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がんの転移はどうして起こるのか?

がんの「転移」とは、がん細胞が最初に発生した場所とは別の臓器や器官で増えることを言います。がんの転移はどうして起こるのでしょうか。そのプロセスを詳しく説明します。

リンパ液や血液の流れで移動

がん治療の話のなかで、「がんが転移した」という言葉がよく使われます。がんの「転移」とは、がん細胞が最初に発生した場所とは別の臓器や器官で増えることを言います。

この転移は、肺や肝臓、脳などの臓器、骨などさまざまな部位に起こり、最初に発生した場所とは離れた場所に現れることもあります。これは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って、離れた場所へ移動するからです。

このプロセスをもう少し詳しく説明します。

細胞には主に皮膚や内臓の表面などを構成する「上皮細胞」と、骨や筋肉、血液などを構成する「間葉細胞」があります。そして、上皮細胞がこの性質を失い、間葉細胞としての性質を新たに得ることを「上皮間葉転換」と言います。がんの転移はこの上皮間葉転換のメカニズムにより発生します。

どのようなことかと言うと、まず、上皮細胞の悪性腫瘍であるがんの制御不能な細胞増殖が始まります。すると、腫瘍細胞が周囲の構造を壊しながら、血管やリンパ管に侵入します。そして、この侵入した細胞が血液やリンパ液の流れに乗ってほかの部位に到着、血管やリンパ管の外に出て離れた組織に定着する、という仕組みです。

ケモカインとケモカイン受容体

ここまでに、がんが転移するプロセスについて説明しましたが、最初にがんができた場所である「原発巣」と、転移先には、「種と土」のような関係性があると言われています。つまり、大腸がんは肝臓、肺がんは脳、乳がんや前立腺がんは骨への転移が多い、というような関係性です。

それでは、このようなことがなぜ起こるのでしょうか。

原発巣と転移先の「種と土」の関係は、「ケモカイン」と「ケモカイン受容体」の結びつき方によるものと考えられています。

ケモカインとは転移先の組織が分泌する物質で、ケモカイン受容体とはリンパ球などの表面に発現するものです。人には50種類のケモカインと18種類のケモカイン受容体が同定されています。

ケモカインとケモカイン受容体は「鍵と鍵穴」のような関係にあり、結びつく相手は決まっています。このため、どのリンパ球がどの臓器に移行するかは、ケモカインによって制御されるということになります。

このケモカインに着目した、がんの治療薬の開発も行われていて、2012年には成人T細胞白血病に対する治療薬が発売されています。

公開日:2016/05/09