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以前と違うハイテンション、実は…?双極性障害を見過ごさないで!

普段とは人が変わったように「気分が昂ぶる」「おしゃべり」…。躁状態が軽い「軽躁状態」の場合は異変が目立ちにくく、双極性障害が見過ごされている可能性があります。

うつ病患者の10人に1人が、実は双極性障害

双極性障害はうつ状態と躁状態、2つの気分の波を繰り返す障害です。双極性障害に特徴付けられる躁状態では、普段とは人が変わったように「気分が昂ぶる」「おしゃべり」「やたらと社交的になる」「眠らないでも平気で動き回る」といった気分・行動の変化が認められ、それが昂じると仕事や人間関係に支障をきたしてしまうこともあります。うつ病で苦しんでいる患者さんの中に、以前に躁状態になったことがある、という方はおられないでしょうか?特に、躁状態が軽い「軽躁状態」の場合は異変が目立ちにくく、見過ごされている可能性があります。しかし、うつ状態のうつうつとした気分を経験している本人にしてみれば、躁状態のときはむしろ調子が良く、本来の自分の姿だとさえ感じられます。そのため躁状態の症状は自覚しにくく、また家族も本人の元々の性格によるものだと思い込んでいると、異変になかなか気づけません。

うつ状態で受診したとき、以前に躁状態があったかどうかを医師に伝えることは、双極性障害の診断ではとても重要です。しかし、もう何年も前に1、2週間あっただけのハイな状態が、現在のうつ病の治療に関係があるなどとは多くの方はご存じありません。そのため、以前に躁状態があったことを伝えず、本当は双極性障害なのに、うつ病と診断されるケースは少なくありません。うつ病と診断されている方の10人に1人が、実際には双極性障害であるとも言われています(文献1)。うつ病と診断され、双極性障害の適切な治療を受けられないと、症状の悪化を招くこともあります。受診の際は本人だけでなく、家族をはじめとした周りの方も、普段からの変化をきちんと医師に伝えることが大切です。

「自殺したい」という気が起こる前に、家族が気づいてあげたい

双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返すため、躁状態でいつも以上にやる気に満ちていても、やがてはうつ状態に転じます。このとき、躁状態のときの自分の振る舞いを思い返して、自責感に駆られて深刻に思いつめてしまうことがあります。思いつめた結果として最悪の場合、自殺に至るケースもあります。双極性障害では、うつ病よりも自殺が多いと言われています。
そこまで至らなかったとしても、双極性障害は再発を繰り返しやすいため、適切な診断を受けないと適切な治療が遅れ、結果として再発が起きやすくなり、再発を繰り返すことが社会的な後遺症となって、その後の生活を苦しいものにしていきます。また、双極性障害は摂食障害、不安障害、アルコール依存との合併もしばしばみられますので、要注意です(文献2)。治療が遅れれば遅れるほど、社会復帰が難しくなってしまうのが双極性障害なのです。

受診を勧めづらいときは、まずは家族だけで病院に相談に行くという手も

たとえ本人に躁状態の自覚がなくても、家族が異変を感じたら、精神科の専門医の受診を勧めましょう。受診を勧めても病院に行きたがらないときは、家族が皆で集まって説得することで、納得してくれることもあります。また、上司や恩師など、本人が信頼する目上の人の言うことであれば、勧めに応じてくれることもあります(文献3)(文献4)受診を勧めることに抵抗があったり、本人がなかなか勧めに応じなかったりした場合、まずは家族だけで病院に行き、医師やケースワーカーに相談してもいいでしょう(本人のカルテは本人が行かないと作ってくれませんが、多くの場合、何らかの形で相談に乗ってくれます)。

家族から、あのときはひょっとして躁状態だったのかも知れない、として伝えられるエピソードは、医師にとっては、適切な治療を進めるうえでの大きな手がかりとなります。「躁状態の特徴に近いけれど、大きなトラブルが起きたわけではないし、症状として伝えるほどではないだろう」などと思わず、気になることは医師に伝えるようにしましょう。

理化学研究所 脳科学総合研究センター
加藤忠史先生から家族へのメッセージ

双極性障害は、躁状態、うつ状態を繰り返す病気ですが、これらは必ず改善して元の状態に戻り、再発予防療法を受けることで、再発のリスクを減らすことができます。しかし、正しい診断が遅れ、適切な治療を受けないままに、躁状態での上司や家族との軋轢、うつ状態での休職等を繰り返すと、これが社会的な後遺症となって、患者さんの社会復帰を妨げてしまいます。躁状態、うつ状態による社会生活の障害を最小限にするためには、なるべく早く適切な診断に至り、正しい治療を受けることが大切です。双極性障害は、以前は、正しく診断されて予防療法を受けるまでに平均10年近くかかると言われ、その間に患者さんは多くの大切なものを失ってしまうのが常でした。しかし、双極性障害の正しい知識が普及し、早期に治療を受けられるようになれば、この期間はもっと短くできるはずです。双極性障害の徴候に早めに気づき、正しい診断を受けることをお勧めします。

参考資料:
文献1:『双極性障害(躁うつ病)とつきあうためにVer.7』(日本うつ病学会)
文献2:『双極性障害(躁うつ病)のことがよくわかる本』(講談社)
文献3:『双極性障害―躁うつ病への対処と治療』(筑摩書房)
文献4:『躁うつ病とつきあう[第3版]』(日本評論社)

監修医:
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 総長 樋口 輝彦 先生
九州大学大学院 医学研究院 精神病態医学分野 教授 神庭 重信 先生

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公開日:2017年1月10日