疾患・特集

専門医の提言「女性泌尿器科外来へ行こう」

過活動膀胱患者の現状とは?

竹山政美先生
取材協力:健康保険組合連合会
大阪中央病院・女性泌尿器科部長
竹山政美先生

潜在患者数810万人のうち、受診率はわずか3~6%といわれる過活動膀胱。実際、その症状に悩み、つらい思いを抱えながらも、どこへ相談すればよいのかわからず、あきらめている患者さんが大多数である。そこで、多くの過活動膀胱患者さんの治療にあたっている大阪中央病院の竹山政美先生にその現状をうかがった。

過活動膀胱は、婦人科と泌尿器科との境界領域の病気であり、双方の専門知識を持つ医師による治療が必要となる。そこで竹山先生が泌尿器科部長を務めている大阪中央病院では、2002年に女性のための泌尿器外来を開設。2005年にはそれを「女性泌尿器科ウロギネセンター」へと発展させた。「婦人泌尿器科」という分野は、ここ数年でようやく必要性が認識されてきたところだが、過活動膀胱に悩む患者さんの受け皿として、マスコミでも取り上げられる機会が増え、次第に女性専用の泌尿器科外来も増えつつある。

Q. センターを受診する患者さんの現状を教えてください

A. 全体の6割が尿失禁を訴える患者さんです
当センターでは、主に各種尿失禁や骨盤臓器脱、骨盤内手術(子宮がん、直腸がんなど)の術後の排尿障害などを中心に治療を行っていますが、なかでも患者さんを疾患別に分類すると、走ったり、咳、くしゃみをしたりしたときに尿もれを起こす腹圧性尿失禁が31%、トイレが我慢できずにもらしてしまう切迫性尿失禁が13%、その両方の症状が出る混合型尿失禁が15%、と患者さん全体の6割が尿失禁です。

Q. 過活動膀胱の受診状況について教えてください

A. 受診率はまだ低く、多くの方が我慢しているのが現状です
過活動膀胱は、40歳以上の8人に1人は罹患経験があるといわれるほど、多くの方にみられる病気です。しかし、(1)病院の敷居が高い、(2)加齢による生理現象だとあきらめていたり、治る可能性のある病気だということを知らない、(3)どこの病院にかかればいいのかわからない、といった理由から、その症状に悩みながらも、大多数の方が治療を受けずに我慢しているのが現状です。

簡単で明確な診断が可能になり、安全で有効性の高い薬も登場

過活動膀胱は新しい病気の概念であるため、一般医向けのガイドラインも2005年に発刊されたばかりだというが、実際には過活動膀胱の診断や治療はどのように行われるのだろうか。そのガイドラインのポイントを竹山先生に紹介してもらった。

Q. 過活動膀胱の診断は簡単にできると聞きました

A. 過活動膀胱では、自覚症状が優先されます
患者数はきわめて多いにもかかわらず、かつては過活動膀胱の診断・治療は尿流動態検査を要する大変なものでした。しかし、今は患者さんの負担や抵抗感が大きいことに加え、この検査で異常がみられなくても、尿意切迫感や頻尿の症状を訴える人が少なくないこと、また原因を特定しにくい患者さんが多いことから、今は必ずしも尿流動態検査をしなくても、自覚症状を優先し、過活動膀胱と診断できるようになっています。

Q. 問診ではどのようなことを聞かれるのでしょうか?

A. 「尿意切迫感」「頻尿」「切迫性尿失禁」の自覚症状についてうかがいます
過活動膀胱が疑われる患者さんには、「症状質問票(OABSS)」に答えていただきます。

  • (1)「朝起きたときから寝るまでに何回くらい尿をしましたか?」
  • (2)「夜寝てから朝起きるまでに何回くらい尿をするために起きましたか?」
  • (3)「急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか?」
  • (4)「急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことがありましたか?」

という尿に関する4つの質問の回答を点数化して、過活動膀胱の診断と重症度判定をします。

Q. 過活動膀胱の有効な治療法を教えてください

A. 薬物治療と行動療法が有効な治療法です
現在、過活動膀胱の薬物治療では、有効性と安全性の面から抗コリン薬が最もよく使われています。抗コリン薬には、過活動膀胱の原因となる排尿筋の不随意収縮を抑制し、膀胱を十分に尿が溜められる状態にする効果があります。口の渇きや便秘といった副作用も考慮しなくてはいけませんが、その問題もほぼクリアした抗コリン薬も出てきましたので、大いに期待しています。
また、行動療法は、トイレ習慣を改善するために排尿日誌をつける、飲水量を減らす、トイレに行く間隔をあけていく膀胱訓練をするといった方法があります。

過活動膀胱のことをもっと多くの方に知ってもらいたい」

多くの方が悩みを抱えながらも、治療を受けず我慢しているという「過活動膀胱」。受診率が上がらない原因、問題点はどこにあるのだろうか。専門医が感じる今後の課題と、取り組みについて聞いた。

Q. 今後の過活動膀胱治療の課題は何でしょうか?

A. 治療が可能だと知ってもらうことでしょう
泌尿器科への受診をためらう方が多いので、まず女性泌尿器科外来を増やし、診療を身近にすることが大切です。また、最も重要なことは、過活動膀胱は加齢のせいとあきらめてしまうことなく、適切な治療で症状を大幅に軽減することができるということを多くの方に知っていただくことです。

Q. そのためにはどのような対策が必要でしょうか?

A. メディアの力も借り、多くの方に情報を提供することが必要です
当院でも積極的に情報提供を行っており、2002年には月5名に満たなかった患者さんが、2005年度には月100名を超えるようになりました。しかし、全国的には現在もなお、受診率は潜在患者数の3~6%と言われています。もっと多くの方に正しい情報が届くよう、情報提供を行っていく必要があると感じています。とくにメディアを通じての情報提供を行うと受診者が増えるというデータも出ています。女性泌尿器外来を開設する病院は次第に増えてきましたので、メディアの力も借りながら、多くの方に、過活動膀胱についての正しい知識を伝え、この病気で悩んでいる方の受診率向上を目指していきたいと思います。

過活動膀胱の治療は、ここ数年で大きく変わっている。そしてその受け皿はここ数年で確実に増えている。まずはつらさ、悩みをひとりで抱え込まず、私たち患者が、受診の一歩を踏み出すことが大切だ。

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