疾患・特集

私たちは毎日ダイオキシンを食べている

狭い国土で大量のゴミを燃やしているニッポン。ダイオキシン類による汚染は、ほかの国の10倍は高いと言われています。ゴミ焼却場は近くにないという人も例外ではありません。ダイオキシンが私たちの体に入る経路の約98%は食物からと言われているからです。

ダイオキシン摂取・約60%は魚から

1990年、大都市地域に住む人が1日に摂取するダイオキシン類の量を調査したところ、ダイオキシンとポリ塩化ジベンゾフラン(ダイオキシンと似た分子構造を持ち、毒性もある物質)の合計は体重1kgあたり3.72pg(ピコグラム。1兆分の1グラム)でした。
ただしこの調査は、やはりダイオキシンと似た構造で毒性もあるコプラナーPCBの摂取量を加えていなかったため批判が多いようです。ある研究者がこのデータにコプラナーPCBの摂取量を加えてみたところ、体重1kgあたり12.45pgという結果が出ています。

ダイオキシンの摂取経路は、約98%が食物だと言われています。では、どのような食物からの摂取が多いのでしょうか。その内訳は円グラフのようになっています。なんと、約60%を魚から摂取しています。ゴミ焼却の煙とともにダイオキシンは、川を流れ雨に混じって近海を確実に汚染しているのです。
沿岸魚と市販魚のダイオキシン類を分析したところ、海岸に近いところに住んでいて、海の水の汚れに強い魚の濃度が高くなっているという報告もあります。

日本とドイツの食物経由のダイオキシンと
ポリ塩化ジベンゾフランの構成比

日本の構成比 ドイツの構成比

ダイオキシンの安全基準はどのくらい?

次の表の「耐容1日摂取量」というのは、一生の間、毎日体に入っても健康に害を与えない摂取量のことです。ダイオキシン類の安全基準として注目されていますが、国や省庁によってもバラバラなのが現状です。

各国のダイオキシン類の耐容1日摂取量

国名など 耐容1日摂取量
(pgTEQ/kg/日)
日本 厚生労働省4
日本 環境省4
WHO1~4
アメリカ0.01
イギリス10
ドイツ10(目標値1)
イタリア1

出典:厚生労働省資料より(一部抜粋)

問題がある日本の基準

ダイオキシンについてはまだわからないことも多いため、この数字は「当面のものとする」とのことわり付きです。
ところで日本の場合、耐容1日摂取量の対象となっているダイオキシン類は、ダイオキシンとポリ塩化ジベンゾフランのみ。コプラナーPCBは含まれていません。しかし、日本ではコプラナーPCBが環境を汚染している量が特に多いため、研究者の間ではコプラナーPCBも対象に含めるよう求める声があがっています。
ちなみに、WHO(世界保健機構)では、1998年に耐容1日摂取量を10pgから1~4pgに引き下げると同時に、コプラナーPCBも対象に含めるようになりました。

アメリカの基準が厳しいのは、「発がん性」を認めているため

日本やヨーロッパ各国に比べ、アメリカの基準がケタ違いに厳しいのは、ダイオキシン類を「発がん性物質」と評価しているためです。「発がん物質」になると、安全基準の計算の仕方がかなり厳しくなるのです。一方、日本やヨーロッパでは、ダイオキシン類は直接がんを引き起こすのではなく、ほかの物質と一緒になってがんを引き起こすのではないか(助がん作用)としているため、このような違いが出てくるのです。

ダイオキシンを食べない出さない工夫が必要

我々の食生活は安全なのか

1990年の調査では、ダイオキシン類(ダイオキシン+ポリ塩化ジベンゾフラン)の摂取は1日体重1kg当たり3.72pgと推定されています。これなら日本のダイオキシン類の安全基準(耐容1日摂取量)内と、ひとまずほっとしたいところだが、コプラナーPCBを含めると一気に12.5pgになってしまうのです。
しかし、1996年に調査したところ、コプラナーPCBを加えても1日体重1kg当たり約2pgと、ダイオキシン類の摂取量が急減していることがわかりました。減った分のほとんどは、食物からの摂取量です。1990年の調査と比べると、ダイオキシン+ポリ塩化ジベンゾフランが約5分の1に、コプラナーPCBは約10分の1になっているのです。
この理由について、ダイオキシン汚染そのものが減ったというよりは、汚染されていない地域からの輸入食品が増えたせいと考えられています。

将来のことを考えた、真剣なダイオキシン対策が必要

ダイオキシンは簡単には分解しない非常に安定した物質です。しかも、脂肪によく溶けるため、人の体に入ると脂肪組織に蓄積し、なかなか排出されません。1度体内に取り込まれると半分になるまでに5~10年もかかるのです。
だから、最近の調査で摂取量が減ったからと言って、そうそう安心していられません。1990年頃摂取しダイオキシンはしっかり体の中に残っているのです。

また、将来的に食品すべてを輸入に頼れるとは考えにくいし、海洋汚染を広がるに任せておけば、ほとんど魚が食べられないということも考えられます。ダイオキシンについては、我々は被害者でもあり、ゴミを捨てているという点では加害者でもあります。他人事ではなく、自分の問題として考えていかなくてはならないのではないでしょうか。