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心筋梗塞合併症(5) 冠動脈疾患(25)

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2017/12/04

冠動脈疾患の追補:極めて珍しい心筋梗塞合併症に対する「世界初」の治療に成功!

※文章中に医学的な説明をするための血液の塊の写真があります。苦手な方はお気をつけください。

今回は「冠動脈疾患の追補」として、珍しい患者さんをお目に掛けようと思います。
私が行った「極めて特殊な病気」に対する「世界初の治療成功例」(注1)です。「世界初なんて 嘘だろう?」と思われるかもしれませんが、ちゃんと論文を書いて米国の『The Annals of Thoracic Surgery』という心臓血管外科領域では結構高いインパクトファクター(注2)をもっている雑誌に載せました。
論文を書く時に散々調べ、査読者のreviewも受けているので、「世界初」は間違いないと思っています。ちなみに症例報告は、世界初から世界で10例目くらいまでは、インパクトファクターが付くような有名な雑誌に載りますが、それ以降はよほど特殊な事が無いと、インパクトファクターが高い雑誌には載りません。当たり前ですが、「二番煎じ」より「初」に価値があるのです。

「世界初」を多くの科学者、医師、研究者が狙っています。
例えば、医学者であれば、

  • 世界で初めて新しい病気を見つける。例:川崎病、高安病、小口病、橋本病など
  • 世界で初めての診断方法、診断装置を考案、開発する。例:聴診器、心カテーテル、CT、MR、胃カメラ、など
  • 世界で初めての手術方法を考案する。例:ベントール手術、Konnno手術、内視鏡手術 ビルロート法
  • 世界で初めての手術に使う器具を開発する。例:ペアン鉗子、コッヘル鉗子、メッチェンバウム鋏など
  • 世界で初めて使われる人工臓器を考案、開発する。例:人工弁、人工心臓、人工腎臓、ペースメーカーなど
  • 世界で初めて「ある病気」の治療に成功する。:そのために、お薬や手術を考案したり、開発したりする
  • 世界で初めて、病気の経過についての新しい知見を発見する

まあ、こんなことができたら良いなと夢想するのです。
幸いというか、なんと言うか、このうち 2、3、4、6、7の事項について、私はこれまで論文を書いたり、開発したり、特許を取得したりと稀有な経験をして参りました。5回は「世界初」に巡り会っています。ある意味、とても「運が良い」のです。残念ながら1と5には、今のところ、縁がありません。

それはともかく、本当に「世界初」だと確かめるのは結構大変です。「世界初」だと思っていても、実は報告されていたり同じような報告や研究があったりするとかなり「がっかり」します。そういうことの方が圧倒的に多いのです。 今から、書くのは、そういう中で、6に分類される「ある病気」の治療に世界で初めて成功した、という話です。これも例の「偶然」です。

某年某月某日の夜のことです。
患者さんは71歳男性です。家でいつものようにチェーンスモーキング(!)をしながら大量飲酒をしていました。毎日のように午後8時頃には泥酔して家人と喧嘩をするような生活を送っていたそうです。その日も、泥酔し、いつもの喧嘩が始まったのだそうです。喧嘩の最中、急に意識がなくなったそうです(家族談)。
119番に電話、救急隊が到着したところ、意識は無く脈も触れないので「心停止」と判断され、直ちに心臓マッサージが開始されました(救急隊の記録による)。近隣のA病院に搬送されましたが、救急車内でも心臓マッサージが続けられていました。幸い、心拍は再開し、意識がうっすらと回復しました。
A病院で記録した心電図から心筋梗塞が疑われました。心エコー検査にて心臓周囲に血液が大量に貯まっていることがわかりました。こういう状態を「心タンポナーデ状態」と言います。この状態を引き起こすのは、心臓病以外では大動脈疾患でも生じることがあります。その診断には造影CTが必須であるため、その時に撮影したCTが図1です

