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さまよえる妊婦を救う!?「助産師」という仕事

いま、妊婦の間では、「お産難民」というキーワードが話題となっている。産婦人科医の不足により、休診・閉院する産婦人科が増加したため、出産する場を確保するため病院を探す妊婦をこう呼んでいるのだ。社会問題にもなっている少子化対策が叫ばれるなかで、安心して出産できる体制づくりは急務である。その対策として今、改めて見直されているのが「助産師」である。そこで今回は出産のプロフェッショナル「助産師」について紹介する。

どこで産めばいいの?さまよう「お産難民」

社団法人日本産婦人科医会の調査によれば、出産のできる病院や診療所は2,905件で、出産適齢期の女性1万人あたりに換算した全国平均は1.69施設。首都圏に至っては1万人あたり1施設にも満たないのが現状である。

地方でも、産科のある病院は都市部に集中し、住んでいる地域で出産ができない妊婦も多い。自治体主導で医師の確保に乗り出すなど、さまざまな対策が取られはじめたものの、それでもなお医師の不足によって休診や閉鎖となる産婦人科はあとを断たず、多くの医師が過労状態となっているという悪循環も。また、医師と同様に不足しているのが「助産師」。同会の調査によれば、現在、産科施設の75%が定員割れを起こしているというから、妊婦が安心して出産できる環境にあるとはとても言えない深刻な状況だ。

女性の性に関するプロフェッショナル「助産師」

昔は産婆さん、助産婦さんなどと呼ばれていた助産師は、看護師資格をもつか、同等の教育を受けた女性で、なおかつ助産師国家試験に合格したものが得られる資格。看護師と違い正常分娩の場合、医師の監督なしで病院、家庭などでの出産に立ち会い、介助したり、支援することができる。もちろんいざというときのために連携できる病院、医師を確保できれば、助産院を開業することもできる、いわば「出産のプロ」だ。

しかもそれだけでなく、女性の性に関するあらゆる相談や、出産後の育児に関する相談にのってくれる、女性の性と出産に関するトータルアドバイザー役も担っている。現在はそのほとんどが病院に所属しているが、産科医師との連携や役割分担を行うことで、医師、助産師双方の不足を補いながら、安心して出産できる環境をつくろうとする試みもはじまっている。

妊婦への情報提供と、医師との連携がカギ

その昔、出産は自宅や助産院で行われていたが、現在はそのほとんどが病院で行われている。そんななかで現在注目されているのが、病院出産の利点と、助産所出産の利点の両立を目指した「院内助産所」「助産師外来」の開設だ。

院内助産所は、緊急時にも対応が可能な病院内で、助産師が出産を介助する方法を取っている。急変時には医師が対応するという役割分担により、医師、助産師の負担を軽減できるのがメリットだ。また、助産師外来は、医師と助産師が並行して健診や指導を行うことで、双方の負担を軽減するというもの。

主な助産院と病院の違い

  助産院 病院(産科)
管理者 助産師医師
扱う出産 正常分娩のみ正常分娩はもちろん、帝王切開や合併症のある妊婦の分娩にも対応
緊急時 助産師は、母子の命を助けるための緊急処置に限り対応可能。それ以外は、病院内では産科医が、助産院であれば連携病院で対応その場で医師が対応
出産場所 分娩姿勢や部屋の環境はもちろん妊婦の希望がある程度受け入れられる。自宅や家族同席での出産も可能病院内分娩室(分娩台での出産がほとんど)
出産後 新生児と同じ部屋で過ごすことができる新生児室に母親が会いに行く

しかしこれだけで絶対的な「お産難民」問題が解決できるわけではない。こうした医師と助産師の連携はもとより、妊婦が助産師のもとで出産することに対する不安を取り除くには情報提供の場の確保、さらに将来的な対策として、不足している産科医師、助産師育成のための、教育現場の見直しは必須だ。未来を託す子どもたちを、自然に、安全で、安心して出産できる場が確保されるには、まだまだ多くの課題が残されている。

公開日:2006年9月25日