疾患・特集

増えているアルツハイマー型認知症

「あれ・それ・あそこ」は単なる老化?

「うちのおばあちゃん、最近物忘れがひどくなって…」高齢者と生活をともにしていると、しばしばこうした悩みが持ち上がる。たとえば、モノや場所などの名前を忘れ、「あれ・それ・あそこ」などの代名詞が多くなる物忘れ。会話の最中に肝心の名前が出ず、もどかしい思いをした経験がある人も多いはず。だが、この程度なら老化の範囲内、つまり年相応の物忘れと考えていいのだろうか?
問題なのは「あれ・それ・あそこ」といった名前の記憶にとどまらず、体験した記憶がすっぽり抜け落ちてしまうことだ。例えば旅行をした場所の名前を忘れるだけでなく、旅行したこと自体や旅行の一部を全く忘れてしまう場合。こうなると、年相応の物忘れではなく、認知症による物忘れの疑いが強くなる。

85歳以上では、4人に1人がアルツハイマー型認知症

認知症は、老化ではなく、脳の病気が原因となって引き起こされる。認知症の原因にはいろいろあるが、最近増えているのはアルツハイマー型の認知症だ。日本認知症ケア学会によると、85歳以上の高齢者では、約25%前後の人がアルツハイマー型認知症であると推定されている。
アルツハイマー型認知症についてはまだよく分かっていないが、脳の神経細胞の減少や機能の低下によって引き起こされる病気で、脳内に沈着する異常なタンパク質が関与しているのではないかと言われている。

アルツハイマー型認知症以外のおもな認知症

  • ●血管性認知症
    脳出血・脳梗塞などの病気が原因で脳の神経細胞が減少し、認知症を発症。60~70代の男性に多い。
  • ●ピック病による認知症(前頭側頭葉型認知症)
    前頭葉から側頭葉にかけての脳が萎縮し、認知症を発症。人格が変化し問題行動が多くなる。
  • ●レビー小体病型認知症
    脳の神経細胞にレビー小体が出現し、認知症を発症。幻視などの幻覚がみられることが多い。

アルツハイマー型認知症のサインはこれだ

認知症というと徘徊や妄想といったイメージがあるが、こうした症状は現れないこともあり、また、現れるとしても病気がかなり進行してからだ。家族など、近くにいる人が早い段階で変化に気づけば、適切な治療によって症状を改善させたり、進行を遅らせることも可能となる。
捜し物ばかりしている、同じ物を何度も買ってしまう、勘定を間違える、入浴を忘れる、道を忘れる、事故をよく起こす…こうした日常生活における機能低下がサインとなるほか、下表のような認知症診断のための評価スケールも目安となるので、参考にされたい※。
現在、医療機関で認知症を診断するためには、わが国で開発された「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」がよく用いられている。見当識(現在の自分の状況を正しく認識していること)、記憶、失語、計算力などの状態を短時間で測ることができ、合計点が20点以下であれば認知症が疑われるとされている。

改訂 長谷川式簡易知能評価スケール

1 お歳はいくつですか?
(2年までの誤差は正解)
0 1
2 今日は何年の何月何日ですか?何曜日ですか?
(年月日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ)
0 1
0 1
0 1
曜日 0 1
3 私たちがいまいるところはどこですか?
(自発的にできれば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか? のなかから正しい選択をすれば1点)
0 1 2
4 これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。
(以下の系列のいずれか1つで、採用した系列に○印をつけておく)
1: a:桜 b:猫 c:電車
2: a:梅 b:犬 c:自動車
0 1
5 100から7を順番に引いてください。
(100-7は? それからまた7を引くと? と質問する。最初の答えが不正解の場合、打ち切る)
93 0 1
86 0 1
6 私がこれから言う数字を逆から言ってください。
(6-8-2、3-5-2-9 を逆に言ってもらう。3桁逆唱に失敗したら、打ち切る)
2-8-6 0 1
9-2-5-3 0 1
7 先ほど覚えてもらった言葉をもう1度言ってみてください。
(自発的に回答があれば各2点、もし回答がない場合、以下のヒントを与え、正解であれば1点)
a:植物 b:動物 c:乗り物
a : 0 1 2
b : 0 1 2
c : 0 1 2
8 これから5つの品物を見せます。それを隠しますのでなにがあったか言ってください。
(時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係なもの)
0 1 2
3 4 5
9 知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。
(答えた野菜の名前を右欄に記入する。途中でつまり、約10秒間待っても出ない場合にはそこで打ち切る)
0~5=0点、6=1点、7=2点、8=3点、9=4点、10=5点
  0 1 2
3 4 5
  • ※尚、自宅で行うことはお勧めできません。正確な施行と診断は専門医に委ねて下さい。
  • ※ほかに、米国で開発された「MMS(Mini-Mental State Examination)」なども使用されています。