「HPVワクチンは子宮頸がんを予防するワクチンだから男の子には関係ない」と思う方もいらっしゃるかも知れません。でも男の子とその保護者のみなさんにも知っておいてほしいことがあるのです。
HPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸がんだけでなく、咽頭(のど)、外陰部、膣、陰茎、肛門にできるがんの原因となることが知られています。
アメリカでは子宮頸がんの年間発生数(1.2万人)はゆっくりと減少する一方、咽頭がんの発生数は増えており、年間1.9万人と既に子宮頸がんを抜いています*1。
咽頭がんの中で特に中咽頭がんの発生にはHPVが大きく関わっているとされていますが、このがんは圧倒的に男性にできやすいのです*2。
HPVワクチンでこのがんを減らすことができるため、HPVワクチンは男性にとってもがんを予防するワクチンなのですね。
そのことを男の子や保護者の皆さんにも知ってほしいのです。
尖圭(せんけい)コンジローマという病気があります。
これは主にHPV(ヒトパピローマウイルス)が原因(90%)の、陰茎に「できもの」ができる性感染症で、かゆみが出たり、痛くなったりします*3。
自然に治ることもありますが、レーザー治療や外科的な切除が必要になることもあります。
日本で年間約5000人(男性3000人、女性2000人)が報告されていますが*4、男女それぞれ2万人という推計もあり、隠れた患者さんがとても多いとされています。
この病気もHPVワクチンの接種で防ぐことができます。
このワクチンは、ウイルスに感染しないためのもので、既に感染しているウイルスを退治することはできません。
ウイルスの多くは性的な接触でうつりますので、そのような接触が始まる前、つまり学童の時期に接種しておくことで大きな予防効果を発揮します。
男の子に接種をすると、自身の将来のがんや感染症の予防だけでなく、将来のパートナーに感染させないことにもつながるのですね。
こうした理由から、海外では、男女ともに接種している国が数多くあります。オーストラリア、アメリカなどでは男女ともに定期接種となっています。
日本ではまだ男性には未承認なのですが、男女やパートナー間でうつしあう感染症でもあり、近い将来接種できるようになればと願っています。
HPV感染症は男の子の将来のがんの原因にもなり、ワクチンでそれを防ぐことができます。
女の子だけの問題ではなく、自分事として捉えていただければと思っています。
執筆者 医師:坂本昌彦