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細菌にまつわるパリからのすてきな贈り物「BCG」(2) 人間到る処バイキンあり(6)

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2016/12/12

世界で分かれるBCG接種の対応

前回、BCGの話をいたしました。おさらいをするとBCGは、Bacille de Calmette et Guérin の略で日本語にすると「カルメット・ゲラン桿菌」です。いま、日本で使われているBCG菌は今から90年前、志賀潔がパリから持ってきた菌です。日本では、以前はツベルクリン反応が陰性だと「結核予防」のためにBCG接種を行っていました。2005年からは、生後6ヵ月までにツベルクリン反応を行わずに接種します。実は、世界ではBCG接種の対応が分かれています。

  • (1)日本のように一律に年齢で接種する国は、フランス、ロシア など
  • (2)ハイリスク群にのみに接種する国は、ドイツ、オランダ など
  • (3)接種を行わない国は、アメリカ など

に分かれます。そこで問題が生じます。
日本人ですと普通はBCGを打っているので、アメリカの地でツベルクリン反応を行うと陽性になります。そうするとアメリカでは、かなり厳密な結核検査が要求されます。いくらBCGを打ったと言っても結核感染を疑われてダメなのだそうです。なんということでしょう。

BCG接種

私が何故、BCGに詳しくなったか

さて、今回は私が何故、BCGに詳しくなったかをご説明しましょう。
色々な医学の雑誌があります。そういう雑誌に論文を載せるには「査読」が必要になります。医学雑誌にある「論文」を投稿しても全てが掲載されるわけではありません。その論文が、その雑誌に掲載に値するかどうかを判断する必要があります。通常数名の担当者(査読委員)が応募してきた論文を読み、その論文が応募した雑誌に載る価値があるかどうかの判定をします。それが「査読:peer review、ピア・レビュー」という作業です。
私も以前、各種雑誌の「査読委員」をやっていました。ある雑誌から、「膀胱腫瘍に対するBCG療法後に生じた心臓血管疾患に対する外科治療経験」という論文の査読依頼がきました。私は泌尿器科医では無いので「膀胱腫瘍に対するBCG療法」を知りませんでした。査読をするため、膀胱腫瘍に対するBCG関連の論文をたくさん読んで勉強しました。
100年以上前から結核患者さんに癌が少ない事が解っており、1930年代に既にBCGを用いたがん治療の報告がありましたが、効果は、はっきりとしませんでした。しかし、1976年、カナダのモラレス医師が膀胱癌に対して、BCGの膀胱内注入療法を考案し、実際に患者さんに使い始めました。抗癌剤としての効果も高く、世界的にも広まり、今では「ある種の膀胱癌の標準治療」になっています。
この治療の極めて稀な副作用として「心臓や血管に病気を引き起こすことがある」と、この論文査読のために勉強して、始めて知りました。
具体的には膀胱内に注入したBCGが 1.血流を介して全身に運ばれて動脈壁に付着して動脈を壊す「感染性動脈瘤」、2.BCGが心臓の弁膜に付着して弁膜を壊す「BCG感染性心内膜炎」という病気が生じることがあるのだそうです。その時点でも10数例しか世界で報告がありません。そのとても稀な「BCG菌により引き起こされた心臓血管疾患」をきちんと診断して、外科治療にも成功したという要旨の論文でした。
査読をするのは結構大変なのですが、新しいこと、知らないことを勉強するのは楽しいことなので結構楽しみながら、査読作業を行いました。

それから約1ヵ月後のことです。私が勤務していた病院に「原因菌不明の僧帽弁位感染性心内膜炎」の患者さんが紹介されました。心臓エコー検査をすると、心臓の中にある僧帽弁という弁膜が破壊され、ばい菌の塊(vegetationと言います)が僧帽弁について「ふらふら」しているのが、見えました。この患者さんには僧帽弁置換術(ばい菌によって破壊された僧帽弁を人工弁に交換)か僧帽弁形成術が必要です。しかしこの病気を引き起こしている細菌(起炎菌といいます)がわからないと、効率の良い抗生物質投与ができません。起炎菌がわからないと、手術をしても、再発することがあります。ですから何とか起炎菌を探るために、血液培養が繰り返されていました。起炎菌はわからないまま、私が勤務していた病院に、手術を目的として紹介されてきました。

手術が必要だということで入院中の患者さんに色々と話を伺いました。手術をする前には、よくよく話を聞くことが必要です。よく話を聞くと、色々なことがわかるのです。
いつも通り、色々と、お話を伺っていたら、心臓病を発症する前に「膀胱癌で治療を受けていた。その治療後に熱が出た。それから心臓が悪いと言われた。膀胱癌はほぼ治っていると言われている」と話してくれました。
もしや?まさか?その治療にBCGを使ったのではないか?と思い、膀胱がん治療を行った病院に問い合わせました。「当たり」でした。この患者さんはBCGによる膀胱癌治療後でした。BCGがこの患者さんに生じている感染性心内膜炎の原因菌であることが予想されました。それを証明するには極めて特殊な血液培養検査が必要です。通常では行わない検査です。BCGが起炎菌なら普通の血液培養検査をくりかえし行っても、絶対に検出されません。BCGを検出するための特殊血液培養検査を行ったら、すぐに血液からBCGが検出されました。ただちに結核治療に準じた治療を開始して、無事手術(僧帽弁置換術:そうぼうべんちかんじゅつ)を終え、患者さんは元気に退院しました。内科の先生から「この病気の起炎菌が解ったのは凄い」と誉められました。

これも「偶然=セレンディピティ」です。私が上記の論文を査読していなければ恐らく何も解らないまま手術をして、手術後にBCG感染が続き、悲劇的結果を生じていたかもしれません。それを思うと「偶然=セレンディピティ」の恐ろしさを感じます。私にもまだ、訳がわからないけど「カミサマ」が付いていたのだと勝手に思っています。今風なら「神っていた」のだと思っています。それはともかく、そういう訳で、私はやけにBCGに詳しい外科医になったのです。

補足:

志賀潔の顔写真

膀胱癌の抗癌剤治療に用いられたBCGは志賀潔がパリのパスツール研究所から持ってきた菌を大事に継代培養したBCG菌です。各国でBCG菌を継代培養していますが、日本のBCG菌はカルメット・ゲランの培養法に沿った方法で行われており、初代BCG菌と殆ど変わらないと言われいています。
泉下の志賀潔先生も、まさか、自分がパリから持ってきたBCG菌が膀胱がん治療に使われ、そしてその副作用で弁膜症を生じるなど思ってみなかったと思います。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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