疾患・特集

どうすればいいの?認知症Q&A

山口武兼先生
山口武兼先生

2003/5/12~25にhealthクリックで行った「認知症に関するアンケート」に寄せられたたくさんの意見や質問の中から、いくつかをピックアップ。少しでも皆さんの声に応えられればと、専門医である東京都立豊島病院・脳神経外科部長の山口武兼先生に協力してもらい、「治る認知症」を知ることの大切さや、認知症を家庭や社会の中で受け入れ、ともに生きることの意義について、暖かいアドバイスをいただいた。
※お寄せいただいた質問は紙面の関係上、一部編集しております。ご了承ください。

Q 認知症は治らないと言いますが、本当に治すことができない病気なのでしょうか?(40代・男性)

認知症

「認知症」とは、正常に発達した知能が何かの原因で低下した状態のこと。その原因にはさまざまなものがありますが、なかには適切な治療によって治るものもあります。
そのひとつが特発性正常圧水頭症。これは脳や脊髄の表面を循環している脳脊髄液の流れが悪くなって溜まり、脳室が広がってしまうもので、外科手術によって治療することができます。

ほかには、脳腫瘍による認知症や代謝障害による認知症も治療の余地があります。
残念ながら、患者数の比較的多い、脳血管性認知症やアルツハイマー型認知症については、今のところ治すために有効な治療法はありません。ただ最近では、せん妄(とくに夜間に多く、急に興奮したり訳のわからないことを言ったりする)や徘徊などを落ち着かせる効果がある薬がたくさんできています。薬で認知症の症状を上手にコントロールして、それなりに落ち着いた日常生活を送っているご家族も増えてきました。

Q 認知症は遺伝すると聞いたんですが、本当なんですか?(40代・女性)

アルツハイマー病の場合は遺伝する可能性があります。ただしこれは、解剖の結果、脳に特有の所見が認められて「アルツハイマー病」と確定された場合にだけ言えることです。「アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病のような認知症)」の場合は、遺伝するかどうか、はっきりしたことはわかりません。
脳血管性認知症は、その根本に生活習慣病があります。この生活習慣病が、糖尿病など遺伝傾向があるとされているものであれば、結果的に「認知症は遺伝と無関係ではない」と言えるかもしれませんね。
特発性正常圧水頭症は遺伝とは関係ありません。

Q 母親がアルツハイマーと水頭症の混合の認知症ですが、同居している父が気が付かず病院に行くのが遅れたため手術もできなくなってしまい毎日の介護が大変です。認知症の初期症状というのはどのようなものなのでしょうか?(30代・女性)

認知症は、早期に発見してできるだけ早く適切な医療やサービスを受けることが大切ですね。認知症の症状やその進行の度合いはさまざまですが、とくに特徴的な症状を挙げてみましょう。

アルツハイマー型認知症の場合は、活発に動き回る傾向があります。

特発性正常圧水頭症の場合は、なんとなくいつも「ぼーっとしている」ようになり、活動性が低下します。転びやすい、小刻みに歩くなどの歩行障害や、尿失禁があり、これら三つの症状が比較的短い期間に現れてくることがあります。

医者などに相談する場合は、これらの症状にあわせて、本人や家族にとって日常生活をする上でどんなことに困っているのか、何が問題なのかを整理しておくとよいでしょう。

認知症の進行

■軽度

記憶障害 昔のことは覚えていても現在のことは忘れてしまう。 食事がすんだことや物を片付けたことを忘れて騒ぐ。
見当識障害 「今がいつなのか」「ここはどこなのか」「自分は誰なのか」がわからなくなる。 見当識障害があるかどうかは認知症の重要な判断材料。迷子になったり家族がわからなくなったりする。本人の不安は強い。

■中程度

思考・判断力障害 思考力や判断力の低下。 計算ができない、料理ができない、道具が使えないなどの症状が現れる。日常生活にも介護が必要な状態。

■高度

言語障害・失行・感覚障害 失行とは体は動かせるのに今までできていた行為ができなくなること。さらに味覚、嗅覚、痛覚などの知覚にも障害が現れる。 食事やトイレなど、生活全般に介護が必要な状態。動作が鈍くなり、体も弱ってくる。

