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子宮頸がん予防に大切な2つのこと-ワクチンと定期検診について解説

子宮頸がんの原因となるハイリスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染予防にはワクチンが有効とされています。日本では2013年に積極的勧奨が差し控えられたこともあり、接種率が低い状態が続いていましたが、2020年以降は徐々に接種率が上昇しています。子宮頸がんはどのように予防することができるのか、ワクチン接種による一次予防と検診による二次予防(早期発見)の2つの方法について解説します。

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写真:三輪綾子先生(THIRD CLINIC GINZA 院長)

■この記事の監修医師

THIRD CLINIC GINZA 院長
三輪綾子 先生

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
一般社団法人 予防医療普及協会 理事
HelCのアドバイザリーボード

子宮頸がんの予防は2段階

子宮頸がんの予防は2段階

・一次予防:ウイルス感染を防ぐ
・二次予防:異変を早期発見する

子宮頸がんを完全に予防する方法はありませんが、その原因の多くがハイリスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染であることがわかっていますので、HPVの感染を防ぐ一次予防(HPVワクチン)と、異変を早期発見する二次予防(検診)のどちらも行うことで、予防効果を高めることは可能です。
子宮頸がんの2段階の予防について見ていきましょう。

ウイルス感染を防ぐ(一次予防)

子宮頸がんとHPVの関係性

子宮頸がんの予防のうち最も早い段階で行うべきことは、ウイルス感染を防ぎ原因を排除すること(一次予防)です。子宮頸がんの主な原因となるのは、ハイリスク型の「ヒトパピローマウイルス(HPV)」。HPVに感染しても多くの場合は自己免疫力でウイルスを排除でき、自然に回復することから、必ず子宮頸がんになるわけではありません。しかし、HPVへの感染が原因で細胞が変化、最終的にがん化してしまう場合があります。そのため、がん化する可能性が高くなくとも、HPVへの感染を防ぐことは、子宮頸がんの予防として有効です。

HPVへの感染経路

HPVの主な感染経路は性交渉です。HPVはありふれたウイルスであり、性交渉を持った女性であれば、誰でもかかる可能性があります。一般女性のHPV感染率の調査結果によると、女性の4人に1人以上がHPVに感染しているといわれています。

HPVの感染を防ぐにはワクチン接種が有効

HPVの感染予防に効果的なのはHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチンとも言われています)です。HPVにはさまざまな型があり、中には子宮頸がんを起こしやすい型(ハイリスク型と言われています)があります。ワクチン接種は、特に子宮頸がんに進むリスクが高いとされているHPV16型とHPV18型の感染予防に有効です。

HPVは外陰部や肛門などにも存在するため、コンドームの使用だけでは予防できません。ワクチンを接種し、HPVの感染を予防しましょう。

前がん病変を早期発見する(二次予防)

HPV感染から子宮頸がんとなるまで

図:HPV感染から子宮頸がんとなるまで

子宮頸がんの予防として、次に行うべきは前がん病変の早期発見(二次予防)です。ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した女性のうち、多くは自己免疫力で自然に排除されますが、一部の方の細胞に異変が起こることがあります(「異形成」「前がん病変」)。途中で自然に正常化することもありますが、正常化しない感染細胞はがんとなります。HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は、数年から数十年ともいわれています。

前がん病変の早期発見には子宮頸がん検診が有効

異形成、前がん病変の段階では、自覚症状はほとんどありません。しかし、子宮頸がん検診を受けることで、今後がんになるかもしれない前がん病変を発見できます。命の危険を防ぐためには、定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です。

子宮頸がんの一次予防:予防ワクチンの接種

子宮頸がんの予防として、一番初めに取り組むべきなのは、予防ワクチンの接種です。ここでは、その子宮頸がんの予防ワクチン(HPVワクチン)について解説します。

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)とは

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)とは、子宮頸がんの主な原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染そのものを防ぐワクチンです。

実は一言にHPVといってもHPVには型がたくさんあり、その数は100種類以上にもなります。そのうち子宮頸がんの原因となるハイリスク型は少なくとも15種類。HPVワクチンでは、その中でも特に子宮頸がんを発症させやすいHPV16型とHPV 18型の感染を防ぐことができます。このワクチンは予防接種法(定期接種)に指定されており、対象年齢の女子には公費でワクチンを接種することができます。

