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「食べる」「装う」~生活の中のアザミ

「薊」と書いてアザミ。英名Thistle(シスル)。あなたはこの花にどんなイメージを持っているだろう!?「トゲがある…」。そう、あまり深い印象がないのではないだろうか。アザミは植物の分類上ではキク科アザミ属というひとつの属を持ち、日本に約80種類、世界に約300種類の仲間を持つ植物。また、人との関わりも古く、旧約聖書にも登場しているというほど。そしてまた、日本でも世界でも、さまざまなカタチで利用されている。

アザミを食べる

キク科アザミ属で、日本に存在するのは約80種。アザミは属の名前なので、当然ながら、約80種のそれぞれは、○○アザミ、といった固有の名前を持っている。しかし、共通点がひとつ。そのほとんどが、昔から食べられてきたということ。

早春のアザミは、新芽の部分を茹でておひたしやみそ汁の具に、少し大きいものは葉を取り除き、茎の部分だけをアク抜きして油炒めにしたり、塩漬けにしたり。天ぷらにしてもおいしい。

さらに、アザミの根は漬け物として食べられ、市販もされている。しかし、「アザミの根」として堂々と出てはいない。実は、「ヤマゴボウ」の名で市販されている漬け物が、アザミの根の漬け物なのだ。ちなみに、本物のヤマゴボウの根は有毒で食べられないシロモノなのだとか。

アーティチョーク

欧米でも高級食材として活躍しているものがある。アーティチョークだ。ご存知の人も多いだろうが、アーティチョークは和名を「チョウセンアザミ」といい、これはカルドンという巨大アザミが原種とされる立派なアザミの仲間なのだ。

では、なぜ人々はアザミを食べてきたのだろう?ヨーロッパでは2000年以上前から、アザミの種子が肝臓や消化管の民間薬として使われており、現在では、ハーブのひとつとして楽しまれている。そして、最近では、アザミに含まれる「シマリン」に注目が集まっているのだ。

アザミで癒す

アザミはまた、民間薬としても利用されてきた歴史がある。日本では、利尿や健胃、さらには神経痛に良いとして、根を煎じて飲んでいたようだ。また葉の絞り汁は、腫れ物や湿疹ができたときの塗り薬に用いられてきたのに加え、ときには痔疾の塗り薬としても活用されていたとか。

漢方でもアザミは大薊(たいけい)などと呼ばれ、体の熱をさまし、止血する薬として利用されている。

アザミで装う

案外、知らない人も多いのではないだろうか?アザミはさまざまな衣料に活用されている。

日本の着物には江戸時代あたりからアザミが使われ、5~6月の季節感を楽しむ柄として愛されてきている。着物以外でも、身近な草花として、さらに素朴で力強く生命力にあふれた存在として、陶芸の絵柄や日本画の題材として多く取り上げられてきたのだ。

また、衣類の加工にもアザミは利用されている。特に上質の毛織物の表面をふんわり柔らかく起毛させるのには、今でもアザミの実が使われているという。そう、あなたの羊毛衣料も、実はアザミで起毛された一品かもしれないのだ。

アザミは由緒正しいスコットランドの国花です!

スコットランド

ヨーロッパ大陸の西に位置するイギリス、正式名称「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」は、北アイルランド、イングランド、スコットランド、ウェールズの4つの国からなる連合国。
その一角をなすスコットランドの国花が「アザミ」だ。アザミがスコットランドの国花になったのは15世紀になってからとされるが、その由来となった伝説は古く、13世紀の話とされる。
ひそかにスコットランドに攻め込んだノルウェー軍の兵士が、アザミを踏み、その痛さに大声を上げてしまったために、スコットランド軍に気づかれ、不意討ちは失敗、スコットランド軍が勝利をおさめることができたといわれている。アザミの特徴ともいえる「トゲ」が、スコットランドを勝利に導いたのだ。
同じような勝利劇の話は、その以前にもあったといわれ、スコットランドは一度ならずアザミに国を救われ、アザミを国花にしたという。

公開日:2003年10月6日