「Precision Medicine」は「精密医療」や「高精度医療」と解釈されています。これは各個人のゲノム解析などによる遺伝子情報に基づく分類や、生活習慣などの違いに着目した治療と予防を行う新しい医療のことです。
2015年1月20日、オバマ米大統領は一般教書演説のなかで、今後米国が推進していく医療として「Precision Medicine」という言葉を使用しました。当時の米国においても、この言葉は一般には認識されておらず、日本でもその翻訳と解釈が不安定でした。
現在、「Precision Medicine」は「精密医療」や「高精度医療」と解釈されています。これは各個人のゲノム解析などによる遺伝子情報に基づく分類や、生活習慣などの違いに着目した治療と予防を行う新しい医療のことです。
従来、この「Precision Medicine」とは別に「Personalized Medicine」という言葉があり、これは「個別化医療」と訳されています。
個別化医療はオーダーメイド医療、テーラーメイド医療などともいい、これも遺伝子情報や生活習慣などを元に、個人個人にデザインした治療方法を施すことですが、こちらは対象があくまで個人であり、100人の患者がいれば、理論上100通りの治療方法が設定されることになります。
個別化医療では、患者ごとに治療方法が提示されることになりますので、どうしてもコストが大きくなります。一方、精密医療は、遺伝子情報などのビッグデータ分析による分類に基づきますので、その対象は集団であり、個別化医療よりも低コストになります。
今後、個別化医療がさらに進歩したとしても、その恩恵は高額な医療費を支払える富裕層だけになるかもしれません。精密医療であれば、経済的な地位にかかわらず、その恩恵を受けられる可能性があり、また、個別化医療には疾病予防への配慮はあまり含まれていないため、精密医療では予防の観点からも期待されています。
オバマ米大統領の一般教書演説の後、米政府は精密医療に関する具体的な施策を明らかにしました。その中で、特に注目されるのががん治療の分野です。
米国立衛生研究所に1億3000万ドル、その傘下の国立がん研究所に7000万ドルの予算を充て、研究所において、がんの発生に直接関わる遺伝子を特定する取り組みを拡充するとしています。
これにより、患者それぞれのがんに対応し、より効果的で、より多くの治療方法の確立を目指しますが、それだけではなく、ゲノムからがん発生メカニズムを解析することでその予防、診断方法が進歩することによる早期診断、早期治療の実現も期待されるところです。
がん治療におけるこの分野は、多くのがん患者を治療するという観点からの期待のほかに、創薬などがもたらす経済効果も期待されます。
しかし、日本の場合、かつては米と競うレベルだったゲノム医療研究も、現時点で米は元より欧州各国にも後れを取っています。ゲノム情報による精密医療は医療費削減の可能性もあるだけに、国としてこの分野により一層の注力が求められています。