カナダやイギリス、オーストラリアなどでは女の子の約8割が接種しており、子宮頸がんの一般的な予防方法として定着しています。日本では2013年に積極的勧奨が差し控えられ、接種率が低い状態が続いていましたが、2020年以降、HPVワクチンの接種率は徐々に上昇しています。

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の種類

現在日本で定期接種に使用されているHPVワクチンは「サーバリックス®」と「ガーダシル®」の2種類です。任意接種の場合は、「シルガード®9」も選択できます。

どのワクチンも一定の期間をあけて3回接種します。また、初回に接種した種類を2回目以降も接種する必要があります。

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の効果

HPVワクチンを接種することで、特に子宮頸がんの主な原因となるHPV16型とHPV 18型の感染を防ぐことができます。HPV16型とHPV18型の感染を防ぐことにより、子宮頸がんの原因の5~7割を防ぐことができ、高い予防効果を期待できるでしょう。

また、半年から1年の間に一定の間隔で3回接種することで、少なくとも12年効果が維持される可能性があることがわかっています。

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の対象年齢と費用

HPVワクチンは、小学校6年生~高校1年生相当の女性を対象に公費による接種が実施されています。男性や対象年齢以外の女性は、自費で接種することが可能です。3回とも同じワクチンを接種することが原則となるので、同じ医療機関で受けるほうが良いでしょう。

また、1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女性は、接種対象年齢を超えても2025年3月末までであれば公費による接種が可能です。一度も接種していない方だけでなく、3回の接種が終わっていない方も対象となるので、自治体や医療機関で相談してみましょう。

なお、公費対象外の女性、または男性は医療機関で自費による任意接種を受けられますが、費用は病院によって異なります。3回の接種でどの程度の費用がかかるのか事前に確認しておきましょう。また、女性は自費で受ける年齢でも自治体の補助金が出ることがあるので、ぜひ問い合わせてみてください。

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の接種方法

公費でワクチン接種を受けられる人は自治体から予診票が送付されます。予診票が届いたら指定の医療機関でHPVワクチンを接種しましょう。

なお、腕への筋肉注射を3回受けることが基本ですが、気になる症状が現れた場合は2回目以降の接種をやめることができます。不明点があるときは、自治体の予防接種担当課に確認しましょう。

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の副反応と安全性

発生頻度 ワクチン:
サーバリックス®
ワクチン:
ガーダシル®
50%以上 痛み、赤くなる、腫れる、疲労感 痛み
10~50%未満 かゆみ、腹痛、筋肉痛・関節痛、頭痛など 腫れ、赤くなる
1~10%未満 じんましん、めまい、発熱など かゆみ、出血、不快感、頭痛、発熱
1%未満 注射部位の感覚異常、全身の脱力 硬くなる、四肢が痛い、体の硬直、腹痛・下痢
頻度不明 四肢が痛い、失神、リンパ節が腫れるなど 疲労・倦怠感、失神、筋肉痛、関節痛、嘔吐など

参考:厚生労働省「小学校6年~高校1年相当の女の子と保護者の方への大切なお知らせ」

HPVワクチンの接種による主な副反応は、接種部位のかゆみや痛み、赤み、腫れ、関節痛などです。頭痛が起こる場合もあります。

また、接種した人の1割弱にはじんましんやめまい、発熱などが生じると報告されています。まれにアレルギー症状や神経系の症状などの重篤な症状が起こることもあります。接種後に入院が必要な程度の重篤な症状が出た人は、1万人あたり約6人です。

HPVワクチン以外のワクチン接種で副反応が出たことがある場合は、HPVワクチンの接種前に医師に相談しましょう。また、接種後に気になる症状がでた場合も医師に相談してみてください。

なお、HPVワクチンの安全性は、厚生科学審議会にて一定期間ごとに報告された症状をもとに継続して確認しています。健康被害が生じた場合は、医療費の給付などが受けられる可能性があるので、以下の感染症・予防接種相談窓口に問い合わせてみましょう。

【感染症・予防接種相談窓口】

  • 電話番号:050-3818-2242
  • 受付時間:平日9時~17時(土曜、日曜、祝日、年末年始を除く)

子宮頸がんの二次予防:子宮頸がん検診で早期発見

命を守るためには、できるだけ初期の段階でがん(またはがんになる可能性のある細胞)を発見することが大事になりますが、子宮頸がんは初期にはほとんど自覚症状がありません。また、HPVワクチンを接種したとしても、原因となるHPV型全ての感染予防はできませんので、そのため、子宮頸がん検診を定期的に受けることが大事です。ここでは、その子宮頸がん検診について解説します。

