理性では「まったく意味がない」とわかっているにもかかわらず、不安や恐怖にとりつかれてしまう心の病、強迫性障害。「体や衣服が汚れるのでは」「他人に危害を与えるのでは」など、根拠のない不安から、何度も手を洗うなどの行為を繰り返したりする。そんな強迫性障害の特徴や治療法などを紹介。
誰でも火の元や戸締りなどが気になることはあるもの。しかし、何度も確認しているにもかかわらず、きちんと確認したかどうかが不安でならない――強迫性障害は、理性では「バカバカしい」「まったく意味がない」とわかっているにもかかわらず、不安や恐怖にとりつかれてしまう心の病だ。かつては、強迫神経症と呼んでいた。現在、この病気で悩んでいる人は人口の約2%といわれ、決して、めずらしい病気ではない。
単なる不安を通り越し、以下のようなことがあるようなら、一度、専門医を受診してみて欲しい。
また、背景にうつ病や統合失調症が隠れていることもある。「気分が落ち込み、自殺願望がある」「誰かの『○○しろ』、という声が聞こえる」などの症状があるときはさらに注意が必要だ。
詳しい原因はよくわかっていないが、強迫性障害にかかる人には、ある程度、性格上の特徴があるといわれる。
さらに、不安(強迫観念)から逃れるため、自分でもバカバカしいと思う行為(強迫行為)を繰り返さずにはいられないケースも多い。
A夫さん(21歳)は大学3年生。性格は大人しく几帳面で、成績は優秀だった。ところが、テレビで原子力発電所の事故のニュースを知ってからというもの、放射能に汚染されるのでは、という恐怖にとりつかれてしまった。大学へはマスクをして通い、1日何度も手を洗わずにはいられない。ちょうどつきあっていた彼女とも、出身地が原発に近い町だったことから別れてしまった。自分でもおかしな考えにとりつかれているとは思うが、どうすることもできない。最近は、人が大勢集まる電車などに乗るのも怖くなってきた。
B子さん(32歳)は最近、念願の女の子を産んだばかり。可愛がって育てており、周囲からも理想的な母親だといわれている。ところがあるときから、もしかしたら子どもを虐待してしまうのでは、という不安に苛まれるようになった。そこで、我が子をいじめたりしないように、子ども部屋に入る前に必ず108回、足踏みをしている。意味のない行為だとは思っていても、やめることができない。
以前から使われている抗うつ剤や、副作用の少ないSSRIという新しいタイプの抗うつ剤が一般的だ。このほか、向精神薬を用いることもある。
リラックス体験をしながら、あえて緊張を強いられる場面に徐々に慣れるような訓練をおこない、緊張を克服する、自信を持つようにする方法。
患者同士が集まって助け合いながら治癒をめざす自助グループもある。「悩んでいるのは自分だけではない」ということがわかるだけでも楽になる。自分の症状を気にせず、日常生活に意識を向けるようにする「森田療法」の会などが代表的。
治療には、焦らず気長に取り組みたいもの。悲観しないで、プラス思考で過ごすのが一番の薬だ。「また不安になるのではないか」「やりたくないことを繰り返してしまうのでは」という不安が、かえって症状を誘発してしまう。自分の好きなことを楽しむようにし、あまり病気のことを考えないようにしよう。
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