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気になる症状、さっそくチェック!手術で治療できる認知症

認知症の患者数、30年後は倍に!?

認知症の患者数、30年後は倍に!?

総務省がまとめた2009年10月の推計によると、全国の65歳以上の高齢者は2,901万人。男女別に見ると、男性は1,240万人、女性は1,661万人だった。65歳以上の人口は1985年に総人口の10%を突破し、90年代以降はさらに急増、今回初めて22%を占めるようになった。
「5人に1人以上が高齢者」という状態は、先進諸国の中でも最高の水準。この割合は今後も伸び続け、5年後には26%に達するとの見込みもある。

同時に認知症の患者数も増加の一途にあり、現在は全国で220万人。団塊の世代がすべて高齢者の仲間入りをする2015年には250万人に、さらに2035年には337万人にまで増えるとの予想もあり、介護の負担が大きくなることから社会問題として特に注目されている。

治療できる認知症・「特発性正常圧水頭症(iNPH)」とは?

アルツハイマー病などの脳の変性疾患や脳梗塞によるものなどがよく知られているため、「認知症=治らない病気」ととらえられがちだが、実際には治療薬や手術によって改善する認知症がある。慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症などと並んで「特発性正常圧水頭症(iNPH)」も、そのひとつだ。

水頭症は脳の中や周辺にある脳脊髄液(髄液)がたまり過ぎる病気のことで、くも膜下出血や頭部のケガ、髄膜炎などの二次性疾患として起こる「続発性正常圧水頭症」と、特別な原因は見当たらないのに同じ症状が見られる「特発性正常圧水頭症(iNPH)」がある。

高齢者に多いiNPHの場合、歩行障害・認知症・尿失禁が三大症状で、現在認知症患者の5~10%が該当するといわれているが、脳の余分な髄液を管に通し、腹腔や心房などに流す症状がかなり改善することがわかっている。

また、iNPHは国から指定されている難病のひとつ。各都道府県に支援・相談センターが設けられているほか、研究班が設立され、原因の究明や治療方法の確立に向けた研究が進められている。さらに2004年に、診療ガイドラインが発行されたため、iNPHの診断から治療にいたる流れが明確になった。このガイドラインが、私たち患者や家族の立場にどう役立つのか、多摩南部地域病院副院長・和智明彦先生にお話をうかがった。

ひとりでも多くの患者さんを発見するために

和智明彦先生
和智明彦先生
(多摩南部地域病院 副院長)

―― 「ガイドライン」とは、どのようなものを指すのでしょうか。

和智先生:
専門的にいうと、「予防から診断、治療、リハビリテーションまで特定の臨床状況のもとで、適切な判断や決断を下せるよう支援する目的で体系的に作成された文書」のことです。つまりは、“病気の状態に合わせた治療手引書”、というところでしょうか。世の中に数え切れないほどの病気がありますが、それに応じてガイドラインが作成されています。

―― iNPHのガイドラインが誕生したきっかけとは?

和智先生:
水頭症一般の研究は20年くらい前から行われていたんですが、シンポジウムを重ねていくうちに、徐々にテーマがiNPHに移っていきました。当時は原因も病態もよくわかっていませんでしたから…。
ちょうど日本が本格的な高齢社会に突入し、認知症患者の増加が大きな問題としてクローズアップされる中、iNPHの診断技術の見直しが進められ、手術で使う機器も大いに発達してきた。私たち医師の間にも「iNPHでも科学的な根拠に基づいた診療ガイドラインをつくろう」という意識が高まってきたんですね。発案から2年ほどで診療ガイドラインを作り上げました。

―― 診療ガイドラインは、私たち患者や家族にとってどう役立つのでしょうか?

和智先生:
iNPHの診療ガイドラインを作った目的は、治療可能なiNPHの患者さんをひとりでも多く発見することにあります。1,000編の論文の中から、科学的・客観的な根拠に基づいたものをベースに、iNPHの患者さんの発見から診断、治療の流れをフローチャートでわかりやすく説明し、さらに治療後の患者さんのケアについても助言しています。
iNPHは脳外科医や神経外科医だけがわかっていればいいという病気ではありません。地元のかかりつけ医からスタートし、神経内科医、精神科医の支援を得て脳外科施設で治療、術後は脳外科医、神経内科医、歩行困難などのケースに対応するためにリハビリ科医、さらには介護支援団体も巻き込んだ、社会的な支援体制が必要です。そうした状況に、このガイドラインが役立つことと思います。

―― ガイドラインが広く普及すれば、これまで以上にiNPHの患者さんの治療が進みますね。

和智先生:
まずはこの病気を多くの人に知ってもらうことが大切だと思います。【うまく歩けない+物忘れ=iNPH】というイメージが定着するといいですね。
また、よく質問を受けるのですが、手術で使うシャント機器を体内に埋め込んでも、日常生活においては支障になりません。適切な診断に基づき、80代のご高齢であっても安全に手術も可能です。確実に治療すれば、患者さん本人のADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の向上につながりますし、介護するご家族の負担を減らすことにもなると思いますよ。