事ではない問題だ。 都立駒込病院アレルギー膠原病科の猪熊茂子先生に、日本におけるアレルギーの現状やアレルギー対策について教えてもらった。

大アレルギー時代の到来!?

アレルギーとはご存知「免疫の異常反応」のこと。体内に侵入した異物を排除するためのシステムを「免疫」と呼ぶが、本来の免疫機能が過剰にはたらき、人体に悪い影響を及ぼしてしまう状態が「アレルギー」なのだ。

免疫機能は皮膚と粘膜に現れるが、大きく4つに分類できる。狭義の「アレルギー」はI型だが、一般には、Ⅰ型とⅣ型を指す場合が多い。

免疫機能の分類

即時型
ほんの数分で症状が現れる
Ⅰ型 ぜんそく、じんましん、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシー・ショック*、多くのアトピー性皮膚炎
遅発型
8~15時間後に症状が現れる
Ⅱ型 多くの薬物アレルギー、自己免疫性溶血性貧血、重症筋無力症、不適合輸血など
Ⅲ型 血清病の腎炎、関節炎、糸球体腎炎、SLEの腎炎、過敏性肺炎など
遅延型
24~48時間後に症状が現れる
Ⅳ型 ツベルクリン反応、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎の一部

アナフィラキシー・ショック…薬剤や昆虫の毒などによって起こる全身性の強いショック症状

今日の日本では、花粉症やぜんそくなどのアレルギー疾患にかかりやすい体質の若者が年々増加中と言われているが、猪熊茂子先生は、

猪熊茂子先生

「1980年代の終わり頃を境に、確かにアレルギーの患者さんが変化したように思います。それまではぜんそくで入院する方が多かったのですが、ぜんそく治療が進歩して、替わりにアトピー性皮膚炎などを含むほかのアレルギーの患者さんが増えてきました。日本で特にアレルギー予備軍が急増しているような印象があるのは、日本の衣食住環境が、劇的に西欧化したからではないでしょうか」と言う。

「アレルギーが多くなってきたことの背景には食事の問題と住環境の問題、大気汚染の問題が考えられます。食事で言えば油の摂取の仕方とたんぱく質が原因になっていることがわかっているし、住環境についてはダニの問題ですね。日本人にとってはダニのかけら(死がい)がアレルギーを引き起こす大きな要因なのです。マンションのように密閉され、エアコンで常時25℃前後に設定された部屋は、実はダニにとってもとても住みやすい環境なんです。布団やソファ、カーペットなどダ二のすみかも十分ありますしね。また、ディーゼルエンジンの排出ガスもアレルギーに悪影響を及ぼすことがわかっています」

「戦後の短い時間の中で、日本はがらっと生活環境が変わってしまいました。西欧化と言いますが、ヨーロッパなどの国々では長い間こうした環境に住み慣れているのに対し、日本人の場合は環境の変化によるアレルギーの増加が目立っているようです」

アレルギー疾患有症率
全国調査におけるアレルギー疾患有症率(%)

■乳幼児(0~5歳)

  ぜんそく・ぜん鳴 アトピー性皮膚炎 アレルギー性鼻炎 アレルギー性結膜炎 何だかのアレルギー疾患
19.810.28.62.530.8
15.710.45.22.925.8
全体 17.910.36.92.728.3

■小・中学生(6~15歳)

  ぜんそく・ぜん鳴 アトピー性皮膚炎 アレルギー性鼻炎 アレルギー性結膜炎 何だかのアレルギー疾患
12.37.122.610.635.3
8.57.916.211.529.9
全体 10.47.519.51132.6

■16歳以上

  ぜんそく・ぜん鳴 アトピー性皮膚炎 アレルギー性鼻炎 アレルギー性結膜炎 何だかのアレルギー疾患
4.51.720.611.328.2
4.11.923.316.732.8
全体 4.31.82214.230.6

出典:厚生省アレルギー総合研究事業研究班・厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー疫学の研究より(1992~1996)

年齢に応じてアレルギーも変わる「アレルギーマーチ」

アレルギーマーチ アレルギーマーチ

赤ちゃんの時には卵や牛乳で腹痛・下痢などの消化器症状や湿疹など皮膚症状を起こし、2~3歳になってからはさらに花粉症などのアレルギー性鼻炎にかかる…。このように年齢に応じて発症するアレルギー(Ⅰ型)が変わっていく様子を「アレルギーマーチ」という。ただ、ひとつひとつの症状がどんどん重くなっていくことはなく、ひとつの症状が改善したら、次の症状が出るケースが多い。

アレルギーマーチからわかることは、年齢が上がるにつれてアレルギーの原因物質が食物たんぱく質からダニやハウスダストへ、さらに花粉へと変化していくことだ。
「生まれたばかりの赤ちゃんは外へ出ることがあまりないですよね。最初にさらされる異物は何かというと食物なんです。腸管の壁がまだ未成熟で丈夫でないうちは、食餌(しょくじ)性のアレルギー反応を起こしやすいと考えられます。年齢とともに変化するアレルギーマーチですが、もちろん途中で治っていく方もいます」

「ただ、アレルギーは体質の問題。アレルギー体質であれば、いつかは発症してしまう可能性が高いのです。それまでアレルギーと無縁に過ごしてきた人でも、40歳を過ぎてぜんそくで入院、なんてこともあるんですよ。リンパ球が抗原と何度も接触を繰り返し、できたIgE抗体がある水準まで蓄積されたときが発症のスタンバイ。私たちの気付かないうちに、ひそかにアレルギーはやってくるのです」

食物アレルギーに負けるな!

特定の食物が原因となる食物アレルギーもⅠ型アレルギーのひとつ。アレルギー物質は多種多様で、牛乳、卵、魚類、エビやカニといった甲殻類、米、小麦、そば、大豆、乳製品などなど、ほとんどの食物にアレルギーを起こす可能性がある。
こうした食物にはたんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルといったさまざまな物質が含まれているが、アレルゲンとなるのはある種のたんぱく質だけである。食物が消化される過程でたんぱく質は胃や腸などで小さく分解されるが、未消化のまま体に吸収されるたんぱく質もあり、これがアレルゲンとなってしまうのだ。腸管を通して吸収された食物たんぱく質(アレルゲン)は血液によって体のいろいろな場所に運ばれ、アレルギー症状を起こすことになる。

食物アレルギーの症状 食物アレルギーの症状

「食物アレルギーは時にアナフィラキシー・ショックと呼ばれる危険な全身症状を引き起こすことがあるので、決して軽んじてはいけません。今では知識が普及してきましたが、やはり自分で『何を食べたら症状が出た』といった記録をつけておき、いつも食品表示をチェックすることを心がけることが大切です。原因がどうしてもわからず、繰り返し症状が出ているようなときは、抗アレルギー剤を飲んだり、発作が始まったときに注射をして抑える薬も出ています」

■猪熊茂子先生

猪熊茂子先生

都立駒込病院アレルギー膠原病科部長。第15回日本アレルギー学会春季臨床大会会長。東京大学医学部卒業後1981年から都立駒込病院にて勤務。獨協医科大学医学部非常勤講師、東京大学医学部講師、昭和大学客員教授を兼任。 専門は膠原病、慢性関節リウマチ、血管炎・気管支喘息、アナフィラキシー、薬剤性障害など。