疾患・特集

唾液で知る老化のサイン!オーラルフレイルをチェックしよう

監修:李昌一先生(神奈川歯科大学歯学部歯学科 健康科学講座 災害歯科学 分野長/教授)

多くの人が「年より若く見られたい、年より若くありたい」と願っています。年を取るにつれて老化の個人差が大きくなってしまうことも事実で、それも見かけだけでとどまっているのであれば化粧や服装でカバーできるかもしれませんが、同じ年齢の人よりも老けている、健康状態が悪いとなるとこれは問題です。では、どうすればいいのでしょうか。李昌一先生は、「年相応以上に若くあるためには口の中に気を遣うことが重要です。体が老化のサインを出す前の若い世代から気をつけてください」と述べられています。

監修:李昌一先生(神奈川歯科大学歯学部歯学科 健康科学講座 災害歯科学 分野長/教授)

老け方に個人差があるのはなぜ?

イメージ:「活性酸素」と「抗酸化システム」のバランスの乱れ

人は誰でも年を取り、老化していきます。老化は外見にも健康にも現れますが、その程度の個人差は年を取るほど大きくなっていきます。では、どうして個人差が出てきてしまうのでしょうか。その大きな原因が「活性酸素」と「抗酸化システム」のバランスの乱れの差です。

活性酸素は、ウイルスや細菌などの外敵から体を守るために白血球などの免疫細胞が備えている重要な武器ですが、同時に正常な細胞まで攻撃してしまい、その結果、全身の筋肉や血管の細胞がダメージを受けることになります。そのため、人の体には活性酸素が過剰にならないようにする抗酸化システムというものが用意されています。

若いうちはこの2つのバランスがうまく取られていますが、年を取るにつれて抗酸化システムがはたらきづらくなり、活性酸素をうまく処理できなくなります。このような変化は生理的なものであり誰にも起こりますが、バランスの乱れの程度には個人差があり、高齢になるほどそれが大きくなります。逆に言えば、活性酸素と抗酸化システムのバランスの乱れを小さくすれば、生理的な範囲内に老化をとどめることができるということになります。

「フレイル」の段階であれば健康な状態に戻せる

人は誰でも年を取ればさまざまな病気にかかりやすくなり、体の機能が衰え、サルコペニア*1やロコモティブシンドローム*2などを発症し、やがて要介護状態になる可能性も高まります。できるだけそうならないようにするための対策のひとつが「フレイル」という考え方です。
フレイル(虚弱)」は身体的機能や認知機能の低下がみられる状態のことですが、「生活習慣の改善などで年相応の機能を取り戻せるかどうかの境目」を意味している点で重要です。フレイルは年齢の高い方が注意をしていただくことはもちろん重要ですが、昨今の新型コロナウィルス感染予防対策で外出を控えることにより、活動量の低下や人との交流が減り若い世代もフレイルのリスクがあることが問題視されています。
年相応の機能を取り戻すうえで重要な対策のひとつが「食事で十分な栄養を摂る」ことです。十分な栄養を摂るときに問題となるのが、食事にとって欠かせない「口」です。実は、フレイルの最初の兆候が現れるのが口の機能の低下になります。そこで「オーラルフレイル(口の虚弱)」という考え方が提案されました。
つまり、口の健康が衰えているのを発見し、早くから対策することで、要介護状態になるのを防止しようということです。

図:フレイルの段階

  • *1:サルコペニア:加齢に伴い、筋力や筋肉量が低下していく現象。
  • *2:ロコモティブシンドローム:骨や関節、筋肉などの運動器の障害によって、自力での歩行などが難しくなり、要支援・要介護の状態になっている、あるいはそうなる危険性が高い状態

オーラルフレイルの兆候

口には、食べ物を咀嚼する、咀嚼したものを飲み込むという食事に関係する機能のほかに、言葉を発する、これらを行うときに唾液を分泌するという機能があります。
ところが、オーラルフレイルの状態になるとこれらの機能が衰えて、食べこぼす、うまく飲み込めずむせる、滑舌が悪くなる、口の中が乾く、やわらかい食べ物を好むといった兆候が現れます。
次のような兆候を頻繁に自覚するようであれば、オーラルフレイルの状態を疑ってみましょう。

