疾患・特集

作業療法の役割とは?

関節の痛み・腫れ・変形・破壊、体のだるさなどの症状が現れ、日常生活に支障をきたすことがある関節リウマチ。それだけに、日常生活をサポートしてくれる作業療法が占める役割は大きい。近年、関節リウマチの薬物治療が進化したことに伴って、作業療法の現場でも変化がみられているという。その現状を、作業療法士の鴻井先生に伺った。

お話を伺った先生:社団法人 日本作業療法士協会 鴻井建三先生

劇的に変化した作業療法

―― 薬物治療の進化によって作業療法に変化があったといわれていますが、具体的にどのような変化があったのですか?

鴻井先生:
以前は、関節が破壊されて手術が必要になるような重症の患者さんを対象に、日常生活で困難な動作を自助具でサポートする作業療法が中心でした。ところが、最近は、症状がそれほど悪化していない患者さんを対象に、進行を防ぐ自助具を使った作業療法を行うことが中心になってきています。

―― 症状がそれほど進行していない患者さんを対象に作業療法が行われるようになった理由は何ですか?

鴻井先生:
近年、抗リウマチ薬に加え生物学的製剤も使われるようになって、関節リウマチの炎症がコントロールでき、症状が進行していない患者さんが増えたことが理由です。これによって、関節が破壊されていない時期に作業療法を行う重要性も認識され始めました。

「それでは遅い」となる前に

―― 症状が悪くなってから作業療法をするのだと思っていました。

鴻井先生:
「ノドが乾いたときにはもう遅い」という熱中症と同じで、それでは遅いんです。
関節を家に例えた場合、関節リウマチは関節の炎症なので、家が火事を起こしているようなものだと例えられます。火を止めなければ、いずれ家は壊れてしまう。これは、関節リウマチの治療をせずに放っておくと、関節が変形し破壊されていくことと似ています。できるだけ早い段階で対策を取り、関節を保存しなければなりません。

―― 具体的に、作業療法はどのようなことを担っているのですか?

鴻井先生:
瞬時に力を入れたり重いものを持ったりして関節に大きな負担をかけ続けると、関節の痛み・変形・破壊を引き起こしてしまいます。そこで、負担をかける姿勢や動作は何かを教え、自分の場合どういう動作で痛みが現れるのかも意識してもらいます。また、関節の状態を習慣的に観察してもらい、痛みや腫れなどの異常にすぐ気づけるようになってもらうなど、予防策を教育・指導しています。

普段の生活がキーポイントに!

―― 患者さんは指導された予防策を実行できていますか?

鴻井先生:
症状が悪くなり日常生活に困っている患者さんは、積極的に予防策を実行してくれます。しかし、痛みなどがコントロールされている患者さんは、悪化を予防する必要性があると理解されていても、予防策を日常的に実行することが難しいようです。気がついたときには、関節に大きな負担がかかるため控えた方がよい動作を行っているんです。

―― 控えるといっても普段よく行う動作ですが、どうすれば…

鴻井先生:
関節に大きな負担がかかる動作は、旦那さんをはじめ家族が代わりに行っているという患者さんが多いようです。しかし、シングルマザー、一人暮らし、家族・職場の人が協力してくれないなど、家庭や仕事の状況によっては、協力が得られない患者さんもいます。そういう時は、自助具を使ったり、少しでも負担がかからない動作方法をアドバイスしています。
例えば、仕事中や仕事後に腫れやすい関節にテーピングをすると、関節で炎症を起こす物質が悪さをしないように圧迫してくれます。寝る前に腫れているところがあれば、今日頑張りすぎた証拠。薬をしっかり飲み、寝るときにテーピングや手を休めるスプリントを使い、手を安静にしてあげれば、翌日はだいぶ楽になります。

控えた方がよい動作

  • 布団を干す
  • 重い荷物を持つ
  • ゴミを出す
  • 調理
  • パソコン操作 など

―― 最後に、ユーザーの方へのメッセージをお願いします。

鴻井先生:
患者さんの中には、薬でコントロールできているからと活動量を増やした結果、一気に症状が悪くなったという人もいます。薬で症状をコントロールできても、頑張りすぎたり適切な予防策をとらないと、症状を悪化させることがあることを知ってもらいたいです。
作業療法では、患者さんが生活の中で見直すべき点が分かります。しかし、症状が軽い場合、作業療法を受ける機会が少ないのが現状です。信頼できる医師に症状をコントロールしてもらったら、自分に合った関節の保護法やトレーニング法を学んで、ぜひ実施して欲しいと思います。