お話し手:香川大学医学部精神神経医学講座教授 中村祐先生
中村先生:
アルツハイマー型認知症は、脳の神経伝達物質である「アセチルコリン」の減少が見られることが明らかになっています。そのため、アセチルコリンを分解してしまう酵素を阻害(邪魔)するお薬が1990年代の後半に開発され、日本でも多くの患者さんに使用されています。このお薬は単に脳内のアセチルコリンの量を増やすだけでなく、病気の進行をも遅らせることができると分かってきています。
中村先生:
そうです。アルツハイマー型認知症の進行を抑制することで、うまくするとその人本来の天寿をまっとうすることも可能なわけです。また高度の認知症に見られる失禁や徘徊など、ご家族にとっては大変苦労の多い局面を迎えずに済むことも考えられます。
根本的に治す薬が無いからといって、途方にくれ、絶望することはないのです。
中村先生:
現在のお薬は口から飲み込むタイプのものなので、患者さんは嫌がってなかなか飲んでくれないという問題があります。もともと、認知症の患者さんは、自分が認知症であるということを認めない傾向がありますから、進んでお薬を飲まないことも多々あるのです。
中村先生:
人間は本能として、「これは安全だ」という認識なくモノを口に入れたりはしないでしょう?認知症の患者さんが薬を飲むのを嫌がるのは、「これは自分に必要なお薬だ」と認識できないからです。また、本人が自発的にお薬を何錠飲んだかを把握をすることは難しいので、介護者など周囲の人が管理をしないといけないという問題もあります。
中村先生:
アルツハイマー型認知症のお薬として日本で承認されているのは、現時点では口から飲み込むタイプのもののみですが、将来的には貼るタイプのパッチ剤なども実現すると思われます。パッチ剤の良いところは、何より患者さんに無理やりお薬を飲ませる必要がありません。人間は注射など直接体の中に入るものと違って、貼り薬、塗り薬などには抵抗感が少ないようです。
またパッチ剤に直接文字を書くことが出来るので、日付を書いておけば確実に服薬確認ができるというメリットもあります。
中村先生:
望まれる新しいお薬のカタチアルツハイマー型認知症は進行性の疾患ですが、一方で医学も日々、進歩しています。ご家族など介護をされる方々は大変ですが、ただ単に悲嘆するだけでなく、さまざまな情報や制度を活用し、前向きに患者さんと向き合っていただきたいと思います。