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心筋梗塞合併症(2) 冠動脈疾患(22)

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2017/10/16

急性期の「心筋梗塞合併症」

※文章中に医学的な術中の心臓の写真があります。苦手な方はお気をつけください。

お薬、冠動脈バイパス術、PCI(PTCA)が発達し、ICU、CCUが整備され、標準的治療が受けられる機会が飛躍的に増えて、心筋梗塞による死亡率は劇的に減りました。それでも、治療が間に合わず、お亡くなりになることがあり、その代表として、

  • 不整脈による心停止
  • 心筋梗塞による心臓破裂

について、前回お示ししました。今回は、少し珍しいというか、あまり知られていない急性期の「心筋梗塞合併症」について解説したいと思います。
ひとつは、心筋梗塞による「僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)」、もうひとつは心筋梗塞による「心室中隔穿孔(しんしつちゅうかくせんこう)」です。

心筋梗塞による「僧帽弁閉鎖不全症」

最初に「僧帽弁閉鎖不全症」についてです。心臓の中に、弁膜は4つあります。「僧帽弁」「大動脈弁」「三尖弁」「肺動脈弁」の4つです。
このうち、僧帽弁と三尖弁は乳頭筋と腱索という組織で支えられています。

図1:心臓内の弁膜と血流の関係
図1:心臓内の弁膜と血流の関係
(聖路加国際病院心臓血管外科のサイトより)

僧帽弁を支える乳頭筋(図1)を栄養する冠動脈を栄養する動脈が閉塞することがあります。そういう特殊な心筋梗塞を生じると、僧帽弁を支える乳頭筋が壊死(えし)し、僧帽弁の支えが無くなります。そうなるとどうなるかというと、僧帽弁が閉まらなくなり、逆流が生じます。左心房から、左心室へと流れるのが正常な血流の流れですが、僧帽弁が閉まらなくなるので、一旦左心室に流れた血流が心臓の拍動により左房側に戻ることになります。そうなると、肺から左心房に帰ってくる血流が交通渋滞を起こすことになります。すると、肺の中に急速に血液が鬱滞します。それが図2です。

図2
図2

1時間毎に、肺に血液が欝滞していくのがおわかりになりますでしょうか?肺に血流が急速に貯まるため、呼吸をしても酸素が身体に流れなくなります。窒息するのと同じような状態になります。そうなるとピンク色の泡沫状の血痰を吹き上げて、苦しがるようになります。
図2の患者さんが、まさにそういう状態で、待ったなしの「緊急手術」が必要でした。数時間手術が遅れると、非常に怖いことになります。

図3:僧帽弁逆流を示す心エコー検査図
図3:僧帽弁逆流を示す心エコー検査図

赤くモザイク状に見える箇所が、僧帽弁逆流を示します。正常では、このモザイク状のパターンは見えません。何れにせよ、急速な僧帽弁での逆流を止めるためには、手術をするしかありません。

図4
図4

図4は、この手術の開始時間です。午前1時です。手術が終了したのが、午前7時でした。もちろん、その日も診療があります。完全に「ブラック」ですね。

※以下、心臓の写真があります。苦手な方はお気をつけください。

図5:心筋梗塞で壊死した乳頭筋(にゅうとうきん)
図5:矢印で示した部分が心筋梗塞で壊死した乳頭筋(にゅうとうきん)です。ちぎれていますね。

乳頭筋は赤ちゃんの小指くらいの大きさです。このように小さな乳頭筋を栄養する血管は細いのです。えっ?こんなに小さい枝の心筋梗塞が、僧帽弁閉鎖不全症を起こしているのか?と驚くことも多いのです。手術方法には2つあります。

  • 僧帽弁を人工弁で交換する方法
  • 僧帽弁を形成する方法

手術後に逆流が止まれば血行動態は劇的に改善しますが、手遅れになると肺が損傷を受けるため、手術後の治療も結構大変です。
手遅れにならないためには、どうしたらよいでしょうか?エコー検査を毎日行えば良いでしょうか?それは面倒ですね。実は簡単な方法があります。それは聴診器です。僧帽弁逆流が生じると凄い心雑音を聴取するようになります。心筋梗塞を生じた患者さんには、毎日数回、聴診器を当てて、心臓に雑音が生じていないかどうかを聞いてみることが必要です。
次にお話しする「心室中隔穿孔」という病気も、急に雑音を聴取するようになりますので、聴診器はその診断にも有用です。エコーがあれば何でもわかると思われがちですが、そうではありません。

注:「聴診器」は、1816年、フランス人医師、René-Théophile-Hyacinthe Laënnec「ルネ・テオフィル・ヤサント・ラエネック」が発明しました。発明されてから、200年が経ちましたが、今も現役で使われています。200年以上も使われている「診断用」医療機器は、聴診器以外はほとんどありません。

