ピルは、1960年に米国で承認されて以来、世界各国で多くの女性に使われてきた経口避妊薬である。日本では「脳血栓を起こす」「がんになりやすい」など副作用の心配が強調され、なかなか受け入れられずにきた。確かに開発当初のピルはホルモン量が多く副作用も起こりやすかった。しかし、現在避妊薬として認可されている低用量ピルは、その名のとおりホルモン量が少ないため、深刻な副作用は起きない。それどころか、望まない妊娠を防ぐという本来の目的以外にも、本人やその周囲の人たちにとっても利点の多い薬なのだ。
ピルは、代表的な二つの女性ホルモンと同様の合成卵胞ホルモン(エストロゲン)と合成黄体ホルモン(プロゲストーゲン)を配合した薬だ。これを服用すると、血液中のこれら2種類のホルモン濃度が高まって、脳が妊娠したと錯覚する。すると、視床下部や下垂体からのホルモン分泌が停止し、排卵が起こらなくなる。また、プロゲストーゲンは、精子が子宮に入ってくることを防ぐ。さらに子宮内膜が厚くならないので、受精したとしても受精卵が着床しにくくなる。複合的に体にはたらきかけて妊娠を防ぐのだ。避妊薬としては95~99.9%の成功が期待できる。ちなみに、日本でよく使われるコンドームの避妊率は86~97%である。
ピルには、避妊以外の副効用が多い。
そして、ピルの使用は、不妊の原因となりやすい子宮内膜症などのリスクが減るため、結果的に不妊症になりにくくなるメリットがある。ただし、ピルに性感染症予防の効果はないので、予防には必ずコンドームを利用しよう。
これだけメリットの多いピルが、なぜ日本では普及しなかったのか。最初にも伝えたように、副作用への恐れは確かに大きかった。しかしそれだけではなく、利用に至るまでのハードルも高かったのだ。副作用の少ない低用量ピルが日本で認可されたのは、1999年と遅い。そして、認可後も実際に利用するには、婦人科で、抵抗感の大きい内診や性感染症検査を受けることが必要だった。これらの検査は保険がきかないため、検査の内容によっては、数万円程度かかることもあった。そのため、日本での低用量ピルの使用率はわずか1~2%に留まっている。
その高いハードルが下がった。2006年2月、日本産科婦人科学会がピルの使用方針を改訂。処方前の検査が大幅に簡略化され、上で紹介したような副効用が明記された。検査費用は数万円から初回は3,000円程度、と大幅に安くなった。女性の健康を守り、パートナーと共に快適な生活を送るためにも、ぜひピルの利用をお勧めしたい。
もちろん、少なくなったとはいえ副作用が出る人はいるし、女性なら誰でも低用量ピルが使えるわけではない。