発症後24時間以内に死亡してしまう突然死。突然死とはどんなもので、どのようなときに起こるのでしょうか。突然死を予防するには、定期健診などで心電図の検査を受けることが重要です。そこで、突然死と関係が深い心室細動を取り上げて紹介します。また、突然死を避けるための生活習慣も紹介します。
「ううっ!」と痛みを感じ、容態が急変してしまう。ある日突然のごとくやってくる死。
「事故や自殺などの外因性の原因がなく、それまでまったく病気がないか、あっても安定した状態にありすぐに悪化する気配がなかったのに、突然病気が発症して24時間以内に死んでしまう場合」を突然死と呼んでいます。とくに、発病から1時間以内に亡くなってしまったケースを「瞬間死」ということもあります。
突然死を起こす直接の原因の約半数は心臓です。残りは脳(くも膜下出血や脳内出血、脳梗塞など)や呼吸器系に原因があると言われています。
実際に突然死した人の実態を把握するのはとても難しいようです。なぜなら、突然死というのが死亡の原因ではなく、死に方の問題だからです。ただ、突然死する人は意外に多く、亡くなる人の5人に1人が病気を発症して24時間以内に亡くなっているとも言われています。
予防医学の専門家・川村孝氏(京都大学保健管理センター長)らが、愛知県内の勤労者男女約20万人を対象に、1989年から7年間にわたって調査した中に、突然死した264人のデータがあります。
このデータによると40代・50代の働き盛りの男性が突然死してしまったケースが目立ちます。
また、 4月や週末に多いのは、おそらく職場や家庭の環境の変化などが精神的・肉体的ストレスとなっていることも原因ではないかと考えられています。
突然死はほんとうに「突然」やってくるのでしょうか。その前触れはなにもないのでしょうか?
実際、突然死を起こす前に前駆症状を訴える確率は低いようですが、前兆がないわけではなさそうです。
急性心筋梗塞やくも膜下出血などで突然死した人が事前に訴えていた自覚症状には、次のようなものがあります。
このような症状は「風邪かな?」「睡眠不足かな?」とも思われるようなもので、取りたてて珍しい症状ではないため、自覚症状から突然死を予知することは難しいようです。結局のところ、定期健康診断などを受け、その結果、突然死する危険因子がないかどうかを判断するのが、一番の予防法となります。定期健診で高血圧や高コレステロールなどの異常があった場合、「そうなんだ」と放っておかず、必ず生活習慣を改善し、治療を受けるなどするようにしましょう。
血圧 | 収縮期血圧が160mmHg以上の人は、120mmHg未満の人に比べて7.4倍、拡張期血圧が100mmHg以上の人は、80mmHg未満の人に比べて5.2倍も突然死する確率が高い |
---|---|
コレステロール | 総コレステロール値が、250mg/dl以上または140mg/dl未満だと突然死する確率が、2倍前後高くなる |
肥満 | BMI指数が、26.5以上の人は、標準の人に比べて2.7倍突然死する確率が高い |
尿酸値 | 尿酸値が8.0mg/dl以上の人は、正常値の人に比べて3.4倍突然死する確率が高い |
心電図 | 期外収縮(ふつうのリズムより早期に心臓が収縮する状態)や心房細動(心房筋が規則的な収縮をできなくなる状態)などの不整脈があると、突然死する確率は3.7倍になる |
出典:川村孝(京都大学保健管理センター長)ら調査
「心電図の異常」の多くは心配のいらない不整脈ですが、なかには突然死の原因になる不整脈もあります。定期健康診断で心電図に異常があると言われた場合には、一度専門医で診断を受けましょう。
心臓は筋肉でできているポンプであり、そのはたらきによって血液を全身から集めて体中へ血液を送り出しています。この規則正しい収縮のリズムが狂ってしまった状態が不整脈です。
不整脈には、大きく分けて脈が速くなる頻脈性不整脈と脈が遅くなる徐脈性不整脈があります。なかでも、頻脈性不整脈の一種である心室細動は最も危険な不整脈であり、突然死の原因にもなっています。
心室細動とは、心臓の心室筋がばらばらに動いて血液を送り出すポンプの役割を果たさなくなった状態です。これが数分間続くと全身に血液が循環しないため、死に至ってしまいます。心室細動になる要因は、心臓の冠動脈が詰まる心筋梗塞や肥大型心筋症、拡張型心筋症です。
最近の研究では、特発性心室細動を起こす人には心電図に特有の形や振幅が出現することがわかってきたため、きちんとした心電図の検査を受ければ特発性心室細動のリスクは下げることができます。
もちろん、定期健診による心電図のチェックも必要ですが、なんといっても日常生活から気を付けることが大切。日々の積み重ねが突然の不幸を避ける最も有効な方法です。
突然死の原因ともなる心筋梗塞や狭心症の発作が深夜から明け方にかけて集中するのには理由があります。
人間の脳にある視床下部には、自律神経やホルモンの中枢など、重要な神経細胞がぎっしり詰まっています。その自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があり、本人の意思とは関係なくうまくバランスをとりながらはたらいています。
早朝から午前中は、ちょうど体が休息から活動に変わる時間帯であり、目が覚めるとそれまで活発にはたらいていた副交感神経のはたらきが低下し、反対に交感神経が活発になります。交感神経が活発にはたらくと、血圧が上昇したり、心拍数が増加するのです。
ところが、不規則な生活や夜更かしなどをすると自律神経のリズムが乱れ、血圧や心拍数が急激に上昇して心臓の冠動脈に負担をかけてしまいます。そのため、動脈硬化が進み冠動脈の血流が悪くなったり、詰まったりして狭心症や心筋梗塞などの発作が起こりやすくなるのです。
これを防ぐには、まず規則正しい生活をして、自律神経のリズムを乱さないこと。とくに、朝の光を浴びると目からはいった光は脳の視床下部に送られ、生体リズムが覚醒モードに入ります。1日の生活をスタートさせるには、できるだけ決まった時間に起き、朝の光を十分に浴びることが理想的です。
交感神経のはたらき | 副交感神経のはたらき |
---|---|
|
|
阪神淡路大震災やロサンゼルス地震の後に心臓に起因する突然死が急増したとの報告があります。
自分では疲れていないとか、ストレスなんてたまっていないと思っていても、実際には心的・肉体的に負担がかかっていることがあるのです。特に、ストレスは定期健診などで分かるものではないので、ある程度は自分で振り返りながら注意する必要があります。
職場や家庭などで悩みがあったり、ちょっと働き過ぎだなと思う場合には早め早めに休養を取るようにしましょう。また、本人がなかなか気づかない場合もあるので、周りから見て「働き過ぎだな」と思える人には、休養を取るよう勧めましょう。
突然死は運動中にも起こることがあります。
中高年の場合、ランニングのスタートやゴール直後、ゴルフの最中などに突然死することが多いようです。
普段から血圧が高い、コレステロール値が高い、また心臓になんらかの疾患があるなどの危険因子を持った状態で急激に運動をすると、心臓に負担がかかってしまうのです。
もし、事前に心電図に異常があるなどするのなら、あらかじめ運動負荷心電図やマスター2段階テストなどの検査を受けておきましょう。
また、運動中は水分を十分に摂り、急激な運動は避けるようにしましょう。
■関連記事