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解熱、鎮痛剤でおなじみアスピリンと冠動脈閉塞予防 冠動脈疾患(8)

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2016/07/19

アスピリンの起源はヤナギにあり

これまで、ニトログリセリン、βブロッカー、カルシウム拮抗剤など、冠動脈疾患治療薬について書いて参りました。今回もその続きとして、冠動脈が血栓(血の塊)で閉塞するのを予防する薬「アスピリン」についてお伝えしようと思います。

アスピリンは150年近い歴史がある薬です。今も世界中で、広く使われています。色々な作用があり、色々なエピソードがあります。

一般的にアスピリンは解熱、鎮痛剤として使われます。冠動脈の閉塞予防で使われるのは低用量のアスピリンです。そのアスピリン量としては1日量が80−100mg程度です。解熱鎮痛剤として使うなら、その10倍以上の量が必要です。
なお、アスピリンはピリン系のお薬ではありません。アスピリンはヤナギの樹皮から合成された物質にその起源があります。古来、色々な植物の樹皮や植物そのものに鎮痛作用があることが知られていました。ヒポクラテスはなかでも「ヤナギの葉や樹皮」に鎮痛解熱作用があることを書き残しています。日本でも歯痛には「柳楊枝が効く」と言い伝えられてきました。このヤナギに科学の目を向けたのはイギリス人聖職者エドワード・ストーン(Edward Stone)です。

彼はマラリアが流行っている地域でもヤナギがたくさん生えていることから(この理屈は、少なくとも私には理解不能です)、ヤナギの樹皮に抗マラリア作用がある物質があると考え、乾燥させたヤナギの樹皮を細かく砕いて、50名の患者に投与したのです。投与後、解熱したり痛みがおさまったりしました。この結果についての手紙を1763年4月25日に記して、英国王立協会会長に送りました。それが現在も残っています。重要な発見だったので、その手紙は後に、出版もされました。しかし、残念なことに彼の名前が間違えられて出版されています。Edward StoneがEdmund Stoneになっているのですね。
これがその文献の表紙です。Edwardsのはずが、Edmundになっています。

EdwardsのはずがEdmund

閑話休題、ヤナギの樹皮の成分分析をしたのは、フランスの薬剤師アンリ・ルルー (Henri Leroux) とイタリアの科学者ラファエレ・ピリア (Raffaele Piria) で、1830年のことです。彼らは解熱成分を分離してサリシンと名づけます。サリシンはラテン語の salix=「柳」から命名されています。このサリシンは体内で分解されてサリチル酸として作用します。ピリアはサリシンから、サリチル酸の分離にも成功します。
これとは別にセイヨウナツユキソウ(学名:スピラエラ・ウルマリア)という植物から分離されたスピール酸も同様な鎮痛解熱作用を持っていることがわかりましたが、後年、スピール酸とサリチル酸は同一物質であることがわかっています。スピール酸はイボ切除用「スピール膏」にその名を留めています。

解熱鎮痛作用は強いが、胃炎を生じやすかったのを改良

さてサリチル酸です。解熱鎮痛作用は強いのですが、胃炎を生じやすく、服用するとかなりの頻度で胃痛を生じていました。それを解決したのはドイツバイエル社のフェリックス・ホフマン(Felix Hoffmann)です。
彼の父親は関節リウマチによる痛みに苦しみ、サリチル酸を服用していましたが同時に胃痛にも苦しんでいました。それを見て、親孝行だったホフマンはサリチル酸の改良に取り組み、サリチル酸にアセチル基を付与したアセチルサリチル酸の合成に成功します。アセチルサリチル酸は消化管への影響がサリチル酸より圧倒的に少なくなり、今でももちろん現役バリバリで使われています。
1899年3月6日、バイエル社は、アセチルサリチル酸を「アスピリン」と商標登録します。アはアセチル基の「ア」から、「スピリ」はセイヨウナツユキソウの学名:スピラエラから名付けられています。アスピリンによる胃腸障害はかなり減少しましたが、それでも胃腸障害が生じることがあるので制酸剤とアスピリンを混ぜたのが「バッファリン」です。Buffer=緩衝するから、その名の由来です。

話は戻りますが、アスピリンがなぜ、痛みを和らげたり、熱を下げたりできるのか長らく不明でした(注:作用機序は不明だけど「効く」薬はたくさんあります)。それが解ったのは1960年代後半のことです。英国王立外科学校基礎研究所のジョン・ベインとプリシラ・パイパーがその作用機序を発見しました。
彼らはラットの肺に卵白を投与するとラット肺はショック状態になることを発見、そしてこのショック肺で作られる物質を動脈や気管に投与すると動脈も気管も収縮することを発見。この物質がプロスタグランディンであることを同定、同時にアスピリン投与でこのプロスタグランディン生成が抑制されることを発見。アスピリンのこの作用が、鎮痛解熱作用の本態であることを発見。それが1971年のことで、ジョン・ベインはその業績で1982年ノーベル賞を授賞します。

