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現代版キュリー夫妻 花粉症(2)

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2017/4/24

今回は、前回とは違った角度から「花粉症」に纏わるエピソードをご紹介したいと思います。スギ花粉症の症状(鼻汁、鼻水、目の痒み、ノドの痒み、流涙など)が、なぜ生じるかというお話をします。花粉症はアレルギー性疾患のひとつです。アレルギー性疾患は5個の型に分類されます。クームス分類と言います。

  • Ⅰ型アレルギー:
    IgEが関与します。代表的疾患として、気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、じんま疹、アナフィラキシー(蜂、ソバアレルギーなど)
  • Ⅱ型アレルギー:
    IgGが関与します。代表的疾患として、B型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝疾患、悪性貧血、橋本病、不適合輸血、リウマチ熱、円形脱毛症、自己免疫性溶血性貧血
  • Ⅲ型アレルギー:
    抗原・抗体・補体が結合した免疫複合体という物質が免疫反応で作られることによる疾患です。代表的疾患として、SLE、関節リウマチ、シェーグレン症候群、多発性動脈炎
  • Ⅳ型アレルギー:
    T細胞が関与します。他の型と違い、細胞性免疫が関与します。抗原と反応したT細胞から様々な物質が遊離して、周囲の組織障害をおこします。代表的疾患として、金属アレルギー、ツベルクリン反応、移植免疫です。
  • Ⅴ型アレルギー:
    受容体に対する自己抗体が産生されることにより発症します。代表的疾患はバセドウ病です。

アレルギーの原因となる物質を「アレルゲン」と呼称します。要するにアレルゲンがあり、それによってさまざまな「カタチ」のアレルギー症状が出るのですね。今、多くの方を悩ませているスギ花粉症ですが、そのアレルゲンはスギ花粉で、発症形式がⅠ型ということになります。
今回は、このⅠ型アレルギーについてお知らせしようと思います。

Ⅰ型アレルギー反応を解明した、石坂夫妻

Ⅰ型アレルギー反応で重要な役割を果たすのがIgE(「免疫グロブリンE」というタンパク質)です。最初にスギ花粉が体内に入る(=目や鼻の粘膜に付着する)と体内でスギ花粉に対するIgE抗体が作られます。IgEは目や鼻の粘膜にある肥満細胞(太って見える細胞であり、体の肥満とは無関係です)につきます。肥満細胞にくっついているIgEは次にスギ花粉が入ってくると、肥満細胞を刺激して、ヒスタミン、ロイコトリエンを分泌させます。このヒスタミン、ロイコトリエンが様々な症状(鼻汁、目の痒みetc.)を引き起こします。IgEは、このⅠ型アレルギー反応の主役です。免疫グロブリン(Immunoglobulin)は5種あります。IgG、IgM、IgA、Igについで見つかったのがIgEで紅斑を示す(Erythema)のEがつけられています。と、簡単に書きましたが、これが決まるには大変な出来事があったのです。

Ⅰ型アレルギー反応を解明したのは、米国デンバーにあった小児喘息研究所免疫部長 石坂公成(いしざかきみしげ:1925-:1948年東京大学医学部卒)、石坂照子(いしざかてるこ:1926-:1949年東京女子医科大学卒)夫妻です。IgEを発見したのは、石坂公成博士ですし、IgEが肥満細胞に付着し、そこにアレルゲンが付着するとヒスタミンやロイコトリエンが遊離されるのを発見したのが、石坂照子博士です。石坂公成博士がIgEを発見したことを、ニューヨークで行われた全米アレルギー学会の進歩で発表したのが1966年2月20日で、日本アレルギー学会はこの日(2月20日)を「アレルギーの日」と定めており、各種イベントが開催されます。

それはともかく、例えば、IgEをWikipediaで検索するとIgEは、石坂グループとスウェーデンのグループの共同で、発見したかの如くに書かれています。石坂公成先生自身の自伝には「凄い」ことがかかれています(参考文献1)。

石坂公成先生が上述の如く1966年に「γE」としてこの抗体(後のIgE)発見を発表したのですが、研究材料が不足していました。研究するためにはIgEが大量に必要です。他のImmunoglobulinは、それらを産生する腫瘍があり、多発性骨髄腫と言います。IgG産生型 60%、IgA 産生型 20%、軽鎖型 20%gです。それでほぼ100%です。他のIgM型、IgD型 、IgE型は極めて稀です。IgEを産生する腫瘍が見つかれば、その患者さんの血液中には多量のIgEがあるので研究がはかどります。
1966年当時、石坂(公)先生が研究していた米国でIgE産生型の多発性骨髄腫の方を見つけることができませんでした。そんななか、1967年、スウェーデンウプサラ大学の内科医 Johansson SG(ガナ、ヨハンソン)と生化学者の Hans BENNICH(ハンスベニク)から、石坂(公)先生の下に、スウェーデンに「γE(後のIgE)らしきImmunoglobulinを産生する多発性骨髄腫」の患者さんがいるらしいとの連絡があり、石坂(公)先生がその患者さんの血液を色々と検査したところ、γEを産生する腫瘍に間違い無いことがわかったのです。
しかし、その後、石坂(公)先生がスウェーデンのグループに、この患者さんの血漿(IgEが大量に含まれる)を送ってもらい協同研究するように持ちかけたのですが、突然音沙汰無しとなってしまったそうです。音沙汰無しになっただけでは無く、石坂(公)博士が発見した「γE」抗体を、スウェーデンのグループが勝手に「自分たちが発見した」として、「IgB」という名前にするようにWHOに命名申請したのです。石坂(公)先生は驚愕し、激怒しています。しかし、WHOの「γEの正式命名会議」が1968年2月にスイスのローザンヌで開催され、論文を先にきちんと出していた石坂(公)先生に命名権があたえられ、石坂(公)先生が命名した「IgE」が正式に使われることになったのです。アブナイ話です。

