疾患・特集

見分けるのが難しい双極性障害のI型・II型

双極性障害の患者さんの中には、治療の効果がみられる方がいる一方で、なかなか改善しない方もいます。治療における問題点について、九州大学大学院教授の神庭重信先生にお話をうかがいました。

精神科医の間でも判断が分かれることのある、双極性障害のI型とII型

―― 双極性障害のI型とII型は、どのように分けられているのでしょうか?

I型とII型を明確に分ける基準はなく、「問診の質問ごとに点数を振り分けて、何点以上がI型で何点以下がII型とみなす」というような評価基準もありません。かつては「入院が必要となるほど重いのがI型」とされていましたが、現在はそこまで重症でなくても、障害が現れている場合には、I型とみなされることがあります。軽度のI型と重度のII型では、精神科医の間でも判断は分かれます。
医師は問診で手がかりを探ります。軽い躁状態だった軽躁エピソードは、本人があまり覚えていなかったため、医師に伝えていないこともあります。医師から過去の軽躁エピソードを尋ねられて、「あれがそうだったのか」と初めて気づく方もいます。患者さんも「たいしたことではないから、先生に伝えるまでもないだろう」とは思わず、どんなことでも医師に話したほうが正しく診断され、適切な治療を受けやすくなります。

I型とII型の躁症状

  • I型…夜通し眠らず活動的になったり、職場でトラブルを起こしたりする、激しい躁状態がみられます。
  • II型…生産性が上がったと感じる程度であるため躁状態の自覚がなく、診断されない傾向があります。

どんなに些細な躁エピソードでも、医師に伝えることが大切

―― 正しく診断されるために、患者さんができることはありますか?

思い当たるエピソードがあれば、どんなことでも医師に伝えましょう。I型なのかII型なのかによって、医師の判断が左右されることもあるため、どちらなのかが分かったほうが、適切な治療を受けやすくなります。患者さん本人も、自分がどちらなのかが分かったほうが病気への理解が深まり、安心できるかもしれません。どんなに些細な躁エピソードでも医師に伝えることは、うつ病と見分けるためにも重要です。それまでうつ病と言われてきたのが、双極性障害と診断されると患者さん本人が腑(ふ)に落ちる、というケースは少なくないようです。

―― 受診の際は、どんな検査が行われるのでしょうか?

問診では、現在の様子や症状が出始めた時期、学生時代や仕事のキャリアといったこれまでの生い立ちなどをお聞きします。また、家族関係や職場の問題、ストレスを感じていることも聞き、場合によっては心理テストを行います。問診以外では、血液検査や心電図検査、脳波測定、MRI検査などを行うこともあります。
家族から話を聞くこともあります。本人が気づいていないことの情報を医師に提供でき、適切な治療を受けやすくなるので、できれば家族と一緒に受診すると良いと思います。

薬を変えることで、著しい改善がみられるケースも

―― 患者さんにとって、治療が適切かどうかという影響はやはり大きいのでしょうか?

たとえ双極性障害だと正しく診断されていても、治療が適切でなければ改善が遅れてしまいます。反対に、治療がうまく合ったおかげで、見事に改善したケースもあります。以前に27、28歳の女性を診たことがあります。その方は2年ほどうつ状態に悩まされていて、治療も受けていましたがなかなか改善せず、当院を受診しました。「自分は双極性障害かもしれない」と言っていて、過去のエピソードを聞くとたしかに双極性障害でした。それまで飲んでいた薬を変えたところ、3~4ヵ月で改善しました。今は子どもと接する仕事をしていて、同居している家族も大変喜んでいます。

神庭重信先生からのメッセージ

双極性障害は、日本で使用できる薬が限られていることや、再発予防の面において、治療上の問題はまだあります。しかし、以前と比べればそれらは改善されました。適切な治療をしっかりと受ければ、「治療を受けて良かった」と感じるようになる方は多いでしょう。「自分はうつ病の治療を受けているけれど、なかなか良くならないし、違う病気かもしれない」と思ったときは双極性障害の可能性を疑い、自分に合うと感じられる専門医を受診して、思い当たる躁エピソードをきちんと伝えると良いでしょう。

公開日:2017年1月10日