Q 認知症の予防策として「手や脚を動かすようにする」「魚を食べる」「ある種の金属の食器などを避ける」などが有効だと聞いたことがありますが、本当ですか?(70代・男性ほか多数)

アルツハイマー病については、予防できるかどうかは未知数と言わざるを得ません。
脳血管性認知症の予防は、生活習慣病の予防とコントロールが基本になります。肥満や運動不足、ストレスを避け、高血圧や糖尿病、高脂血症があれば適切にコントロールしましょう。ご質問の中の「魚を食べる」というのは、生活習慣病予防のために有効な手段と言えますよね。
特発性正常圧水頭症は原因がわからないので、予防策もわかりません。
一般に「脳に刺激を与えると認知症にならない」と言われることがあります。でも脳を刺激すれば認知症にならないとは言い切れません。ただし、脳を使うこと自体は悪いことではありませんし、高齢になってからも充実した人生を送るために、趣味を持ったり体を動かしたりするのはむしろよいことですから、積極的に楽しんでください。

Q 父が初期の認知症のようなのですが、病院が嫌いで診察を受けることができず困っています。どうすればよいのでしょうか?(50代・女性)

とにかく「かかりつけ医」を持つことが大切です。高齢者になると、高血圧や高脂血症など何らかの問題を持っていて通院している方も多いはずです。そういう所があるなら、まずはその医師に相談してみてください。いつも通院している所なら相談しやすいのではないでしょうか。 かかりつけ医がいない方は、近所で在宅医療に積極的に取り組んでいる診療所を探すとよいでしょう。在宅医療に積極的に取り組んでいる地域の医師なら、往診もしてくれます。かかりつけ医は、地域の医師会でも紹介してくれますので利用してください。

家庭と病院の連携

外科治療などでは治らない認知症の場合は、病院に入院させておくのではなく、いずれは外来で薬などで治療を受けながら自宅で生活することになります。そのためにも、遠方の有名大病院ではなく、地域に密着した医院や診療所、クリニックなどがよいのではないでしょうか?かかりつけ医と相談し、CTやMRIなどの基本的な検査を受け、必要があれば大きい病院を紹介してもらいましょう。

Q 将来、夫婦のどちらかが認知症になった場合、子どももなく、介護する人がまわりにあまりいないので、どのようにしたらよいか今からとても心配です。(40代・女性)

たとえ家族が認知症になっても、家族だけで抱え込む必要はありません。反対に認知症で困るから病院や施設に閉じ込めておけばいいというのも間違っていると思います。

認知症は、治療可能なものを除けば「病気」というより「状態」です。その状態を受け入れつつ、社会の中でみんなとともに暮らすという考え方が大切なのです。社会は健常者だけのものではありません。いろいろな人が混在して生活できる社会こそが望ましい社会のあり方なのではないでしょうか。介護保険も、認知症などの問題を抱えている人や家庭を、地域全体でみていこうというのが基本になっています。

かかりつけ医と相談しながら、適切な医療を受けつつ、訪問看護やホームヘルプ、デイケアやグループホームなど、介護保険を始めとした地域のさまざまなシステムをフル活用してください。
介護保険制度はまだ発展途上です。よりよい制度にするためには、利用者がどんどん希望やアイディアを出すことも大切だと思いますよ。

山口先生とのお話を終えて

認知症全体に占める割合は少ないとはいえ、「認知症の中には、特発性正常圧水頭症などの治るものもある」という知識を持つことで、皆さんの認知症へのイメージも少し違ったものになったのではないでしょうか? 過去には見落とされていた可能性もある病気はたくさんあるでしょう。特発性正常圧水頭症もそのひとつかもしれません。今、日本は超高齢社会を迎え、さまざまな制度が見直されると同時に、自分たち自身でもさまざまな選択をしていかなくてはいけません。

そして、山口先生が最も強調されていたのは「いろいろな人が混在して生活できる社会」の実現です。私たちも、認知症や病と上手に付きあっていけるようになりたいものです。

いろいろな人が混在して生活できる社会

公開日:2003年8月18日