低い濃度のダイオキシンでも、長期間摂取すると慢性的な症状が現われます。具体的な症状について紹介します。ただし、ダイオキシンがこれらの病気を引き起こす、医学的なメカニズムははっきり証明されていないのが現状です。
ダイオキシンの毒性の中でも特に恐ろしいのは、生殖毒性と言われるものです。これは、子供を産む器官や産まれた子供自体に現われてくる毒性のことになります。
ベトナム戦争時、2,3,7,8-四塩化ダイオキシンを含む枯葉剤がアメリカ軍によって散布されました。その結果、これを浴びた人達に生殖障害(流産や新生児死亡などの出産異常、先天奇形など)が起こる割合が高くなりました。
また、日本でも、ダイオキシンによる汚染度が高い地域は、ほかの地域に比べて新生児死亡率が高いという報告がされています。
これについて、1979年に行われた有名な実験があります。実験内容を簡単にまとめました。
50pptの2,3,7,8-四塩化ダイオキシンを餌にまぜて7ヵ月間アカゲザルに与えました。
※50pptというのは1兆分の50のこと。これはアカゲザルの体重1kgあたり1.26ng(ナノ グラム。10億分の1グラムのこと)にあたります。
8匹のうち6匹が妊娠しましたが、4匹流産。残りの2匹に子供が産まれましたが、1匹は未熟児でやがて死亡しました。
では、どのくらいの量なら産まれる子供に影響がない(毒性がない)のでしょうか。
その後、0.63ng/kg(体重1kgあたり1000億分の63g)を4年間与える実験が行われました。この実験でも、8匹のうち1匹しか産まれなかったと報告されています。
このような実験結果をもとに、産まれる子供に 影響がない(生殖毒性がない)ダイオキシンの量は約0.1ngと推定されています。
このほか、生殖毒性として以下のような症状が疑われています。
1997年国際がん研究機関は、人に対する2,3,7,8-四塩化ダイオキシンの発がん性の分類を「人に発がん性あり」というものにしました。
各国のいろいろな動物実験でも、ダイオキシンががんを引き起こすという結果が出ていますが、がんになる部位については、オスとメスで異なるようです。
人間についても、以下の表のように、各種の疫学的な調査が行われているが、がん発生が増えるという報告と、増えないという報告があります。
ダイオキシンががんを発生させるメカニズムについては、まだはっきりしたことはわかっていません。研究者の間では、ダイオキシンが直接がんを発生させるのではなく、別の発がん物質と一緒になってはたらくのではないかと考えられているようです。
対象者 | がんの種類 | 発がんリスク※ | 研究年次と研究者 |
---|---|---|---|
アメリカの化学工場従事者 | 軟組織肉腫 | 9.2倍 | 1991.フィンガーハットほか |
呼吸器系がん | 1.42倍 | ||
ドイツの化学工場従事者 | あらゆるがん | 1.9倍 | 1991.マンツほか |
2,4,5-T取扱者 | 軟組織肉腫 | 1.3~2.5倍 | 1990.エリクソンほか |
ベトナム戦争帰還兵 | 結合組織などのがん | 4.6倍 | 1988.コーガンほか |
ベトナム戦争帰還兵 | あらゆるがん | 1倍 | 1990.ミカレクほか |
このほか、ダイオキシンと関係がある症状としては、免疫力の低下、肝臓障害、骨髄障害(血を造る機能の低下)などがあります。