梅雨から夏にかけては、寝苦しい日が続く季節。あなたはどんなスタイルで眠っているでしょうか?暑いからといって、裸で眠るのは考えもの。パジャマの歴史から良いパジャマ3ヵ条まで、眠りを楽しむためのパジャマ選びをご紹介します。
寝苦しい季節はもう間近。真夏に備えてパジャマと健康について考えてみたい。まずは歴史からみてみよう。
鎌倉時代の頃、身分の高い人は白小袖と呼ばれる下着で、庶民は着の身着のままで眠っていたらしい。パジャマの原型といえるスタイルが登場したのが江戸時代の末期。この時代に銭湯が普及し、湯上りにバスローブのような扱いで着ていた浴衣が、次第に着たまま町を歩く夏の外出着としてのスタイルができあがっていった。着古した浴衣は、肌に柔らかく馴染んで汗もよく吸うので、パジャマとしても用いられたのだ。
1950年代、輸入されたパジャマやネグリジェが生活の洋風化に伴って急速に普及する。アメリカのホームドラマへの憧れもあり、主婦はネグリジェ、主人と子どもはパジャマといったパジャマスタイルが定着する。ところが面白いことに、専業主婦が減り女性が社会進出を始めた80年代、ネグリジェは少数派となっていく。同じ頃、ジャズダンスやエアロビクスのブームでスポーツカジュアルウエアが登場。24時間営業のコンビニの普及など、都市の夜型化に伴い、Tシャツなどを着てコンビニに行き、部屋でくつろぎ、そのまま眠るというスタイルが現れたのである。
現在は、どんなパジャマが多いのだろうか。睡眠文化研究所が2000年にアメリカ・韓国と比較した調査を紹介しよう。
日本ではパジャマ派、Tシャツなどのカジュアルウエア派が半々。
部屋着と兼用している人が65%もいる。寝室を共にする異性の目を気にする傾向が強いアメリカでは、下着や裸派も一定数を占めている。フランスでも裸で眠る人が多いのだが、裸で眠る習慣が続いたヨーロッパの歴史を反映している可能性もある。韓国は外出できるロングTシャツが1位だった。また、日本では「健康のため」という理由で、パジャマを選ぶ人が多かった。
「現代日本のねむり衣の実態~比較実態・米国と韓国~」(睡眠文化研究所)より
では、気持ちよく眠れるパジャマの条件とは何だろうか。年間を通して共通するポイントは以下の通りである。
眠りに入るときは、副交感神経の活動を上昇させ、体を休息させなければならない。文化・服装学総合研究所所長の田村照子氏が行った2000年の調査によると、ソフトな綿布はざらざらした麻布と比べ、副交感神経の活動が高まり、よりスムーズに眠りに入れる。着古した浴衣やTシャツをパジャマにすることは、着心地の面でも理にかなっているわけだ。
女性の場合、体型が崩れることを気にして、ブラジャーやガードルを身につけたまま寝る人がいる。しかし、一般的にはブラジャーとガードルを身につけると、眠りが妨げられる傾向がある。眠るために必要な体温の低下が遅れ、寝返りの回数も増えるからだ。また、緩やかさではネグリジェもよいが、体にまとわりついて結果的に体をしめつけてしまう場合もある。適度に動きやすく、窮屈すぎない衣類が快適な眠りをもたらしてくれるのだ。
睡眠中は起きているときより皮膚の新陳代謝が活発になる。そのため、パジャマには汗や垢を吸収・放湿して、新陳代謝を妨げない機能が求められる。吸湿性や通気性、洗濯しやすさなどの点から考えると、できるだけ天然繊維素材を選びたい。
天然繊維 | 合成繊維 | ||
---|---|---|---|
ウール | 15% | ナイロン | 4.5% |
綿 | 8.5% | ポリエステル | 0.4% |
シルク | 12% | アクリル | 2% |
麻 | 12% | - | - |
(睡眠文化研究所調べ)
上記は季節を問わず、パジャマに求められる条件である。では、蒸し暑く寝苦しい夏の夜を少しでも寝心地をよくするには、どんな衣類がふさわしいだろうか。
熱帯夜で寝苦しい夜は、ついつい何もかも脱いで裸で眠りたくなる人もいるのでは?でも、裸で眠るとパジャマが汗を吸収してくれない分、寝心地が悪くなるし、体を冷やし過ぎてしまう心配もある。とくに、肩や首を冷やし過ぎると自律神経のバランスを崩し、お腹を冷やすと内臓の血行を悪くする危険がある。手足は逆に熱を放散させるため、出したほうが涼しく眠れる。
眠りは食生活や運動と並んで、人が心身ともに健康に暮らすために必要なものだ。しかし、日本人はとかく健康のためと目的意識を強く持ち過ぎる傾向があるらしい。快適な眠りは睡眠環境を整えるだけでなく、眠りを楽しもうというリラックスした気分によってもたらされる。同じTシャツでも、人に見せるためではなく自分が着て楽しくなる色やデザインのものを選ぶのも一案。部屋着そのままでなく、着替えることで、眠るにつくという行為を儀式化することも、寝不足になりがちな現代人には必要なことかもしれない。
取材協力:睡眠文化研究所
参考資料:「ねむり衣の文化誌」(吉田集而/睡眠文化研究所編)