心筋梗塞による「心室中隔穿孔」

「心室中隔穿孔」は心筋梗塞により心室中隔という心臓の壁を栄養する血管が詰まることにより心室中隔という壁が崩れて生じる病気です。先天性の病気で心室中隔欠損症という病気があります。
心臓には4つの部屋があり、それぞれ壁で仕切られています。右心室と左心室の間にあるのが「心室中隔」です。ここに生まれつき「孔:あな」があるのが、心室中隔欠損症です。先天性心疾患の中で、一番発症率の高い病気です。左心室の血圧は100、右心室の血圧は20くらいですから、心室中隔に孔があると左心室から右心室に血液が流れます。生まれつき孔が開いている場合、孔が大きいと、生まれてすぐに孔をふさぐ手術後が必要となることもあります。
さて、心筋梗塞による心室中隔穿孔です。心室中隔を栄養する血管が閉塞する、そういうタイプの心筋梗塞が生じると、心室中隔に孔が開きます。そうすると、先天的に孔が開いているのと同じ血行動態になります。この孔を通る血流により、大きな心雑音が聞こえるようになります。左心室から、この孔を通して、血流が右心室に流れます。そうなると、肺に流れる血流が多くなります。心筋梗塞による僧帽弁閉鎖不全とは違って、一気に悪くなることは、そう多くはありませんが、それでも数時間単位でどんどん状態は悪化しますので、緊急手術が必要になります。

図6:心室中隔欠損穿孔手術直前のレントゲン写真
図6:心室中隔欠損穿孔手術直前のレントゲン写真

この写真を見てお解かりになるかと思いますが、肺の「うっ血」が著明です。黒い部分が肺ですが、そこが白くなっています。肺炎ではありません。「肺うっ血」と言います。心不全が生じると肺に大量の血液が「うっ滞=たまる」ために、レントゲンを撮影すると、このような画像を示すことになります。

先天的な心室中隔欠損症の手術は比較的容易ですが、心筋梗塞後の心室中隔穿孔の手術は極めて難しいのです。なぜかというと、先天的心室中隔欠損の場合、孔の周囲はしっかりとした組織です。ですから、この孔の周囲に糸をかけて特殊な布などを用いて孔を塞ぎます。心臓手術の中では基本的な手術です。しかし、心筋梗塞後の心室中隔欠損周囲の組織は、心筋梗塞で心筋が壊死しているために、極めて脆くなっています(脆くなっているから孔が開くのです)ので修復は容易ではありません。様々な手術方法が考案されてきました。1990年、Komeda-David法という方法が発表されて、その成績は一変します。
この方法は、脆くなった心室中隔欠損部周囲には糸をかけないという画期的な方法です。最初に読んだときは、一体どうやって手術をするのだろうと思いました。再三再四、論文を読み、「ああ、こういう方法なのだ」とわかった時は、ちょっと感動しました。 Komedaは元京都大学心臓外科教授 米田正始先生のことです。同じ、日本人として誇らしいですね。David先生はカナダ、トロント大学の心臓外科教授です。フルネームはTirone E. Davidです。ブラジル生まれ、ブラジル南部にあるパラナ大学出身、アメリカの病院で研修を行っています。 京都大学から、トロント大学に留学した米田先生が、David先生と共に開発したのが、Komeda-David法です。今は、この方法やこの方法を改良した方法が使われています。

図7は心室中隔に開いた孔です。プラスチックの棒で示しているのが開いた「孔(あな)」です。こちらは左心室側から孔を見ています。「孔(あな)」と言っても、心筋梗塞で、ぐずぐずと脆くなった組織ですから、わかりづらいです。何れにせよ、この孔の周りは、とても脆くなっていますので特殊な布を用いて、この孔を閉じるのは、簡単ではありません。 Komeda-David法は心室という三次元空間を構築する手術と言っても過言ではありません。構築する空間を想像しながら、心臓の脆くなっていない組織に糸をかけていきます。何れにせよ、左室と右室の間にある孔を塞ぎ、心筋梗塞によって生じた左室から、右室への血流を止めますので、血行動態は改善します。

図7-9は実際の手術図の図です。

※以下、心臓の写真があります。苦手な方はお気をつけください。

図7
図7:棒が挿入されているのは心筋梗塞で開いた孔(あな)です。

図8
図8:孔を特殊な「膜」で閉じているところです。

図9
図9:手術のために切開した心室を閉鎖しているところです(心筋梗塞で脆くなっている心臓ですので、細かいところに気を付けて繊細な針の操作が必要です)。

前述したごとく、心筋梗塞による僧帽弁閉鎖不全は細い血管の心筋梗塞が原因のことも多いのですが、心室中隔穿孔は、広範囲の心筋梗塞が原因で生じることがほとんどです。したがって、心臓の働きもかなり障害されていることが多く、手術も大変ですが、手術後の治療も大変です。

そういうわけで、心筋梗塞にならないのが、一番大切です。冠動脈疾患の危険因子をもう一度思い起こして下さい。季節の変わり目や寒い季節は、こういう病気が多く、発症します。お気を付け下さい。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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