図1
図1

図1の赤い点線で囲まれた部分が心臓です。その周囲に黄色い矢印で示している帯状の部分があります。これが心臓の周りに貯まった“血液”です。正確に言うと“血液”とはCTではわかりません。何らかの“液体”が貯まっていることがわかるというのが正確な話です。なお青い矢印は下大静脈が右心房に流入する部分を示しています(手術時にここから出血していることがわかりました)。
心臓の周りにある血液が心臓を圧迫しているのがわかります。以前ご説明した「心筋梗塞による心破裂」が疑われ、直ちに搬送先のA病院で心カテーテル検査が行われ右冠動脈の狭窄が認められ、右冠動脈領域の心筋梗塞が原因で「心筋梗塞による心破裂」が生じているという診断が下されました。心臓そのものは、“心膜”という強い繊維性結合組織の膜で包まれています。心臓から血液が心破裂により漏れ出ると心臓と心膜の間に貯まります。血液が貯まると心臓は圧迫されて、血圧が下がります。ですから、心破裂の場合は、破裂部を修復しないとどんどん血圧が下がって死に至るのです。

この患者さんの場合も直ちに心臓圧迫状態の解除と心臓破裂部の修復が必要と判断され、午前2時にA病院から私の勤務していた病院に緊急手術のために搬送されてきました。A病院での心カテーテル検査結果、CT、心エコー検査を見直しましたが、やはり「心筋梗塞による心破裂」だと思い、直ちに心タンポナーデ解除術、心破裂修復術を行うこととしました。
ただし、実は少しだけ疑念がありました。心破裂にしてはCPK(クレアチンキナーゼ)という心筋梗塞が生じた時に上昇する酵素の値があまり上がっていないのです。また、「右」冠動脈による心筋梗塞だということも、少しだけ「変」でした。左冠動脈領域の方が心破裂を生じることが多いのです。
以上の2点が少しだけ疑問でした。それでも高度の心タンポナーデ状態(心臓の高度圧迫状態)ということに変わりはないですから、タンポナーデ状態をできるだけ早く解除しないと、血圧がどんどんと下がり大変なことになります。
午前3時45分に手術を開始しました。胸骨正中切開術を行い、心臓に到達します。前述のごとく心臓は心膜で覆われています。この患者さん心膜の下には心臓から出血した血液が貯まっているため、心膜は緊満していました。心膜を少しずつ切開していきました。そうすると心膜内にある心臓周囲の血液が少しずつ出てきます。それに伴い、血圧は70くらいから100まで上がりました。心膜の切開を広げて心臓周囲の血液を全て取り除きました。この場合もゆっくりと血液を取り除きます。性急に、乱暴に、血液を取り除くと血圧が一気に上昇して、心破裂部位からの出血が増加します。この辺りは慎重に手術を進めることが必要です。
こうして血液を取り除くと心臓破裂部が見えてくるはずでした。しかし、この患者さんの心臓には心破裂部が見当たりませんでした。その代わりに黒い静脈血が「じわーっ」と心臓の下の方から湧き出てきました。血液は赤い血(動脈血)と黒い血(静脈血)に分かれます。黒い血は静脈からの出血を意味します。余談ですが、動脈圧は、いわゆる血圧です、100mmHgくらいですから、水柱に換算すると、136cmに相当します。ですから、動脈に孔(あな)が開くと一気に1mくらい血液が噴出しますので、動脈からの出血部位を見つけるのは比較的容易です。一方静脈圧は5-10cm水柱程度の圧しかありませんので、静脈からの出血は「じわーっ」と滲みだしてきます。静脈からの出血は滲み出るような出血ですから、どこから出血しているか解らないこともあります。それに加えて静脈は壁が薄いことなどから、その止血には難渋することが結構あります。
さて、この患者さんです。心臓の下側から、黒い血が湧きでてきました。「え?え?え? あれ? 心破裂なら赤い血が出るはず? え? 何でこんなに静脈から出血するの?」と思っている間もなく、どんどん黒い血液が湧きでてくるのです。一時戻った血圧もまた下がり始めました。とっさに血が出ている当たりを、ガーゼで抑えて一時的に止血を試みました。出血している (と思しき) 箇所を抑えながら、良く確認しました。なんと心臓の下側、心臓の右房からさらに下方の下大静脈に3本の裂け目があり、そこから出血していたのが判明したのです。さすがに一度に3箇所も止血はできません(図2参照)。

