疾患・特集

小説中の人物とたばこ2/究極の禁煙訓練船

世にもハードな禁煙訓練法?

さまざまな本に出てくる細々した事柄について一つひとつピックアップしてジャンル別にデータベース化し、それを元にユニークな評論を展開している西尾忠久さん。「ミステリーがちょっと好きな友へ」は、最近の鬼平ものの本と同様、西尾さんがそのデータベースを縦横に使ったミステリー、ハードボイルドファンには嬉しい本。(東京書籍 1993年)
そのなかで、ジェラルド・シーモアの「一弾で倒せ!」の主人公が、「英国情報部の計画による報復工作要員として指名され、シリアの荒涼たる大地潜入に耐えられるように、老練な狙撃手の手で訓練がほどこされる」場面にふれています。以下は、その部分の引用です。

軍歴もなく、特別な運動もやっていない青年は、食事や水の量を自分で厳しく制限することや、煙草や歯磨き、石鹸の使用を禁じられることも含めて、とことん鍛えられる。
〈中略〉
煙草、歯磨き、石鹸の使用禁止は痕跡臭のもとになり潜伏行動にさしつかえるという根拠からだ。

そのあと、西尾さんはこの話にヒントを得て考えた、世にもハードな禁煙訓練法を思い付いています。

「それで思ったのだが、煙草類はまったく乗せていない練習船かなにかで、禁煙実行希望者を徹底的に作業させる旅行かなにかを計画したらどんなものか。あるいは「一弾で倒せ!」のように荒れ地でキャンプを張るとか。本人に強い意志があれば2週間も合宿すれば長年の喫煙習慣を断ち切れるのではなかろうか。」

ところで、実は西尾さん自身も禁煙経験者。
「痕跡臭といえば、ぼくも煙草を断って10年近くなるが、当初なにがいちばんうれしかったかというと、手ぶらで外出できることと洋服にしみこんでいた焦げくさい臭いが消えたことだ。2、3回のクリーニングで臭わなくなった。」
と書いています。

だからこそ、
「ニコチンの禁断症状は、気をほかにまぎらわすしか逃げる方法はあるまい。〈一弾で倒せ!〉のように、体力の限界まで疲労する訓練で意識にものぼらせないのも一つの方法」だと考えての、先ほどの訓練方法の提案だったわけです。