疾患・特集

海のミルク「牡蠣」の秘密

冬の味覚、「牡蠣」。味はもちろんだが、魅力はなんといってもその栄養の豊富さ。別名、「海のミルク」と呼ばれるほどだ。食用としての歴史は古く、日本では多数の殻が貝塚で発見されている。また、「古事記」「延喜式」といった古文書にもたびたび登場。西洋では古代から精力増強効果が注目されており、シーザーがイギリス海峡に侵攻したのは、テムズ河口の良質の牡蠣が目当てだったとか。このように古今東西を問わず、圧倒的な人気を誇ってきた牡蠣。その秘密を一挙ご紹介しよう。

美味しさの秘密

牡蠣

ほおばると口いっぱいに広がる潮の香りと、奥深い旨味。この旨味の秘密は、牡蠣の持つ豊富なグリコーゲンにある。グリコーゲンは単独では無味無臭だが、ほかの味と一緒になるとコクと旨味が出るのだ。 貝類の旨味成分として知られるコハク酸もいっぱい。甘みのあるアミノ酸のグリシンも一役買っている。繊細にして奥深いあの味わいは、これら三つの成分が醸し出すハーモニーなのである。

栄養の秘密

生牡蠣100グラム中には、1日に必要なたんぱく質量の3分の2、カルシウムは3分の1、リンが全量、鉄分、ヨードはなんと4倍含まれる。このほかビタミンB2をはじめ各種ビタミンも豊富。まさに栄養の宝庫だが、実際、江戸時代の食の本「本朝食艦」には「心を涼しくし 肝を混し 脾臓のうつ熱を去り 汗を止め 渇きを止め 腹下しをととのえ 酒毒を欠し 婦人の血気を収める」とある。
カロリーは意外に少なく、1個あたり16kcalほど。5個で卵1個分に相当する。いいことづくめの牡蠣だが、具体的にはどんな健康効果があるのだろうか?

1.お酒を飲む季節に…肝臓を強化する効果

牡蠣には、肝機能を強化するグリコーゲンやタウリン、ビタミンB12がいっぱい。寒い季節には体を温めようとついお酒がすすみがちだが、疲れた肝臓をバックアップするには、まさにもってこいだ。

2.食生活の偏りからくる貧血に…造血作用

女性に多い貧血。食生活の偏りから、慢性的な症状に悩む人も少なくない。牡蠣に含まれる鉄、ビタミンB12、銅、葉酸は、造血に必要な成分として知られている。鉄不足による疲労感にも、効果はおおいに期待できる!

3.風邪をひかない体に…免疫力強化

牡蠣に多い亜鉛は、風邪の予防にはまさに不可欠といえる栄養素。免疫細胞のはたらきを活性化させるばかりではない。粘膜の健康を保つビタミンAを体内にとどめ、喉の痛み・鼻水・鼻づまりなど風邪の症状を緩和する。このほか、男性女性を問わず、生殖機能をアップさせるはたらきもある。

4.多忙からくるイライラに…精神安定効果

カルシウムが不足すると、イライラしやすくなる――こんな話を聞いたことはないだろうか?カルシウムはイライラを抑え神経安定を促す栄養素。 逆にストレスが増えると、体内のカルシウムはどんどん減ってしまう。牡蠣にはきわめて良質なカルシウムが含まれており、ストレス予防にはぴったりの食材といえるだろう。また、牡蠣に多いマグネシウムはカルシウムのはたらきを調整する作用がある。「この頃、気が短くなった」と思ったら、牡蠣を食べてみてはいかがだろうか?

栄養効果を高める食べ合わせ

●レモンと…

栄養効果を高める食べ合わせ

レモンをかけて生で食べると、香りや有効成分が失われない。ビタミンCを加えれば鉄の吸収率はさらにアップ!ただし、冷え性の人は、生牡蠣を食べるとますます体が冷えてしまうので、食べ過ぎには注意。スープを飲むなど最後に体を温める工夫をしよう。

●トマトと…

「とにかく疲れやすくて…」という虚弱体質には、トマトと一緒に食べることをおすすめ!活性酸素を取り除くトマトを加えれば、さらなる疲労回復効果が期待できる。

●ホウレン草と…

牡蠣の貧血防止効果を高めるには、鉄分、葉酸、マンガンなど、造血作用のあるホウレン草と一緒に食べること。

●ブロッコリーと…

アレルギーのある虚弱体質の人は、アルファリノレン酸の多いブロッコリーと食べてみよう。アレルギー症状を抑える効果が期待できる。

新鮮でもあたる可能性がある?

牡蠣の内臓には食中毒の原因となる細菌やウイルスが付着していることがある。これを十分に加熱しないで食べると感染する危険があるので、注意が必要だ!昔から「花見過ぎたら牡蠣食うな」「Rのついた月には食べるな」などとされるが、危険なのはじつは春から夏にかけてだけではない。冬は牡蠣の活動が鈍るため、海水の排出力が落ち、牡蠣の中にウイルスの粒子が滞る可能性が高くなる。
したがって生で食べてよいのは、きちんと浄化工程を通っている牡蠣のみ。どんなに新鮮でも未処理の加熱用牡蠣は食べないこと。加熱する場合は、85℃の湯で1分間以上がめやすだ。

牡蠣こぼれ話

●養殖でも遜色なし!

養殖牡蠣は6、7月頃に産卵して浮遊する幼生(牡蠣のこども)を採苗。帆立貝の殻に付着させてワイヤーにつなぎ、養殖いかだに吊り下げる。肥料もエサもやらないので、天然ものとほとんど変わりがない。安心して食べよう。

●メスは貴重?

日本にはマガキ、ケガキ、イタボガキ、イワガキなど20種類が生息。卵生のものと胎生のものとがある。雌雄同体で、環境や栄養状態が悪いと、メスからオスになってしまう。昔は「オスのみ」と思われていたため「牡蠣」という字があてはめられた。

公開日:2016年10月3日