図2:手術図
図2:手術図

左下に裂け目が3本書いてあるのが裂け目のあった場所です。
いつもなら写真を撮るのですが、さすがにこの時はその余裕はありませんでした。

※以下、医学的な説明をするための血液の塊の写真があります。苦手な方はお気をつけください。

図3:心臓周囲に貯まって心臓を圧迫していた「血液」の一部
図3:心臓周囲に貯まって心臓を圧迫していた「血液」の一部

ぞっとしました。このままではどうしようもない。一箇所なら、糸を用いて縫合止血操作が可能ですが、同時に3箇所も止血操作を行うのは不可能です。心臓の表面ではなく、奥深くにある下大静脈部分からの出血です。下大静脈からの出血を止めるのは極めて難しいのです。どこの教科書にもこういう場合の止血方法は書いてありません。結局、人工心肺を装着して止血を行うことにしました。人工心肺を用いて、一時的に低体温状態にして循環を停止させて、止血縫合術を行ったのです。人工心肺をつけるのは、いつもであれば心臓手術操作と一緒ですから簡単です。しかし、普通なら脱血するためのカニューレを挿入する場所にまさにその出血点が三つあるのです。ちょっと工夫を凝らして別の箇所から脱血するためのカニューレを下大静脈内に入れてから、ありとあらゆる止血操作を行いました。
こうして3本の裂け目を何とか修復し、出血が無いことを確認して人工心肺から離脱することができたのです。ところが、止血操作を行った箇所が一部裂けて(前述の通り、静脈は脆く弱いのでそういうことがあります)、また出血が起こりました。今度も(説明は省きますが)「秘術、秘技」を尽くしました。「禁断の奥義=根性止血術」を使おうか?と思った寸前、神のご加護か?日頃の行いが良かったのか?出血が止まり、ようやく無事手術を終えることができました。

手術中から「何故、こんなところから出血するのか?」ずっと考えていました。そして、ハタと思い当たったのです。いつか読んだ文献に「心臓マッサージによる心破裂」という項があったのを思い出したのです。この患者さんは倒れた自宅から最初に収容された病院まで長い時間、救急隊による強い心臓マッサージを受けています。そのために、下大静脈に裂け目が入り、そこから出血したのです。心筋梗塞による「心破裂」ではなく、心臓マッサージによる「下大静脈損傷」だったのです。心臓マッサージによる心破裂は、ほぼ助からないと書いてあったことも、うっすらと思い出しました。元より、心臓マッサージを要するような心臓の状態は「重篤」です。この患者さんも心停止を来たしていたのです。弱った心臓に強く心臓マッサージを行えば、心臓(この場合は下大静脈ですが)に亀裂が入ることもあり、「助からない」のが通り相場だったのです。

手術後は結構大変でした。患者さんはヘビースモーカーだったので、術後に肺炎を併発もしました。その他、色々な合併症を起こしつつも、幸いにもこの患者さんは何の後遺症も無く、無事に「アルコール中毒者の治療病棟」に移りました。そして、酒も煙草も止めて無事退院することになりました。
Medlineで調べに調べました。結局、この患者さんが、「心臓マッサージによる下大静脈損傷」の世界初成功例であることを確信し、論文にして無事掲載されました。良かったです。

このような難しい病気の治療はそもそも、

  • 一生懸命(下大静脈が裂けるほど)心臓マッサージを行った救急救命士の方の努力
  • 夜中にもかかわらず、適切な診断をして私どもに紹介してくれた前医
  • 直ちに手術体制を整えてくれた多くの手術部の看護師さん
  • 早朝にもかかわらず、快く麻酔をしてくれた麻酔医の方々
  • 人工心肺を、数分で、準備してくれた臨床工学士さん

こういう治療の流れが滞りなく行ったので治療が上手く行ったのです。
心底、良かったと思っています。

注1:

The Annals of Thoracic Surgery:
Repair of Lacerated Intrapericardial Inferior Vena Cava After Cardiac Massage

注2:

インパクトファクター(impact factor)とは、その雑誌に掲載された論文がどのくらい引用されたかの指標です。
The Annals of Thoracic Surgeryという雑誌は4.01です。
参考までに、有名どころの雑誌のインパクトファクターを記しておきます。

<総合科学誌>

  • Nature (42.4)
  • Science (31.5)
  • Nature Communications (10.7)
  • Proceeding National Academy of Science (9.8)
  • Scientific Reports (5.1)
  • Plos One (3.5)

<医学誌>

  • New England Journal of Medicine (54.4)
  • Lancet (39.2)
  • Nature Medicine (28.1)
  • Lancet Oncology (24.7)
  • Lancet Neurology (21.8)
  • Lancet Infectious Diseases (19.4)
  • Journal of Clinical Oncology (17.9)
  • PLoS Medicine (14.0)

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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