水虫は、春から夏にかけて徐々にその患者が増えてくる。その水虫の正体は実は「カビ」。白癬菌と呼ばれるカビは、足だけでなく体や手にも発生するのだ。そのカビの正体を解説する。
梅雨どきから夏にかけて足の裏や指の間がかゆくなったりじくじくしてくると、「あ~、また水虫の時期になった~」と憂うつになってしまう。でも、「水虫ぐらいじゃなあ」とめんどくさがって病院にも行かず、自分で薬を買って塗っている。だけど、なかなか治らない…。そんな繰り返しを毎年送ってはいないだろうか。
現在、水虫患者は全国で1,500万人いるとも推測されている。さらに、治療に通っていない潜在的な水虫患者まで入れると、その数は3,000万人以上にものぼると言われている。なんと、4人に1人が水虫に悩んでいる計算になる。
水虫患者は高齢者になるほど増える。その理由は歳をとるほど皮膚が角化(硬く厚くなる)し、水虫の原因である白癬菌(はくせんきん)というカビが住みやすくなることや、長年水虫を放置し、慢性化させてしまうことなどが挙げられる。
また、最近では若い女性の水虫患者が増えている。これは、ハイヒールやストッキングなど、風通しの悪いものを長時間身につけて働く女性が増えていることや、裸足で利用する公共の場が増え、水虫に接する機会が増えていることなどが原因だ。特に女性は、「水虫なんて恥ずかしくて病院に行けない」と思っている人も多く、実は慢性化してしまっているケースも少なくない。
一般的に足がかゆい、皮膚がただれているなど足に起こる不快症状を総称して「水虫」と呼んでいるが、医学的には「虫」ではなく「白癬菌(はくせんきん)」と呼ばれるカビが水虫の正体である。白癬菌は人間を宿主として、皮膚の表面に寄生するもの。その結果として、かゆみやただれなどの皮膚病が起こるのだ。
皮膚の構造
人の皮膚は、「表皮」「真皮」「皮下組織」という三層構造になっている。その表皮の中で最も深部にある基底層では絶えず細胞分裂を繰り返しており、古くなった細胞は上へ押し上げられ、垢となって剥がれ落ちる。これは表皮のターンオーバー(新陳代謝)と呼ばれる仕組みであり、ひとつの細胞が垢となって剥がれ落ちるまでには約1ヵ月間かかる。しかし、白癬菌はこのサイクルと同じ速さ、またはそれ以上の速さで増殖する力があるのだ。
足の裏など、皮膚がちょっと硬くなっている箇所だと、ワンサイクルで約3ヵ月かかることもある。このため、一度水虫になると、皮膚を新しいものに総とっかえするまでには最低でも半年、長ければ1年ほどかかる。これが、水虫の治療に時間がかかるワケなのだ。
この表皮にある垢となって剥がれ落ちる前の核のない細胞群(角質層)は「ケラチン」と呼ばれる。ケラチンは、異物の体内への侵入や暑さ、寒さなどから内臓を守る役目があるのだが、困ったことに白癬菌はケラチンが大好きなのである。ケラチンを栄養にして繁殖するため、ケラチンがあって高温多湿な場所ならどこにでも寄生する。つまり、水虫は足の裏だけでなく、どこにでもできるものなのだ。
高温多湿な場所を好む白癬菌。特に好きなのは足の裏や指の間だが、そのほかの場所にも寄生する。
水虫の種類
最も白癬菌が寄生しやすいのは、やはり足。土踏まずや足の縁にできるものを「小水疱型」、足の裏全体やかかとにできるものを「角質増殖型」、足の指の間にできるものを「趾間(しかん)型」という。
白癬菌は頭に寄生し、白い雲がかかったようになることから「しらくも」とも呼ばれる。思春期以前の髪の短い男子に発生しやすいが、最近では髪を短くする子が減ったことや衛生環境が整っていることなどから、激減している。が、ペットからうつされることもあるので要注意。
体にできる水虫は、「小水疱性斑状白癬」ともいい、初めはぽつんと湿疹状の隆起がかゆくなり、徐々に10円玉くらいの大きさに広がっていき、健康な部分との境界がはっきりした斑状になる。症状が進むと中心部は自然に炎症が治まるのが特徴。また、股にできるものは「股部白癬」で、俗称「いんきんたむし」である。非常にかゆくなって寝ている間に無意識に掻いてしまい症状が悪化することも少なくない。
いずれも、自分の水虫が感染源になる場合と、飼っているペットから感染する場合がある。
手にできる水虫で、「脂掌白癬」とも呼ばれる。症状は、足白癬と同じ。
水虫は爪にもできる。爪白癬にかかると、爪の先端や両側から白くなったり、爪の中に白い筋が現れたりする。初期段階ではかゆみなどの自覚症状がないため、爪白癬だと気づかずに放置し、爪がボロボロになってしまうこともある。治療にはかなりの時間と根気が必要だが、治療効果は他の水虫に比べるといまひとつ。
「お父さんが私のスリッパを履いたから、私に水虫がうつったじゃない!」と娘に怒られている中高年のお父さん、「そんなくらいで水虫がうつるワケないじゃないか!!」なんて言っては娘に嫌われてしまうこと、間違いナシ。
水虫は空気感染するほどの感染力はないものの、水虫の人が使ったバスマットやスリッパを共用すれば、水虫がうつる可能性は高い。例えば銭湯やプール、フィットネスクラブなど、裸足で歩く所や大勢が使用するスリッパを利用する場所などは、感染する危険性が高いのである。もちろん、家族に1人でも水虫患者がいるなら、裸足で歩いた床にも白癬菌はうようよしている。そこを歩けば、やはり白癬菌に寄生されてしまうのだ。
また、動物も白癬菌をもっていることがあり、可愛いペットからうつされることもある。可愛くても水虫には要注意だ。
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