疾患・特集

なぜ増えている? 認知症ドクターインタビュー(1)

お話し手:香川大学医学部精神神経医学講座教授 中村祐先生

なぜ増えている?アルツハイマー型認知症

―― 「アルツハイマー型認知症」というと、多くの人は病名を知っている程度で、詳しい知識は無いのが実態かと思われます。アルツハイマー型認知症とはいったい、どのような病気なのでしょうか。

中村先生:
アルツハイマー型認知症は、加齢によって脳の神経細胞が減っていく病気です。人間は高齢になると誰でも神経細胞が減っていきますが、何らかの理由でそのスピードが早まった人、つまり脳の老化現象が早く進んでしまった人が発症すると考えられています。

―― 同じ認知症でも、脳出血や脳梗塞が原因で起こる「血管性認知症」が減ってきている一方で、アルツハイマー型認知症は増えていると聞きました。その原因は何ですか?

中村先生:
血管性認知症が減ってきているのは、食生活の変化により塩分の摂取量が減り、生活習慣病対策や新しい薬の開発が進んだために、血圧がうまくコントロール出来るようになり、脳出血や脳梗塞が減ったためです。 一方、アルツハイマー型認知症が増えてきているのは、一言でいうと「寿命が延びたから」。加齢によって脳の神経細胞が減っていくわけですから、長生きするほど発症するリスクが高まるわけです。そのため、男性よりも平均寿命の長い女性に認知症患者さんが多くみられるわけです。

―― ではある意味、長寿社会が生み出した病気ともいえるわけですね。

中村先生:
「人生50年」だった江戸時代の頃には、アルツハイマー型認知症になる確率は1万人に1人くらいだったと想像されます。今は、85歳以上の4人に1人です。医学が発達して長生きできるようになったおかげで、認知症の患者さんが増えたといって良いでしょう。

アルツハイマー型認知症は絶望の病?

―― この病気を宣告されると、ご家族などは「うちの親に限ってそんなはずはない」「何かの間違いでは」と拒絶反応を示されることもあると聞きます。

中村先生:
アルツハイマー型認知症は、進行性であり、根本的に治す方法がないことから、たしかに深刻な病気といえます。記憶障害をはじめ会話や日常生活動作が失われていく「中核症状」、徘徊や妄想、暴力行為などを生じる「周辺症状」があり、他の疾患にくらべ、ご家族の心の葛藤が非常に大きいのは事実です。

―― 現代の医学をもってしても「治す」ことは出来ない病気というのが、ご家族にとってもやり切れないのでは?

中村先生:
たしかに、アルツハイマー型認知症は、ある程度その原因が分かってきているものの、根本的に原因に対処する薬剤がまだ開発の途上です。そのため、私もこれまでの経験で「治りますか?」と質問されたら、「今のところ、私の知っている範囲では治った人はいませんが、進行がほとんど止まっている人はいます」と答えているのが現実です。