■お話を伺った先生
日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 教授
日本大学医学部附属板橋病院耳鼻咽喉科 部長 池田 稔 先生
―― 味覚障害の患者さんは多いのですか?
2003年に行われた日本口腔・咽頭科学会アンケート調査によると、味覚障害で耳鼻科を受診している患者数は全国に24万人で、約10年間で1.7倍も増えていました。当院の専門外来でも味覚障害の患者さんを週1~2回診察していますが、1ヵ月先まで予約待ちが続くほど患者さんは増えています。
耳鼻科以外に内科や歯科を受診している味覚障害の患者さんまであわせると、おそらく全国で35~40万人にのぼると考えられますが、数日で症状がおさまったり、忙しかったりして受診まで至らない人も含めると、実際にはもっと大勢の方が味覚障害になっていると予想されます。
―― 味覚障害かもしれないと思ったとき、どのような診療科を受診すればいいですか?
味覚に異常を感じると、多くの人は近医の内科や耳鼻科、または歯科を受診します。そして、症状や血液検査の亜鉛値などから味覚障害と診断されると、亜鉛製剤などによる治療を開始します。しかし、症状がなかなか改善しない場合には、専門の病院で味覚機能検査を受ける必要があります。
―― 味覚機能検査とは、どのような検査ですか?
当院で行う味覚機能検査は、ごく微量の電流で舌を刺激する電気味覚検査と、味の溶液を付けた小さな紙を舌にのせるろ紙ディスク法検査で、いずれも苦痛などはなく簡単に味覚機能を調べることができる検査です。また、アリナミンテストなどの嗅覚機能検査で、においの感覚異常も調べます。
―― 味覚障害を治療する薬はありますか?
現在の日本では、味覚障害の治療薬として認可されている薬剤はありません。しかし、多くの経験や研究から、亜鉛を3ヵ月~6ヵ月飲み続けると味覚障害の患者さんの約70%に有効であることがわかっているため、亜鉛製剤による内服治療が一般的に行われています。また、必要に応じてビタミン剤や漢方薬など飲み薬を追加したり、サプリメントで亜鉛を補充することもあります。
―― 今後、味覚障害の治療はどのようになると思われますか?
これまで経験的観点による治療を続けてきましたが、最近では「味覚障害の多くは亜鉛欠乏が関与する」ことが解明されつつあり、この原因に対する治療薬が現在開発中です。今後は、味覚障害に対する有効性や副作用などの安全性が確認された薬剤による一歩進んだ治療が期待されます。