なぜスウェーデングループが石坂(公)先生にIgEを大量に含んだ血漿を送らなかったか、後年、明らかになります。この患者IgEを用いた検査方法をスウェーデンの医師グループとスウェーデンの製薬会社ファルマシア社が特許を申請し、10数年にわたって特許を独占していたのです。しかし、その特許も10数年後、石坂(公)先生に間違いを指摘され特許は維持できなくなってしまいました。でも10数年間、スウェーデンの研究者グループとファルマシアはこの検査の特許を独占することができていたのですから、それはそれで良いでしょう。

スウェーデンのグループは、血漿を隠していたため、論文発表が遅れます。それまでに石坂夫妻のグループは、ほぼIgE関連でわかったことは発表しています(参考文献2-7)。後に、スウェーデンのグループは石坂夫妻と共同でIgEに関する論文を発表していますが(参考文献8)、論文引用回数は上記の参考文献2-7と比して三桁違います。血漿を隠さず、石坂(公)先生と協同研究をしていれば、道は違ったかも知れません。

数々の賞を受賞、「現代版キュリー夫妻」とも呼ばれる

IgEを発見し、他のImmunoglobulin(IgG、IgM、IgA、IgD)はⅠ型アレルギー反応には関与しないことや、IgEがⅠ型アレルギーで果たす役割を発見した石坂夫妻は数々の賞を受賞しています。ですから、石坂夫妻は「現代版キュリー夫妻」とも呼ばれます
パサノ賞(アメリカ国内における顕著な医学的業績を挙げた研究者を表彰、これまで日本人は石坂夫妻のみ)は夫妻の共同受賞です。他の、ポールエールリッヒ賞、ガードナー賞、学士院恩賜賞、文化勲章は石坂公成博士単独授賞です。夫妻で共同受賞してもしかるべきだと思っています。しかしただ一つ、受賞していないのが「ノーベル賞」です。大学時代、石坂夫妻が「次のノーベル賞」だと聞いていました。それから幾星霜、残念なことに、受賞の報はありません。今でも、IgEの発見やⅠ型アレルギー反応の解明にノーベル賞の栄冠が輝いても不思議はありません(参考文献9)。受賞しないのは、スウェーデンのグループと軋轢があったからかも知れません。

石坂公成先生は、帰国後山形に在住し、重い病に伏している奥様の看病に当たられています。すでに91歳です。奥様は90歳。
今年こそ、是非、受賞して欲しいと思います。

【参考文献】

  1. 我々の歩いて来た道―ある免疫学者の回想 石坂 公成(著) MOKU出版刊 (石坂夫妻が歩んでこられた道のりが書かれています。とても面白い本です。その場にいないとわからない生々しい話が沢山でてきます。)
  2. Ishizaka K, Ishizaka T, Hornbrook MM (1966). "Physico-chemical properties of human reaginic antibody. IV. Presence of a unique immunoglobulin as a carrier of reaginic activity". J. Immunol. 97 (1): 75-85.
  3. Ishizaka, K. Ishizaka, T. and Hornbrook, M. M. Physicochemical properties of human reaginic antibody. IV. Presence of a unique immunoglobulin as a carrier of reaginic activity. J. Immunol. 97:75 1966
  4. Ishizaka, K. Ishizaka, T. and Hornbrook, M. M. Physicochemical properties of reaginic antibody. V. Correlation of reaginic activity with γE globulin antibody. J. Immunol. 97:840 1996
  5. Ishizaka, K. and Ishizaka, T. Identification of γE-antibodies as a carrier of reaginic activity. J. Immunol. 99:1187 1967
    Ishizaka, K., Tomioka, H. and Ishizaka, T. Mechanism of passive sensitization. I.Presence of IgE and IgG molecules on human leukocytes. J. Immunol. 105:1459 1970
  6. Ishizaka, K. and Ishizaka, T. Immune mechanism of reversed- type reaginic hypersensitivity. J. Immunol. 103:588 1969
  7. Ishizaka, T. and Ishizaka, K. Triggering of histamine release from rat mast cells by divalent antibodies against IgE receptors. J. Immunol., 120: 800 1978
  8. Bennich H, Ishizaka K, Ishizaka T, Johansson SG. A comparative antigenic study of gamma E-globulin and myeloma-IgND. Bennich H, Ishizaka K, Ishizaka T, Johansson SG.
    2から8まで、全てIshizaka K(石坂公成), Ishizaka T(石坂照子)の名前が入っています。現代版キュリー夫妻と呼ばれる所以です。
  9. 2016年ノーベル生理学・医学賞を予想するその1 アレルギー反応機構の解明〜IgEの発見編(日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ)

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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