新築住宅に引越したとたん、体調がおかしくなった――室内にいるだけで、頭痛や吐き気などに襲われる病気「シックハウス症候群」が広がっている。特定の化学物質に接触し続けることで起こる「化学物質過敏症」のひとつで、最悪の場合、がんや肺炎に発展して死に至ることも…。恐るべき現代病の謎に迫ってみよう!
シックハウス症候群は、家やビルから出る化学物質で起こる病気。微量の化学物質で症状があらわれる化学物質過敏症と違い、大量の室内汚染物質によって発症する。
始まりは1980年代のアメリカ。当時、エネルギー不足が問題となっていたことから、気密性が高く、冷暖房費が安く上る「省エネビル」が次々に建てられていた。ところが、そこで働く人々がめまいや吐き気などの不調を訴えるように。日本でも同じような住宅やビルが建ちはじめると、同様のトラブルを抱える人が増えてきた。
シックハウス症候群の原因は、気密性を追求した建築方法ばかりではない。最近の建物に使われている、建材や内装材も大きな要因だ。ビニルクロス、合板製フローリング、ビニルシートなどの素材はいろいろな化学物質を発生させる。このうち揮発性の高いものが空中を漂い、室内を汚染してしまうのだ。
悪玉化合物として有名なのが、「ホルムアルデヒド」。これを水溶液状にしたものは、「ホルマリン」と呼ばれており、標本を漬けるための防腐剤としてもよく知られるところ。つまり、ホルムアルデヒドに汚染された室内は、防腐剤が空中に広がっているのと同じ状態ということになる。そう考えると恐ろしくなるが、実際、ラットによる実験では、ホルムアルデヒドの発がん性も認められている。
それにもかかわらず、安価なホルムアルデヒドは建材や家具、壁紙の接着に広く使用されてきた。ただし現行の建築基準法では、ホルムアルデヒドによる被害を防ぐため、以下のような措置がとられている。
シックハウス症候群による症状は、頭痛や吐き気ばかりではない。まさに体中にトラブルが発生する可能性がある。とくに多いのは、慢性的な疲労感や、思考力・注意力・意欲などの低下、イライラや睡眠障害など。いずれも、更年期障害やうつ病、心身症などでよく見られるため、誤解されやすい。引越しやリフォーム後にこうした症状が現れた場合は、シックハウス症候群を疑ったほうがよいだろう。
ホルムアルデヒドなどの化学物質にどのくらい汚染しているか、調べる方法はあるのだろうか?千葉大大学院医学研究院では、血液中の化学物質量を調べる実験をおこなっている。近い将来、安価な負担額ですむ簡易測定法を取り入れ、シックハウス症候群などの治療に生かす方針だ。自宅で自己チェックする場合は、「鼻や喉に刺激があるか」「頭痛や倦怠感を覚えるか」などがめやすとなる。
もちろん、予防も大切。家やビルは、換気されていなければ密閉された空間だ。日常の大半を過ごす室内の空気環境は、私たちの生活にとって非常に大切なもの。住宅などを建てる際は、有害な建材の使用をなるべく避け、引越し後は頻繁に空気の入れ替えをしたい。