子宮頸がんの定期検診の対象者

子宮頸がんの定期検診の対象者は、20歳以上の女性です。子宮頸がんは20~30代の若い世代の発症が増えているため、20歳からの検診が推奨されています。子宮頸がんは初期にはほとんど自覚症状はありませんが、進行すると異常なおりものや不正出血、下腹部の痛みなどの自覚症状が表れることがあります。自覚症状がある場合は検診ではなく婦人科を受診し、前がん病変(異形成)や子宮頸がんの疑いがないか確認しましょう。

子宮頸がん検診の検査方法

子宮頸がん検診の検査方法は、問診、視診、子宮頸部の細胞診と内診です。細胞診とは、子宮頚部を専用の器具で擦って細胞を採取し、顕微鏡によりがん細胞などがないか調べます。検査は人により若干の痛みを伴います。なお、内診を行うため月経期間中は避けましょう。

子宮頸がんは検査がしやすく比較的発見しやすいがんといわれています。また、がん細胞だけでなくがん化する前の細胞異常も発見でき、早期治療につなげることが可能です。20歳以上の女性は2年に1回の検診間隔が推奨されているので、定期的に受けましょう。

子宮頸がん検診の費用と場所

各自治体では健康増進法に基づいてがん検診を実施しているため、住民登録がある自治体でがん検診を受けられます。ほとんどの自治体でがん検診費用の助成制度があるので、一部の自己負担または自己負担なしでがん検診を受けることが可能です。自治体によって補助制度の内容は異なります。

また、勤務先の健康診断のオプションで子宮頸がん検診を受けることも可能です。なお、定期健康診断以外で検診を受けたい場合は、会社の人事・総務に相談しましょう。自費となりますが、早期発見・早期治療につなげられます。

子宮頸がん検診結果の見方

子宮頸がん検診結果の見方は、結果の略語が記載されています。子宮頸部細胞診の検査結果に「NILM」と記載されているときは陰性です。しかし、「NILM」以外の結果が記載されているときは精密検査を受ける必要があります。速やかに医療機関を受診しましょう。

検診率向上に向けた未受診者への対策:自己採取HPV検査

HPV検査という、子宮頸がんの原因となる高リスク型のHPVの有無を調べる検査を検診として採用している国も特に先進国では一般的になってきています。
HPV検査では、特に高リスクと言われているHPV16型とHPV18型、HPVその他の3つのパターンを調べる方法が一般的です。
いずれも「-」と記載されている場合は、子宮頸がんを起こす可能性がある型のHPVに感染していません。反対にいずれかに「+」と記載されているときは、該当するHPVに感染していることを示します。

日本では、子宮頸がん検診は細胞診を採用していますが、検診受診率は先進国の中では極めて低い状況です。そのため、検診率を上げることが急務となっています。
何らかの理由で検診に行けない方、機会を逃してしまった方のために、自己採取HPV検査があります。自宅で、自身で腟内の細胞を採取することで、ハイリスク型HPVに感染しているかどうかを確認する方法です。これは、将来、子宮頸がんになるリスクをチェックする検査ですので、HPV「+」「-」の結果に拘わらず、必ず検診を受けることが大切です

一次予防(ワクチン接種)と二次予防(がん検診)で、子宮頸がんから身を守りましょう

子宮頸がんの主な原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)そのものの感染を予防することで、子宮頸がんを予防できます。小学校6年~高校1年相当の女の子は、HPVワクチンを接種することが推奨されています。また、20歳以上の女性は2年に1回子宮頸がん検診を受けることが推奨されていますので、ぜひ受けるようにしましょう。

この記事の監修医師
三輪綾子先生からのメッセージ

写真:三輪綾子先生(THIRD CLINIC GINZA 院長)

子宮頸がん検診は痛い、怖い、面倒くさいなどマイナスなイメージを持たれている方が多いと思います。しかし自分の体をケアすることが、どれほど大切なのか今一度考え受診していない人は是非受けていただくことをオススメします。
またHPVに感染しても、今はまだ有効な治療薬がありません。感染しないようにワクチンで予防することが必要です。決して他人事とは思わず、考えてみましょう。

公開日:2022/09/14