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前立腺がん治療の新たな選択肢!手術支援ロボット「ダヴィンチ」

2000年に登場した、手術支援ロボット「ダヴィンチ」。前立腺がんの治療法として「ダヴィンチ」を用いたロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術は、2012年には前立腺がんの保険適用となって以降、この手術法を選択する患者さんは増えています。ダヴィンチの機能やダヴィンチ手術の効果などをご紹介します。

保険適用となって以降、ダヴィンチによる前立腺がん手術が増加

前立腺がんは、65歳前後から多く発見されるようになる、男性特有のがんです。発症には、加齢や家族歴(家系)、アンドロゲンという男性ホルモンなどが関係していると考えられています。早期のうちは自覚症状がありませんが、進行すると残尿感や頻尿などが現れるようになり、骨や肺などに転移することもあります。
進行状況や高齢であることなどを考慮し、積極的な治療を行わない場合は、血液検査でPSA値などを確認する経過観察するPSA監視療法(待機療法)が行われます。積極的な治療が必要な場合は、手術による前立腺の摘出や放射線治療、内分泌療法や化学療法などの薬物療法が行われます。

前立腺がんの主な治療法

  • ●PSA監視療法(待機療法)
  • ●手術(外科治療)
    ・開腹手術
    ・腹腔鏡下手術
    ・ダヴィンチ手術
  • ●放射線治療(陽子線治療、重粒子線治療)
  • ●内分泌療法(ホルモン療法)
  • ●化学療法(抗がん剤治療)

前立腺を摘出する手術の方法はかつて、下腹部を切開する開腹手術のみでした。後に、腹部にあけた小さな穴から内視鏡や電気メス、鉗子(かんし:物をつかんだり圧迫したりするハサミ状の手術器具)などを挿入し、モニターを見ながら切除する腹腔鏡下手術が行われるようになりました。これらに加わる形で2000年に登場したのが、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いたロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術です。「ダヴィンチ手術」「ロボット手術」などと呼ばれ、2012年には前立腺がんの保険適用となって以降、この手術法を選択する患者さんは増えています。

ダヴィンチ手術
ダヴィンチ手術の様子

出血量が少なく、がん細胞を取りきる効果は開腹手術と同等

鉗子の操作の様子
鉗子の操作の様子

ダヴィンチ手術のがん細胞を取りきる効果は開腹手術と同等でありながら、傷口の小ささは腹腔鏡下手術と同等で、出血量はさらに少なく抑えられます。ダヴィンチを使用した手術は通称「ロボット手術」と呼ばれますが、ロボットが自動的に手術を行うわけではありません。ダヴィンチ、すなわちロボットを操作して手術を行うのは医師であり、ロボットは医師をサポートする役割を担っています。

ダヴィンチは、次の3つから成ります。

  • (1)患者から離れた場所に配置される操作盤「サージョンコンソール」
  • (2)患者の側に配置されるアーム部「ペイシェントカート」
  • (3)画像処理装置を格納した「ビジョンカート」

医師は、ペイシェントカートの内視鏡カメラが撮った体内の3D画像を見ながら、サージョンコンソールでアームの操作を行います。ビジョンカートは、最適な画質に処理された3D画像をサージョンコンソールに映し出すだけでなく、モニターにも2D画像として映し出します。これにより、手術を行っていない医師や看護師も、手術の様子を同時に把握できます。モニターに取り付けられたマイクによって、サージョンコンソールで手術を行っている医師と、音声でコミュニケーションをとることも可能です。

サージョンコンソール
サージョンコンソール

ペイシェントカート
ペイシェントカート

ダヴィンチにはロボットならではの、次のような機能が備わっています。

ダヴィンチの主な機能

  • ●高解像度の立体画像として体内を見られる3Dカメラ
  • ●拡大して見ることができるズーム機能
  • ●人間の手より多い3本のアーム(内視鏡を取り付けたカメラアームを含めると計4本)
  • ●2回転以上まわるリスト(人間における手首)
  • ●人間の手指のようにつかむ、はがすといった動作が可能な鉗子
  • ●繊細な動きをサポートする医師の手ぶれ防止機能
  • ●手術する医師が、長時間立ったままの無理な姿勢でいる必要がない、座った姿勢での手足による遠隔操作

ダヴィンチ手術の費用は?手術を受けられる年齢や医療施設は?

ダヴィンチ手術の選択を検討する患者さんの多くが懸念する点として、次のようなものがあります。疑問に思うことや不安なことがあれば、医療施設に問い合わせて確認し、納得したうえで治療を受けることが大切です。

Q. 手術の費用は?

A. ダヴィンチを用いた前立腺の摘出手術は健康保険が適用されます。3割負担の場合、一般的に約40~50万円とされています。高額療養費制度(限度額を超えた分の医療費が払い戻される、公的医療保険における制度)も適用されるので、最終的な負担はさらに軽減されます。手術を受ける医療施設で、事前に確認しましょう。

Q. 手術を受けられる年齢は?

A. 高齢者でも、開腹手術や腹腔鏡下手術を受けられる人であれば、受けることが可能です。ダヴィンチ手術は、開腹手術よりも体の負担が少ないと考えられています。ただし、前立腺がん以外の病気にかかっていると受けられないこともあるので、医師と相談して決める必要があります。

Q. 手術を受けられる医療施設は?

A. ダヴィンチを導入している国内の医療施設は限られています。そのため、お住まいの地域の医療施設でダヴィンチ手術を受けられるかどうか、事前に問い合わせて確認しておく必要があります。日本では、100を超える施設がダヴィンチを導入しています。世界の医療施設で導入されている約3,100台のダヴィンチのうち、日本の導入数は約180台です。

前立腺がん以外の腎臓がん、子宮頸がん、大腸がんなどのほか、がん以外では心臓外科の領域でも、ダヴィンチ手術は行われています。しかし、これらの手術では健康保険適用は認められていないため、全額が自己負担となります。前立腺がん以外でも保険適用がされることが、患者側の立場からは望まれます。
ダヴィンチ手術の難点として、受けられる医療施設が限られていることがあります。ダヴィンチの登場当初は1台約3億円とされ、多くの医療施設はなかなか導入できませんでした。近年ではダヴィンチ手術の実績が認められてきたのとともに、価格も約2億5千万円に引き下げられたり、アームが1本少ない1億円台のタイプも発売されたりと、依然として高額ではあるものの、導入のハードルはいくらか下がったと言えます。

ダヴィンチは元々、遠隔地の兵士を治療するという軍事的な目的もあり、米国で開発が進められたと言われています。長距離間での遠隔操作など、今後の技術的な開発にも期待が高まります。

画像提供:インテュイティブサージカル合同会社

公開日:2014/10/14