オーラルフレイルの兆候

・ 食べこぼす
・ うまく呑み込めずむせる
・ 活舌が悪くなる
・ 口の中が乾く
・ 流動食を好む

唾液からオーラルフレイルの状態を知る

オーラルフレイルの程度は唾液で簡単に調べることができます。
唾液には強力な抗菌作用があり、虫歯や歯周病の発症を防いでいます。同時に、抗酸化作用もあることから、口の中の過剰な活性酸素から正常な細胞を守る役割も果たしています。
健康な人であれば、1日に1.0~1.5Lの唾液が分泌されていますが、何かの原因により唾液の量が減るとたちまち口の中の活性酸素が過剰になり、正常な細胞がダメージを受けてしまいます。困ったことに、唾液を分泌する唾液腺の細胞は活性酸素に対してもとても弱いので、唾液量の減少は悪循環を起こしてしまいます。
また、活性酸素は筋肉の細胞にもダメージを与えますので、口の中で増えれば咀嚼や食物を飲み込む力が衰え、オーラルフレイルの兆候が現れます。さらに、口の中の血管も活性酸素によりダメージを受け、歯や周りの組織に栄養が行き渡らなくなるため、菌の増殖とは別のメカニズムで歯周病が悪化してしまいます。

唾液の量と唾液に含まれる活性酸素の割合を調べることで、オーラルフレイルの程度や自身の今の状態を知ることができます。
例えば、唾液の量が正常よりも少なくなっていれば、オーラルフレイルの可能性が考えられます。
また、唾液中の活性酸素の状態は、歯周病や生活習慣の乱れによる全身への影響を知る手がかりになります。唾液に含まれるスーパーオキシドヒドロキシルラジカルの割合によって、活性酸素の状態を知ることができるのです。

図:活性酸素の変化

スーパーオキシドは活性酸素の一種で、健康であればSOD(スーパーオキシド不均化酵素)と呼ばれる酵素の働き(抗酸化作用)によって消去されるので唾液中に多く含まれる割合は低くなります。それに対して、唾液中のスーパーオキシドの割合が高ければ抗酸化作用が弱まっていることを意味しますので、オーラルフレイルの状態にあると考えられます。そして、唾液中のスーパーオキシドの割合が高くなるほど歯周病や生活習慣病が進んでいる可能性があると考えられます。

もうひとつのヒドロキシルラジカルは、スーパーオキシドが還元されてできる活性酸素の一種です。残念ながら、人の体内にはヒドロキシルラジカルを消し去る酵素がありませんので、唾液中のヒドロキシルラジカルの割合が高いということは、口の中にとどまらず全身の筋肉や血管の細胞がダメージを受けて歯周病や生活習慣病が進行している可能性を意味します。

  • ●唾液量が少ない
     …オーラルフレイルの可能性
  • ●唾液中の活性酸素の状態:
    ・スーパーオキシドの割合が高い
     …歯周病や生活習慣病が潜んでいる可能性
    ・ヒドロキシルラジカルの割合が高い
     …口の中にとどまらず全身の筋肉や血管の細胞がダメージを受けて歯周病や生活習慣病が進行している可能性

このように、唾液の量とその中に含まれる活性酸素の割合を測ることで、オーラルフレイルの状態と歯周病や生活習慣病の進み具合を知ることができます。検査キットもありますので、調べてみるといいでしょう。

オーラルフレイルを改善するには

オーラルフレイルの段階であれば、健康な状態に戻すことができます。では、それを実現するにはどのようにすればよいのでしょうか。

唾液の分泌を促す

唾液は過剰なストレスがかかることで出づらくなります。十分な栄養と睡眠や休息を取って、できるだけストレスのかからない生活を送るようにするとともに、楽しい時間を増やすようにします。親しい人たちと会う機会を増やし、楽しい食事で咀嚼することや、会話を楽しむのは唾液の分泌を促す上でよい方法です。
また、唾液が出づらくなる原因のひとつに薬の副作用が挙げられます。副作用についても検討しながら、服用薬について主治医と相談してみましょう。

