日本人の定番調味料であり、身近な健康食品である味噌。その歴史は古く、現在では抗がん作用など多くの健康効果が期待されている。そのパワーを見直してみよう。
味噌汁、田楽、味噌漬けなど、日本の食卓ではおなじみの味噌。昔話にも登場する味噌には、やはり古い歴史がある。
味噌は、中国や朝鮮半島から渡ってきた「醤(ひしお)」という調味料が発達したもの。小麦や米、豆などの穀類を、塩と共に発酵させたものが「穀醤」、魚を使えば「魚醤」、肉なら「肉醤」となる。漁醤はタイ料理などによく使われるナムプラー、秋田地方のしょっつるなどが知られるが、日本で主に発達したのは穀醤である。奈良時代にはさまざまな醤が作られ、鎌倉時代には、すでに現代の味噌に近いものが発達していたらしい。
寒い地方の味噌は塩味が強く、暖かい地方は甘いなど、味噌は郷土色の強い食品である。昔、農村では、味噌は各家庭で作るものだった。製法が代々伝えられ、嫁が味噌を作れるようになったときに世帯を譲るということもあったらしい。「手前味噌」という言葉は、味噌が家庭で作られることを前提に生まれた言葉といえる。
今はスローフードの時代。手作りのよさが見直され、レシピ本を見ながら「手前味噌」作りに挑戦する人が増えているようだ。今回は、そんな味噌の健康話である。
昔から日本の暮らしに深く根付いてきた味噌。現在のように調味料として使われることが主体になった歴史は、実は浅い。昔はむしろおかずとして食べる「なめ味噌」として発達した。「金山寺味噌」「鯛味噌」「鰹味噌」といった名物味噌は、なめ味噌の一種である。
東北地方では、山に行くときにご飯と味噌だけを持って山仕事をしていた暮らしぶりが伝えられている。ほかにも、日常食はご飯のおかずが味噌であったという地方がいくつもある。肉食が禁じられ、魚もめったに手に入らなかった時代、庶民にとって味噌は貴重なたんぱく源だった。そして、「味噌の医者殺し」といわれるように、病気を防ぎ、健康を保つ薬としても重宝されていたのである。
味噌には、米味噌、麦味噌、豆味噌などさまざまな種類があるが、いずれも大豆を使う点では共通している。まず、この主材料である大豆そのものが、良質なたんぱく質や脂質、糖分、ビタミン、ミネラルなど栄養豊富な食品である。そこに発酵という微生物のはたらきが加わることによって、栄養分は消化吸収しやすい組成に分解されるとともに、栄養価もさらに高まる。牛乳よりもヨーグルトやチーズのほうが栄養価が高いのと同じだ。発酵とは、多種多様な微生物が、多量の栄養成分を生産し、食品の中に蓄積する工程とも言える。
たんぱく質 | コレステロールの低下、血管の弾力保持 |
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ビタミンB12 | 造血作用、神経疲労防止 |
ビタミンE | 老化防止 |
酵素 | 消化を助ける |
イソフラボン | 酸化防止、肩こり解消 |
コリン | 老化防止、脂肪肝防止 |
レシチン | コレステロール低下、ボケ防止 |
さらに驚かされるのは、味噌が日々の健康維持に有効なだけではないことだ。現代人を悩ませるがん、高血圧、脳卒中、糖尿病、脂肪肝、ボケなどの予防効果、コレステロール抑制など、生活習慣病予防にも強い味方となる成分が豊富に含まれていることが、さまざまな研究の結果わかってきている。
味噌には、発酵によって「脂肪酸エチル」という物質ができている。これは、がんを引き起こす変異原の力を抑える作用があると言われている。また、酵母、乳酸菌、麹菌には、変異原性物質を除去する効果が期待できる。1981年には、がん学会で、味噌汁を飲む回数が多い人ほど、胃がん死亡率が低くなるという調査結果が報告されているほか、ラットを使った動物実験でも、がん発生率が減少することが確かめられている。
味噌は、まさにこれからの健康が心配な人にはピッタリな食品なのである。日本人の食事の定番であり、外食でも簡単にとりやすい味噌の秘めたるパワーを、改めて見直してはどうだろうか。