「野菜は体に良い、たくさん食べましょう!」とは、健康に留意する人々の間で合い言葉のように口にされていますが、実際に野菜を十分摂っていると胸を張れる人は、どのくらいいるのでしょうか。なぜ、体に良いとわかっていながら摂りにくいのでしょうか?どうしたら摂りやすくなるのでしょうか?これらのポイントを、野菜摂取の状況からみてみましょう。
野菜の摂取量
ひとり1日当たり/単位g
野菜と一口に言っても緑黄色野菜と、それ以外の野菜がある。目標とされる300gは、その両方を加えた総量。表からわかる通り、年月とともに着実に増えてはいるのだが、それでも1997年のひとり1日当たりの総量は275.1g。わずかだが、不足している状況だ。
野菜が不足すればビタミンが足りなくなる、食物繊維が少なく便秘にもなる、などと身体的さまざまなトラブルが発生することは、もはや常識。ここで注目したいのは、35~84歳の死亡原因のトップとなっている「がん」と野菜の関係。
次の表は、米国のある機関が、4,500件以上の研究をもとに作成し、発表した「がん予防のための食生活ガイドライン」。その筆頭に、野菜を増やす食生活があげられているのだ。がん予防の観点からも、日頃の食生活において、野菜がいかに重要であるかが伺われるだろう。
また、もうひとつ注目したいのが、「野菜」ばかりでなく、果物、豆類、穀類、根類と、植物性食品に項目が割かれていること。私たちは「野菜」というと、どうしても緑黄色野菜を思い浮かべがちだが、そうした野菜ばかりでなく、植物性食品の全般を増やしていくことが大事だといえるだろう。
植物性食品を中心とした食生活で思い出されるのが、菜食主義者であるベジタリアン。動物性食品、特に肉類は良質のたんぱく源。ベジタリアンは、どうやって肉類を食べずに、そうした栄養のバランスを保っているのだろうか。
ここでベジタリアンについて少し説明しておくと、ベジタリアンにも大きく分けて次のようなタイプがある。
上記のなかで、牛乳やチーズ、卵、魚を食べるベジタリアンの場合は、動物性たんぱく質がきちんと摂れるので心配はない。問題は、牛乳なども食べないベジタリアンである。栄養面で偏らないのかという疑問がわくが、実は、バランスの問題なのである。
ちょっと面倒な話になるが、食事で摂ったたんぱく質は体内で各種アミノ酸に分解され、必要なたんぱく質に合成され直す。このとき必要なアミノ酸は20種類。このうち11種類のアミノ酸は、ほかのアミノ酸を使って体内で作ることができるが、残り9種類のアミノ酸は食事に頼らざるを得ない。しかも、たった1種のアミノ酸が不足しただけでも体は健康を損なう。ベジタリアンは、これを大豆などの豆類と、米や小麦といった穀類との食べ合わせ=バランスで補完している。バランスよく食べれば、菜食だけでも十分に満たされるのだ。
また、ベジタリアンの食生活のメインとなる野菜、豆類、穀類と聞いて思い当たるところはないだろうか。そう、かつての日本人の食生活によく似ているのだ。ちょっと昔を振り返って、その食生活を見てみよう。
1960年 | 1980年 | 1970年 | 1997年 | |
---|---|---|---|---|
穀物 | 451.7 | 319.1 | 284.9 | 259.7 |
種実類 | 0.5 | 1.3 | 1.4 | 2.0 |
イモ類 | 64.5 | 63.4 | 65.2 | 69.4 |
砂糖類 | 12.3 | 12.0 | 10.6 | 9.7 |
菓子類 | 20.4 | 25.0 | 20.3 | 24.2 |
油脂類 | 6.1 | 16.9 | 17.6 | 17.0 |
豆類 | 71.2 | 65.4 | 68.5 | 70.9 |
動物性食品 | 147.4 | 313.3 | 338.9 | 354.1 |
野菜・果物類 | 293.7 | 406.6 | 364.8 | 405.9 |
海草類 | 4.7 | 5.1 | 6.1 | 5.2 |
出典:四訂食品成分表2000
1960年の食生活では、動物性食品は1997年の半分以下、穀類は1.5倍以上も食べていたのである。こうして見ると、その昔はベジタリアンに近い食生活をしていたと言えるかもしれない。つまり、ベジタリアンな食生活は、意外にも日本人の身近にあったのである。