早すぎて誰にも理解されなかった発見

ここまではアスピリンの鎮痛作用の話です。ここから本題の冠疾患治療の話に戻ります。1940年代、アメリカでは扁桃摘出術がたくさん行われました。この時、米国カリフォルニア州の開業医(耳鼻科が専門!)だったローレンス・クレーベン(Lawrence Craven)医師にセレンディピティが訪れます(文献1)。

クレーベンは扁桃腺摘出術後の鎮痛剤としてアスピリン含有ガムを噛むように患者さんに勧めていました。ある時、アスピリン含有ガムを投与した患者さんで出血が「ひどく」多いことに気づきます。クレーベンはアスピリンが血液を固まりにくくしていると推定します。そしてアスピリンを投与すれば動脈の閉塞が防げるのでは無いかと考え、彼の患者にアスピリンを投与します。
最初は1948-1950年に400名の患者さんにアスピリン投与したところ、心筋梗塞も、脳梗塞も発症率がゼロだったと報告します。その後、1950-1956年、45-65歳、8000人!の男性患者にアスピリンを投与します。観察期間中に、心筋梗塞、脳梗塞を発症した患者さんはゼロでした。
その結果は1956年9月にMississippi Valley Medical Journalという無名の雑誌に掲載されますが、残念なことにクレーベンは翌年、狭心症?でお亡くなりになっています。あまりにもその発見(アスピリンに心筋梗塞、脳梗塞予防があること)が早すぎたので誰にも理解されなかったのだと思います。耳鼻科が専門だったのも仇になった可能性があります(文献2-5)。

低用量アスピリンの投与が脳梗塞、心筋梗塞予防の標準治療に

アスピリンに抗血小板作用があることが薬理学的に証明されたのが1967年のことです。1980年代に大規模スタディが世界中で行われ、低用量アスピリン投与が脳梗塞、心筋梗塞を予防することが裏付けられます。1988年以降、世界中で低用量アスピリンの投与が脳梗塞、心筋梗塞予防の標準治療となりました。
ローレンス・クレーベン(Lawrence Craven)は「そんなことは今から40年も前に俺が発見していた」と天上で呟いているかもしれません。彼は生存中、全く無名でした。もう少し長生きしていれば世の賞賛を浴びたことでしょう。しかし、医学の歴史に彼の功績はしっかりと残りました。これも彼が「きちんと書き残した」からです。以前も書き残す必要性を書きましたが、再度強調したいと思います。

なお、血小板凝集抑制作用は低用量アスピリンでないとその作用を発揮しません。それが面白いところです。鎮痛解熱剤として使う一日1.5グラムの投与では血小板凝集抑制作用は認められなくなります。その量だと、血管内皮細胞が作るプロスタサイクリンの生成も抑制するので、血小板凝集抑制作用が無くなってしまうからです。ややこしいですね。要するに低用量アスピリンは心臓や脳の血管閉塞を予防するけれど鎮痛剤としての使用量ではそういう効果は認められないと覚えておいてください。
外科医にとって、しかし、この低用量アスピリンは実に厄介です。低用量アスピリンを服用している患者さんの手術をすると血が止まりづらいのです。多くの狭心症患者さんはこの薬を服用しています。緊急で無い場合は一週間休薬して手術をしますが、緊急時はそんなことを言っていられないのです。そういう場合、止血に時間がかかります。結局は止血できるのですが、実に厄介でした。

次回は、アスピリンと「癌」についてお話しします。

【参考文献】

  1. Miner J1, Hoffhines A.The Discovery of Aspirin's Antithrombotic Effects:
    Tex Heart Inst J. 2007; 34(2): 179-186.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1894700/
    全文が読めます。
  2. CRAVEN LL、Acetylsalicylic acid, possible preventive of coronary thrombosis.
    Ann West Med Surg. 1950 Feb; 4(2):95.
  3. CRAVEN LL、 Coronary thrombosis can be prevented.
    J Insur Med. 1950 Sep-Nov; 5(4):47-8.
  4. CRAVEN LL、 Experiences with aspirin (Acetylsalicylic acid) in the nonspecific prophylaxis of coronary thrombosis.
    Miss Valley Med J. 1953 Jan; 75(1):38-44.
  5. CRAVEN LL、Prevention of coronary and cerebral thrombosis.
    Miss Valley Med J. 1956 Sep; 78(5):213-5.

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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