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日本は大丈夫?流行の可能性は?よくわかる「エボラ出血熱」

2014年の3月以降、西アフリカ諸国でエボラ出血熱が流行し、WHOは緊急事態を宣言、死者は2,000人を超えました。日本ではあまり知られてこなかったこの感染症について、解説します。

治療薬やワクチンがない、エボラウイルスによる感染症

2014年の3月以降、西アフリカ諸国(ギニア・リベリア・シエラレオネ・ナイジェリア)で、エボラ出血熱の流行が起きました。WHO(世界保健機関)は2014年8月8日に、ついに緊急事態を宣言。死者は2,000人を超えました。日本ではあまり知られてこなかったこの感染症について、解説します。

Q. エボラ出血熱とは、どんな病気なのでしょうか?

A. エボラウイルスによる、命に関わることもある感染症。症状が現れるまでの潜伏期は2~21日。

エボラ出血熱は、エボラウイルスによる感染症です。必ずしも出血や発熱が現れるわけではなく、エボラウイルス病(Ebola virus disease:EVD)、エボラウイルス疾患、エボラウイルス感染症などと呼ばれることもあります。ウイルスの名前は、アフリカの、最初に感染が確認された地域を流れるエボラ川に由来します。

エボラウイルスに感染してから症状が現れるまでの潜伏期は、2~21日(通常は7~10日)。その期間を経た後、突然の発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、のどの痛みなどが起こり、次いで嘔吐、下痢、発疹、肝機能および腎機能の異常、胸の痛み、出血(吐血、下血)などの症状が現れます。エボラウイルスには5種類あり、致死率は病気の型によって異なります。WHOによると、2014年の流行における致死率は53%です。

Q. どんな治療が行われるのでしょうか?

A. 治療薬や予防ワクチンはないため、隔離して対症療法を行い、免疫力による回復を補助。

エボラウイルスに有効な治療薬や、予防ワクチンはありません。感染者を隔離したうえで、症状に応じて点滴・抗生物質・鎮痛剤・栄養治療食・ビタミン剤などを用いる対症療法を行って、患者自身の免疫力による回復を助けます。
2014年の流行では緊急事態として、未承認薬の使用が検討されています。未承認薬とは、治療薬となる可能性はあるものの、実際の治療効果や、副作用などの安全性が十分に確かめられていないため、国から治療薬として認められていない薬を指します。

空気感染はせず、血液や吐物を介した接触感染が主なルート

Q. どのように感染するのでしょうか?

A. 体液や汚染された注射針との接触により感染。インフルエンザのような空気感染はしません。

エボラウイルスに感染し、症状が出ている患者の体液(血液、唾液、排泄物、尿、汗、分泌物、吐物など)や、その体液に汚染された注射針などに触れ、ウイルスが傷口や粘膜から侵入する接触感染で感染します。感染者と接する機会のある医師や看護師は、体液との接触を避けるために、防護服、手袋、ゴーグル、マスク、ブーツなどによる、肌の露出を防ぐ完全防備が必要です。
2014年の西アフリカでの流行では、エボラ出血熱に関して正しい知識をもっているはずの医師や看護師の感染が、あいついで報告されています。これは、ただでさえ暑い気候の中で、完全に密閉された動きにくい防護服を着込んでの連日の作業により、疲労の蓄積や集中力が途切れることで、ミスが起きやすくなったからだと言われています。具体的なミスとして、防護服や手袋の着脱の際に感染者の体液に接触したことや、注射針が誤って自分に刺さったことなどが挙げられます。

一般的に、感染していてもまだ症状が出ていない潜伏期の患者からは、感染しません。空気感染もしないため、インフルエンザのように、咳やくしゃみ程度での感染も起きません。実際に流行が起きたアフリカの地域では、エボラウイルスに感染した野生動物(コウモリ、サルなど)の死体や、その生肉に直接触れることでも感染すると考えられています。自然界で、エボラウイルスを体に宿す宿主はコウモリだと考えられていますが、はっきりしたことはまだ分かっていません。

Q. 2014年の流行は、どうして起きたのでしょうか?

A.「西アフリカで初」「都市部での発生」「葬儀の風習」などの、複数の条件が関係しています。

2014年以前にエボラ出血熱が流行したのは、中央アフリカの、人の行き来が少ない地域でした。2014年の流行では、西アフリカ各国の政府や医療機関に、エボラ出血熱の知識や経験がなく、対処に慣れていないため、患者の隔離などが遅れたと言われています。また、都市部での流行だったため、人の行き来や交流が多く、人から人へと感染する機会が多かったことも影響しています。上下水道など、インフラが十分に整備されていないことも、要因の一つです。
さらに西アフリカでは、葬儀の参列者が遺体に直接触れて、その死を悼むという風習があります。感染者が亡くなってまだ間もない時期は、遺体にウイルスが潜んでいます。特に、エボラウイルスは死の直前に最も感染力が増すとされているため、遺体を触るのは、感染リスクが高い行為だと言えます。

2014年にエボラ出血熱が流行した西アフリカ諸国
2014年にエボラ出血熱が流行した西アフリカ諸国

日本でただちに流行するリスクは低い。予防のために、流行地域への渡航は控えよう

Q. 日本では流行しないのでしょうか?

A. 流行地域への渡航者が少ないことから、日本でただちに流行するリスクは低いと考えられています。

エボラ出血熱は、直接的な接触によって感染する病気であり、流行地域は日本人の渡航者が少ないアフリカに限られることから、日本での流行はまず起きないと考えられています。
2014年の流行では、感染した人が、ウイルスを海外から日本国内へ持ち込まないように、水際対策も行われています。国際線の空港の検疫所では、アフリカから帰国した人が発熱していないかをサーモグラフィで確認したり、ポスターの掲示で注意を呼びかけたりする対策がとられています。
エボラウイルスへの感染が疑われる人が見つかった場合は、感染症指定医療機関へ搬送されることになります。感染症指定医療機関としては、「特定感染症指定医療機関」として3施設、「第一種感染症指定医療機関」として44施設があります。(2014年4月1日現在)
検査の結果、感染していることが明らかになれば、患者は感染防御対策の施された病室で治療を受けます。エボラ出血熱は一類感染症に指定されているため、感染症法に基づき、治療は公費によって提供されます。

エボラ出血熱を予防するために大切なのは、流行地域への渡航を控えることです。日本で流行するリスクが低いと聞いても、どうしても不安な気持ちを拭いきれない方は、流行地域でも推奨されている、石鹸での手洗い、食材には必ず火を通してから食べること、気になる症状が現れたらすぐに医療機関で相談することなどを実践しましょう。たとえエボラ出血熱に感染する恐れがなかったとしても、これらはほかの感染症の予防としても有効なので、不安が余計にかき立てられない限りは、無駄にはならないと言えるでしょう。

感染症を過剰に恐れたり過信したりしないために、確かな情報をもとにした判断を!

感染症が流行すると、「○○地域に住む複数の友人が、感染者を目撃したと言っている」「日本にも感染者はいるが、政府が情報を隠しているらしい」といった情報を、TVやインターネット、雑誌、口コミなどで、見聞きする機会が増えます。それらの情報は必ずしも正しいとは言えず、間違っている可能性も多くあります。間違った情報の出所として考えられるのは、勘違いや憶測、冗談、イタズラ目的のウソなど。やみくもに恐れる、あるいは過信するのではなく、公的機関などが発信する情報をもとに、正しい知識で判断するよう心がけましょう。

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公開日:2014/09/16