双極性障害の患者さんの中には、治療の効果がみられる方がいる一方で、なかなか改善しない方もいます。治療における問題点について、九州大学大学院教授の神庭重信先生にお話をうかがいました。
適切な診断が難しいことや、再発率が高いこと、アンメット・メディカル・ニーズ(※)があることなどが挙げられます。これらが、日本の双極性障害の治療を難しくしていると考えられます。
躁状態が出ていないときは、うつ病と見分けにくいのが、最大の理由です。躁エピソードと呼ばれる、躁状態になったときの体験談を聞き出せれば、初めはうつ病と診断されても、実は双極性障害だったと分かることがあります。ところが、躁エピソードを聞き出せない限りは、双極性障害であると決定的に診断できる方法がないため、見分けるのはきわめて難しくなります。うつ病なのか、双極性障害なのかを正しく診断することは、精神科医が抱えている一番難しい問題かもしれません。双極性障害であることまでは分かっても、I型とII型の診断は困難なことが多いのです。
双極性障害と診断した患者さんに、まずは気分安定薬を使用することを考えます。しかし、うつ病と診断した場合に使用するのは、一般的には抗うつ薬を考えます。双極性障害の患者さんは、抗うつ薬ではあまり改善しないばかりか、副作用が出る恐れがあります。診断が適切になされていないと、本来は慎重になるべき抗うつ薬の使用を、双極性障害の治療で知らずしらず行ってしまうのです。
双極性障害はうつ病よりも再発しやすく、患者さんの約3分の1が何年にもわたって再発を繰り返すと言われています。いつまで治療を続ければいいのか分からず、患者さんは不安を抱えています。再発をきちんと予防することが、双極性障害の治療では大切です。
再発を繰り返すことが多いのは、働きざかりの現役世代です。仕事を頑張りたい、早く仕事に復帰したいという気持ちが強く、つい頑張りすぎてしまうケースが多いようです。働きざかりの頃は症状に悩まされても、定年退職を迎える年齢に近づくと、多くの患者さんは症状が落ち着き、再発しにくくなります。これは、年齢の影響もありますが、ストレスが減ったことや、若い頃にきちんと治療を続けた結果とも言えるのではないでしょうか。
大きな問題の一つに、薬の副作用が挙げられます。双極性障害の治療で使用される抗精神病薬には、副作用として、パーキンソン症候群や体重が増加することがあります。なるべく早く対処することが大切です。また、食欲を増進させる作用をもつ薬を処方する際などは特に、患者さんには定期的に体重を測ってもらうように勧めています。
患者さんにとって最適と思われる薬が、日本では双極性障害の薬として使用できないことがあります。日本で一般的に使用されている双極性障害の薬には、躁症状の改善や、再発予防効果が期待できるものなど、いくつかの種類があります。しかし、うつ症状を改善する治療薬は限られていますので、新しい薬物の治験が進められています。