日常の適度な運動を心がけ、バランスのよい食事を摂る

適度な運動は活性酸素を減らす、抗酸化効果がありますが、激しすぎるとかえって活性酸素が増えてしまいますので注意しましょう。最も望ましいのは、普段の生活の中で体を動かすことです。掃除や洗濯などの家事をする、通勤で歩く、なるべく階段を使う、散歩をするなどの活動を習慣づけるとよいと思います。

食事は、筋肉を落とさないために栄養を摂ることや唾液の分泌を促すことも含めて、フレイル対策において最も重要です。一般に、体の中では合成できない抗酸化物質にはポリフェノールとカロテノイドが挙げられ、ポリフェノールはブルーベリー、大豆、ごま、そば、緑茶などに、カロテノイドは食黄色野菜、果物、エビやカニ、鮭や鱒などに含まれるとされています(厚生労働省 e-ヘルスネット)。
もちろん、このような食材に拘るものいいのですが、これらの多くは日本の伝統食に使われてきたものばかりです。仮に、西洋的な食事ばかりしているとか、偏ったものばかり食べているということであれば、それを日本の伝統的な食事に戻すということでよいと思います。例えば、高齢になると若い頃は食べなかった山菜を好むようになるというのは、年を取って抗酸化システムの機能が低下してきた体が自然に欲しているからだと考えられます。
なお、加工食品はそれ自体が活性酸素を増やす原因にもなりますので、可能な範囲で天然の食材を選ぶようにしましょう。スイーツは一般によくありませんが、チョコレートはカカオが材料ですので、高い抗酸化作用があるので、例外的によい加工食材と言えます。できるだけ高カカオと呼ばれるカカオポリフェノールの配分量が多いものを選ぶとよいでしょう。

口の中に気を遣う

おそらく、歯医者に行くのが好きだという方は多くないと思います。理由は明白で、痛い思いをした経験があるからです。口の健康は全身の健康に大きくかかわっています。痛くならないうちに、全身の健康増進、健康寿命を延ばすためにも口腔ケア、歯医者を定期的に受診し健康を維持するよう意識しましょう。
歯医者は痛い治療を受けるところではなく、そうなる前に定期的に通って診てもらうところです。現在、全国民に毎年の歯科健診を受けてもらう「国民皆歯科健診」の導入検討が進んでいます。虫歯や歯周病にならないように予防診療をし、オーラルフレイルを未然に防ぎ、発見した場合は健康な状態に戻すためのサポートをするというのがこれからの歯科診療だと思います。このような診療を実現するには、診てもらう側も歯医者の側も考え方を変えなくてはなりません。他の診療科にはない歯医者のいいところは、子どもの頃から年を取るまでずっと診続けることができる点ですので、これを活かさない手はないと思います。

3ヵ月を目安にチェックしよう

イメージ:検査をする女性

さて、老化の始まりはオーラルフレイルであること、オーラルフレイルを見つけて対策を行えば、体を年相応に健康な状態に戻すことができる可能性のあることをご理解いただけたと思います。まずは検査キットなどを使い自分の唾液の状態を知りましょう。もしオーラルフレイルの可能性があれば、年相応に健康な状態に戻せるように、対策を実行していただきたいです。大事なことは対策を続け、チェックすることです。そのためにも大体3ヵ月を目安に検査を行い、それまでに行ってきた対策の成果を実感することをおすすめします。
その際、改善が見られることを期待するのはもちろんですが、現状維持にとどまっていたとしても及第点をあげましょう。悪くならないことが続くことも、とても大事なことです。体にとって活性酸素を消す、抗酸化となる良い習慣の継続こそが、健康寿命を延ばす秘訣です。

公開日:2022/09/14
監修:李昌一先生(神奈川歯科大学歯学部歯学科 健康科学講座 災害歯科学 分野長/教授)