疾患・特集

味覚障害~ドクターインタビュー 味覚障害とは

味覚障害の専門医である池田稔先生(日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 教授)に、味覚障害の基礎知識や最新の治療方法についてお話を伺いました。

日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 池田稔先生

■お話を伺った先生
日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 教授
日本大学医学部附属板橋病院耳鼻咽喉科 部長 池田 稔 先生

■ご経歴
医学博士 日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本気管食道科学会認定専門医。
日本口腔・咽頭科学会理事、日本微量元素学会理事、日本耳鼻咽喉科学会評議員、日本気管食道科学会評議員、日本耳科学会評議員、日本鼻科学会評議員など要職多数。ご専門領域 「慢性中耳炎を主体とした耳科手術」、「味覚障害」、「顔面神経障害」など。

最も多い自覚症状は“味覚低下”

―― 味覚障害の症状にはどのようなものがありますか?

味覚障害でもっとも多い症状は、味がわからなくなる味覚低下あるいは味覚消失・脱失で、70~75%の患者さんに現われます。次に多い症状は「何も食べていないのに口の中が苦い」などと訴える自発性異常味覚で、味覚低下とともに現われる場合もあります。そのほかに本来の味と違った味を感じる錯味(さくみ)症・異味(いみ)症、何を食べてもおいしくないと感じる悪味(あくみ)症などがあります。

さらに、このような症状から食欲がなくなったり、食事ができず体重が減ったりする人もいます。また、塩味がわからず塩辛い食事を続けていけば、高血圧につながるなど、二次的な症状が現れることも考えられます。

―― 「けっこう塩辛いものが好き」という場合、味覚障害でしょうか?

それは、その人の「嗜好」だと考えていいでしょう。しかし、「塩辛くしなければ味を感じない」というようになり、過剰に醤油や塩などの調味料を使うような状態が続く場合は、味覚障害の可能性があるかもしれません。

味覚障害の症状

  • ●味覚低下
    何を食べても味が薄いと感じる。
  • ●味覚消失・脱失
    何を食べても全く味がしない。
  • ●自発性異常味覚
    口の中に何も入っていないのに苦いと感じ続けることが多い。他にも甘い、塩辛い、酸っぱい、渋い、金属の味などを感じることもある。
  • ●錯味症・異味症
    本来は甘いはずのものを食べても苦く感じるなど、味を取り違える。
  • ●悪味症
    何を食べてもいつも変な味がする。

体内の“亜鉛欠乏”が味覚障害の引き金に!

―― 味覚障害はどうして起こるのですか?

味覚障害のおもな原因は、薬の副作用や血液中の亜鉛不足、全身の病気(肝障害、腎障害、消化器障害、糖尿病など)、食品添加物の影響などです。また、原因がわからない場合を特発性(とくはつせい)味覚障害といいます。

このように原因はいろいろありますが、共通することは、からだの組織、細胞に必要な亜鉛の欠乏が考えられます。
体内で必要な量の亜鉛が不足すると、舌の奥にある味蕾(みらい)という部分の味細胞(みさいぼう)の生まれ変わりが遅くなり、味細胞の構造や機能に影響を与えることが動物実験などの結果からわかってきました。

味覚障害のおもな原因

血中の亜鉛不足 偏った食生活などが原因で、味覚機能を維持するために必要な血液中の亜鉛の量が正常よりも少ない。
二次的な亜鉛不足 薬や食品添加物の影響
一部の薬や食品添加物が、消化管内で亜鉛と結合して体内への亜鉛の取り込みを低下させたり、体内から亜鉛の排泄を促進させたりする。
全身性の病気の影響
糖尿病や肝障害・腎障害は体内での亜鉛の利用を妨げ、消化器障害は体内への亜鉛の取り込みを低下させる。
特発性の味覚障害 血液中の亜鉛の量は正常であり、原因が不明であるが、亜鉛を内服すると症状が改善する。